2階「アガサ」1階「クリスティー」 原宿・竹下通りの店舗看板にネットざわつく “2店の関係”を確かめに行ってみた

原宿・竹下通りで発見された、ふたつの店舗看板「アガサ」と「クリスティー」。続けて読むと英国の推理小説家アガサ・クリスティーの名が浮かび上がります。これは果たして偶然か? 必然か? 真相を確かめに現地へ足を運びました。


投稿者も「初めて気が付いた」

 2021年9月、ツイッターに投稿された1枚の画像が大きな話題となりました。

 投稿したのは漫画家で整理収納アドバイザーの阿部川キネコさん(@kinekofu)。東京は原宿・竹下通りの一角を撮影したもので、

「四年ほど原宿に通いながら今日初めて気が付いた原宿のアガサ・クリスティー」

というひと言が添えられていました。

アガサが先か、クリスティーが先か?

 その言葉通り、画像には「2F アガサ」「1F クリスティー」と書かれた店舗の看板が。両店の名を続けて読むとアガサ、クリスティー。英国が生んだ偉大な推理小説家、アガサ・クリスティー(1890~1976年)の名が浮かび上がるではありませんか。

原宿・竹下通りで発見された看板。ふたつ続けて読むと、アガサ・クリスティーに?(画像:阿部川キネコさんのツイート、ULM編集部でトリミング)



 これにはツイッターユーザーたちも思わず反応し、

「マジですか~これ!」
「これ絶対どっちかがどっちかを意識して(店名を)つけたんじゃない?」
「アガサが先か、クリスティーが先か。。。」
「アガサが後に入居に一票」
「同じオーナーなのかな?」
「偶然だったらびっくりすぎ」

と、さまざまに推理するリプライ(返信)が寄せられました。集まった いいね の数は2021年9月22日(水)16時現在、9500件超。

 事の真相を確かめるため、まずは投稿者である阿部川さんに話を聞きました。

思わず立ち止まり振り返った看板

 阿部川さんは毎週金曜日、仕事の関係で原宿へ足を運んでいるのだそう。

「新型コロナウイルス感染拡大以前の竹下通りは人通りが多く、とても上を見て歩けませんでしたが、コロナで人通りが減ったためにふと上を見る余裕ができて(原宿に通って)4年目にしてやっと気が付きました」

「ふとアガサが目に入って、アガサ・クリスティーが好きなのでへーと思ったそばから、下にクリスティーの文字。通り過ぎた後、アガサ……クリスティー?!って思わず立ち止まって振り返ってしまいました。でも仕事に行かねばならないのでそのときは写真を撮らず、仕事の後に写真を撮りました」

数々の名作を生み出した推理小説家アガサ・クリスティーの自伝の表紙(画像:HarperCollins Publishers)



 撮影し、ツイッターに投稿したのは9月17日(金)。看板には、アガサはレンタルスペース、クリスティーは紅茶専門店との説明書きもあり、それに気が付いたときは「紅茶だからクリス“ティー”かあ!」と、さらに面白みが増したのだとか。

 ちなみにクリスティーの方は古くからあるお店のようで、ツイッターの投稿を見たユーザーからは

「クリスティーの『フル イングリッシュ ブレックファースト』は紅茶込みで880円(税込み)! マジオススメだからぜひお試しください! ほんとおいしいです」

との情報も寄せられています。

 ただ、クリスティーと比べてアガサに関する情報はほとんど見られず、両店の関係は謎に包まれたまま。

 アガサ・クリスティーの小説好きという阿部川さんも「アガサが先かクリスティーが先か、はたまたまさかの偶然なのかなど、気になることがいろいろあります」と興味津々。

 満を持して現地へ取材に行ってみることにしました。

原宿駅1分、路地裏の隠れた名喫茶

 JR原宿駅の表参道改札を出て竹下口に降りると、信号をはさんだ目の前に竹下通りが現れます。言わずと知れた、多くの若者が集うカルチャーストリートです。

 竹下通りをくだってわずか1、2分。ひとつめの曲がり角にある「ドッグカフェRio」のビル壁面に、くだんの看板ふたつが取り付けられているのを確認しました。その角を右に曲がった先に、まずは「自家製ケーキとおいしい紅茶のお店 クリスティー」と掲げた路面店を発見。歴史と味わいを感じさせる趣深い店構えの喫茶店です。

竹下通りの角をひとつ曲がったところに、紅茶専門店「クリスティー」を発見(2021年9月21日、遠藤綾乃撮影)



 店の経営者は、宮本眞太郎さん。家族でお店を切り盛りしていて、突然の来店にも関わらず快く応じてくれました。いわく、この場所に「クリスティー」を開店したのは1980(昭和55)年のことだったといいます。

「もともと私の母の姉(伯母)がここの地主で、私の父が借地をしてこのビルを建てました。41年前です。私自身は当時サラリーマンをしていたのですが、数年の転勤を伴う異動事例が出たのを機に思いきって会社を退職。ビルの1階でお店を開くことを決めたのが始まりです」

 喫茶業をやりたいと思っていたものの、当時すでに竹下通りは数軒のコーヒー専門店が建ち並ぶ激戦区。全くの未経験の自分はかなわないと思いあぐねていましたが、「紅茶専門店はほかにないからお店を開けるのでは?」といったアドバイスを受けて店の方向性を決めました。

 都内や大阪の専門店へ修業に行き、茶葉の生産地を知るためにスリランカへも飛び、怒涛(どとう)のごとく知識を積んで1980年10月6日、クリスティーの開業にこぎつけました。

喫茶店クリスティー、名前の由来は?

 肝心の店名は、どのようにして決めたのでしょうか。

「『砂時計』とか、いくつか案はあったんです。そんなとき友人の奥さんが、推理小説好きということでアガサ・クリスティーの本を2、3冊『貸してあげる』と持ってきてくれたんです。『作中に紅茶を飲む場面がたくさん出てくるから、きっとヒントになると思うよ』って」

1980年からクリスティーを経営する宮本さん(2021年9月21日、遠藤綾乃撮影)

「借りた本のタイトルはもう忘れてしまいましたが。小説を読む中で、クリスティーというのは良い響きだな、しかも最後の『ティー』はお茶(tea)という意味もあるな、と思い立って、これにしよう! と決めたのでした」

 やはり喫茶店クリスティーの由来はあのアガサ・クリスティー。しかもティーとteaを掛けていたという点まで、投稿者・阿部川さんの推理は当たっていたことが分かりました。

アガサとの名前の合致、偶然か必然か

 それでは残るアガサはどうでしょう。もともと1階にあるクリスティーに合わせて、後から入居したアガサのオーナーが気を利かせて名前を付けたのでしょうか。アガサの取材へと移ろうとすると、

「いえ、実はアガサも私が経営しているものなのです。この喫茶店の2階にあります」。

 宮本さんのこの言葉で、ようやくアガサ・クリスティーの謎が少しずつ明らかになりました。

「2階は、もとは(地主である)伯母がひとりで住んでいました。伯母は日本舞踊をしていたので、広い畳の日本間でした。ところが10年ほど前に亡くなってしまい、2階をどうしようかと考えて、原宿駅からも近いし、レンタルスペースなら人手も掛からないしということで、改装してオープンさせたのがアガサです」

 そう言う宮本さんに案内されて、アガサの内観を見せてもらいました。

アガサはクリスティーの“姉妹店”。ダンスのレッスンなどができるレンタルスペースだった(2021年9月21日、遠藤綾乃撮影)



 クリスティーの店舗脇にある階段を上ると、アガサの赤い扉が出現。開けると中は、鏡張りの壁にフローリング敷きの広いフロア。音響設備もあります。広さはおよそ54平方メートル。10人ほどでダンスの練習をするのにちょうど良さそうなスペースです。

「実際、ダンスのレッスンやヨガ、ミスコンテストのウオーキング指導など、ありがたいことに皆さんに使っていただいています」

 料金は1時間2000円から。原宿駅から徒歩1分という立地を考えると、かなり良心的と言えるのではないでしょうか。

「もうお分かりかと思いますが、このレンタルスペースをオープンするとき店名をどうしようかと思って『クリスティー・セカンド』とか『クリスティー・ジュニア』とかも浮かんだんですけど、どうせなら『アガサ』にすれば、看板をふたつ並べて出すときにアガサ・クリスティーになって面白いかなって思ったのが店名の由来なんですよ」

と宮本さん。今回ツイッターで話題になったことをあらためて伝えると、

「竹下通りに来る今どきの若い人たちは、よほど推理小説好きな人でないと『アガサ・クリスティー? 誰それ?』といった反応なので。今回気づいていただいて、とてもうれしかったです」。

目まぐるしく変化した原宿の風景

 宮本さんは子どもの頃から、およそ70年にわたり原宿・竹下通りを見つめ続けてきました。その目覚ましい変貌の過程を今、あらためて懐かしく振り返ります。

「私が子どもの頃なんて、竹下通りは夜になると真っ暗でした。このビルももともとは魚屋と仕出し屋をやっていた場所なんです。竹下通りに魚屋さんなんて、今では考えられないですよね」

「竹下通りやこの周辺には、時代ごとに流行の衣料品店(アパレルショップ)ができて、インターネットがない時代なんて地方から来た若者が早朝から大行列を作ったものでした。甘いもの(スイーツ)もいろいろ移り変わりましたね。ついこの間まではタピオカというミルクティーに入れた飲み物がはやっていましたが、今は(竹下通りでは)かなり減ったのではないでしょうか」

「リンゴあめ、イチゴあめ、大きなわたあめ、そういうファッション性を帯びた食べ物は、しぼむときはすぐのようです。その点、クレープ屋さんはどこもずっと残っている。竹下通りといえばクレープ、と根付いてつぶれないのは、やはりすごいことだと思います」

 かく言う宮本さんのクリスティーも、41年にわたってこの場所にお店を構え続けてきました。

「おかげさまで、長く続けています。もともと青山学院大学や立教大学、慶応大学などの学生たちが多く利用してくれる店で、アルバイトもそうした学生たちに頼んできました。親子2代にわたって働いてくれている人も何組かいますよ」

「イギリスでよい食事をしようと思うなら、朝食を三度とればいい」。英作家ウィリアム・サマセット・モーム『月と六ペンス』の名言から生まれた自慢のひと皿(2021年9月21日、遠藤綾乃撮影)



 愛され続けるクリスティーの人気メニューは、香り高いイギリススタイルの紅茶およそ30種類に加えて、ツイッターのユーザーも薦めていた「フル イングリッシュ ブレックファースト」。

 ふわふわのスクランブルエッグ、カリカリのベーコンやソーセージ、トーストがのったワンプレートは、クラシカルで上品な味わいながらお腹いっぱいになる大満足の1品でした。

また原宿に若者が戻るのを願って

 コロナ禍の影響で、かつてより客足の減った竹下通り。レンタルスペース「アガサ」も定期的に行われていた集まり――例えばロリータ・ファッション愛好家たちのつどいは、今は休止になっているといいます。

「皆さん元気にしているか、気になりますね。また戻ってきてほしいです」と宮本さん。

 東京都内の新型コロナ新規感染者数は、ワクチン接種の広がりと併せて着実に減少に転じています。9月21日(火)には、検査数が少なかったとはいえ3か月ぶりに300人を下回りました。

※ ※ ※

 何度も通っているはずの道に、まだ気づいていない不思議や驚きが隠されている東京の街角。

 緊急事態宣言の解除や新型コロナの本格的な収束を待って、再び気兼ねなくお出かけできる日々が訪れるのが待ち遠しい。そんな気持ちにさせられる、原宿・竹下通り「アガサ・クリスティー」の看板でした。


【画像】アガサとクリスティー、店内を見る(19枚)

画像ギャラリー

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