接客サービスより断然「味」を重視――外食ユーザーの志向が変化している
おかまいな食ぅ“なタイプの消費者が増加 筆者(稲垣昌宏。ホットペッパーグルメ外食総研・上席研究員)が二子玉川のセルフサービスフレンチ「ルナティック」(世田谷区玉川)を訪れると、奥さまたちがおいしそうなフレンチを囲んでランチ会を楽しんでいました。 このお店は食券制のセルフサービス式を採用することで、フォアグラやロブスターなど高級食材を使ったフレンチをファミレス並みの値段で提供するお店として有名です。 セルフサービス式のレストランのイメージ(画像:写真AC) 消費者は働き方・生活環境の変化に伴い、食事や食べ方にも多様性を求めており、外食産業や中食(総菜などの調理済みの食品を持ち帰って食べること)産業はそのような消費スタイルの変化に合わせ、さまざまな業態やメニューを開発してきました。 特に2019年は消費税増税で外食10%、中食は軽減税率が適用され8%と、2ポイントの差がつきました。 ホットペッパーグルメ外食総研が独自に調査を行ったところ、消費税増税(2019年10月)以降、普段の外食でかかるお金について、増税前より気にしている人が22.6%もいることがわかりました。たった2ポイントの差ですが、外食にはより高い満足度が求められています(n=2,064、首都圏在住、20~50代男女、過去1か月以内に外食をしたことがある人が対象。インターネットパネル調査)。 「料理 > サービス」というニーズへ 外食のコストパフォーマンスを数式に分解すると、分母がかかる「お金」、分子が料理と「サービス」というように表すことができます。 外食における消費者ニーズを表した図(画像:リクルートライフスタイル) 前述の調査で、外食する際に最も重視するものを聞いたところ、料理を細分化した「調理技術」は38.4%、「食材」は26.5%となりました。一方、サービスを細分化した「設備・空間」は21.8%、「接客」は13.4%でした。つまり最新の消費者ニーズは、 料理 > サービス となっているのです。 増税により外食コストにシビアな消費者が増え、限られた予算の中でサービスより料理を重視したいということは、すなわち、 「料理の価値:高」 × 「サービスの価値:低」 というお店のニーズが高まっていることを意味します。 前述の調査でも、おいしい料理を「セルフサービス化」または「ファストフード化」したりしたお店の評判は良いといった結果が得られました。このサービスを省力化し、料理にその分つぎ込んだお店やメニューを、ホットペッパーグルメ外食総研では 「おもて無グルメ(おもてなしぐるめ)」 と命名し、2020年に注目すべきと考えています。 「スマイル = 0円」の時代は終わった「スマイル = 0円」の時代は終わった 飲食業界側の経営環境は2019年、大きく変わりました。変わったのは、従来からの人手不足に加え、軽減税率対応やキャッシュレス推進といった、お店のオペレーション。 そんななか、対価が曖昧だったサービスについて、業界側では価値の高いもの/低いものの仕分けや、省力化するもの/やめるもの/価格転嫁するもの、などの選別を進めてきました。もはや「スマイル = 0円」で提供できる時代ではなくなったのです。 冒頭で紹介したように、消費者が外食に求める優先順位と業界側の都合(人件費高騰など)を掛け合わせたとき、ニーズの接点であるサービスを省力化して、その分料理につぎこんだ「おもて無グルメ」に注目が集まるのは当然の流れです。 実際に前述の調査でも、そのようなお店を今後利用したいという消費者は74.9%もいました。特に20代の男女や30~40代女性で利用意向が高く、今後の「おもて無グルメ」の伸びしろであることを示しています。 「おもて無グルメ」の今後の成長性(画像:リクルートライフスタイル) 外食業態ではこれまでも、立ち食いで利用者の回転率を高め、その分を食材の原価に回すなど、さまざまな試みがされてきました。この延長として、ITなど各種テクノロジーを駆使し、料理のセルフオーダー化や本格料理のファストフード化を行った試みが、あちこちで始まっています。 日本式サービスの換金化を また、サービスの対価がサービス料やチップとして可視化されている海外に比べ、日本は「おもてなし」の名目でサービスが無料提供されていたり、「お通し」のような、海外の人にはわかりづらい商習慣になっていたりします。 日本と海外における商習慣の違い(画像:リクルートライフスタイル) 無料提供を「おもてなし」として誇りに思うのも結構ですが、サービスを換金化できていないのは日本にとって損失です。サービス料をいただいた上でも、「日本のサービスは素晴らしい」と言われたときに初めて、日本でサービス業がプロの職業として確立されたと言えるのではないでしょうか? 2020年はサービスと料理の価値それぞれに明確な対価をいただき、日本としても、外食産業としても、持続可能な成長につながる元年となることを期待しています。
- ライフ