昭和の小学校に必ずあった「飼育小屋」が知らぬ間に姿を消したワケ

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昭和の小学校に必ずあった「飼育小屋」が知らぬ間に姿を消したワケ

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日野京子

エデュケーショナルライター

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昭和時代の小学校にあった動物の飼育小屋。しかし今ではその数を急激に減らしています。いったいなぜでしょうか。エデュケーショナルライターの日野京子さんが解説します。

戦前から行われていた動物飼育

 昭和の小学校に、ウサギ小屋やニワトリ小屋、小鳥小屋といった飼育小屋は当たり前のようにありました。生き物係は朝や業間休み、昼休みに餌をやったり、水を交換したりと、クラス内では責任ある係のひとつでした。

 動物もそれぞれ性格があり、凶暴なニワトリは一様に嫌われることも。飼育小屋のある小学校に通っていた人はひとつやふたつ、記憶に残るエピソードを持っていることでしょう。

小学校のウサギ小屋のイメージ(画像:写真AC)



 そもそも、なぜ小学校でウサギやニワトリを飼うようになったのでしょうか。

「東京未来大学研究紀要 第7号(2014年3月発行)」記載の「昭和10年代の理科教育における「学校飼育動物」を用いた教授内容と実践記録」によると、小学校での動物飼育は明治後半から行われるようになり、昭和10年代後半に初等科理科教育の一環として、ニワトリやウサギが飼育され、広がっていったとされています。

 このように、小学校での動物飼育は国の教育方針もあって長い歴史を持ち、当たり前のように行われてきました。

 それこそ、祖父母世代から「小学校で何かしらの動物を飼っている」という環境ですから、子どもや親としても「なぜ小学校で動物を飼育するのか」とわざわざ疑問に思う人も少なかったと考えられます。

感染症への危惧

 しかし、2000年代に入ると状況は一変しました。その発端となったのが、鳥インフルエンザです。2003(平成15)年にオランダとベルギーで流行し、獣医師ひとりが亡くなりました。

 2004年は日本国内でも発生。翌2005年は東南アジアで大はやりし、現在も国内外問わず断続的に発生しています。鳥インフルエンザに感染した鳥に接触した場合、まれに発症することもあることから、学校での鳥やニワトリの飼育に対する不安が次第に高まっていきました。

 大手前大学(兵庫県西宮市)の中島由佳教授の「鳥インフルエンザ後の学校動物飼育の実態調査および子どもの心理的発達への飼育の効果究」(2020年)を読むと、学校での動物飼育の変化が明らかになっています。

 2017年から2018年にかけて全国約2000校の小学校に聞き取り調査を行い、それと並行するように、大学生に小学生時代(2003年~2012年)の動物飼育のアンケート調査も実施。

小学校のニワトリ小屋のイメージ(画像:写真AC)



 学校での「動物飼育なし」の割合は6.6%(2003年~2012年)から、14.2%(2017年~2018年)と倍増。飼育している動物の種類も、大学生でのアンケートでは鳥と哺乳類が86.4%を占めていましたが、2017年~2018年の調査では49.1%に激減しました。

 そのかわりに「魚・両生類・昆虫」の割合が50.9%と過半数に達し、小学校での動物飼育対象が大きく変わりました。

 折しも、2002年度から公立学校で完全週休2日制がスタートしており土日の餌やりも難しくなっていました。そして鳥インフルエンザが発生し、長らく続いていた学校での動物飼育の一大転機になったのです。

東京ではモデル校を選定

 学校での動物飼育とは別に、近年はメディアでも、多頭飼いや劣悪な環境下での飼育が取り上げられ、動物愛護の考えも広がりをみせています。

 それを避けるためには学校でも清潔な環境を保たねばなりませんが、多忙な教職員にとって大きな負担になっています。感染症リスクだけでなく、意識の変化により小学校での哺乳類や鳥類の動物飼育は縮小しているのです。

メダカの水槽(画像:写真AC)



 しかし教育現場では、子どもたちが動物と触れ合う機会を設けたいと考えています。東京都では「小学校動物飼育推進校」を設定。獣医師の指導を受けながら、児童と教職員が動物の飼育に当たっています。

 生き物には寿命があり、別れは避けられません。飼っていた動物の死に直面することもあり、生と死を見つめる貴重な体験の場になっています。

 ただかわいいという気持ちだけでは動物を飼えません。世話をすることで責任感が芽生えるなど、机の上の勉強では学べない社会性を身につけられます。

 昭和のようなボロボロの小屋にウサギやニワトリが飼われている小学校は激減していますが、動物飼育を通して命の大切さを学ぶことは令和の時代になっても変わらないのです。

動物との触れ合いは貴重な体験

 以前、コロナ禍で癒やしを求めるためにペットを飼う人たちが増えているという報道がありました。学校や日常生活で制約が増えている子どもたちにとって、小学校で動物を飼育し、触れ合うことは心が穏やかになるプラス面もあります。

東京都教育委員会の動物飼育に関するウェブサイト(画像:東京都教育委員会)

 鳥類や哺乳類の飼育は減少していますが、メダカや昆虫の世話をすることでも、生き物への愛情や責任感を持つきっかけになります。

 この十数年で形は変わっていますが、小学校での動物飼育はこれからの時代も必要な教育といえます。

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