銀座・数寄屋橋交差点ビルでお馴染み? 不二家の止まらぬ「藤井3冠的」進化力とは
銀座の数寄屋橋交差点にあるビルや、近年の棋戦主催で知られる洋菓子メーカー・不二家。その歴史について、ライターの近藤ともさんが解説します。叡王戦を主催する洋菓子メーカー 将棋の藤井聡太九段が9月13日(月)、叡王戦(えいおうせん)に勝利し、史上初めて10代での3冠となりました。 叡王戦とは、洋菓子メーカーの不二家(文京区大塚)が2020年から主催している将棋の棋戦です。藤井九段が最終第5局の対局中に注文した同社のカップケーキ「コロコロしばちゃん」は注目を浴び、翌日から売り切れる店舗が続出しました。 洋菓子メーカーとしてなじみがある一方、不二家が棋戦を主催していたことを知らなかった人は少なくないでしょう。ということで、今回、そんな同社について改めて振り返ってみます。 社名に込められた「三つの意味」 不二家は、洋菓子店とレストラン(不二家レストラン)をフランチャイズ展開しており、1910(明治43)年に創業した老舗です。2008(平成20)年からは山崎製パン(千代田区岩本町)の子会社となっています。不二家という社名には ・創業者である藤井家の「藤」 ・日本のシンボル「富士山」 ・ふたつと無い存在の「不二」 の三つの意味が込められています。 数寄屋橋交差点にある不二家(画像:写真AC) 不二家といえば、銀座の数寄屋橋交差点のビルが印象的です。数寄屋橋は、戦後に一世を風靡(ふうび)したラジオドラマ『君の名は』(1952~1954年)で日本全国に知られましたが、今は「不二家(数寄屋橋店)のある場所」といったほうが話が伝わりやすいでしょう。 不二家が入居する銀座クリスタルビルの看板は、銀座のランドマークのひとつです。この看板は長く広告塔と呼ばれてきましたが、2018年3月にリニューアル。現在は「ペコちゃんビジョン」として、季節に合わせた映像が流れています。 不二家の発祥は横浜 不二家数寄屋橋店は1953(昭和28)年に開店。2階、3階の喫茶室が総ガラス張りという、当時としては斬新なデザインでした。その後、看板が大きなペコちゃんのネオンになったり、改築して赤い瓦屋根と白壁になったりした後、1982年には現在の銀座クリスタルビルへ。現在は1階が洋菓子売り場、2階は不二家レストランという構成です。 1963年頃の銀座の数寄屋橋交差点付近の様子(画像:国土地理院) しかし、不二家が最初から銀座で営業していたわけではありません。創業者の藤井林衛門(ふじいりんえもん)が不二家を開店したのは1910(明治43)年11月16日で、場所は横浜市元町2丁目86番地。不二家の発祥は横浜だったのです。開店翌月の12月、日本初とされるクリスマスケーキを発売しています。 林右衛門は1885年に愛知県で生まれ、10代半ばから横浜で働き始めました。不二家を開店した日は彼の25歳の誕生日でもありました。開店翌年には、アメリカへ洋菓子事情視察と技術習得のために出発するほどの研究熱心さで、帰国するとすぐに元町店の隣に喫茶店を新設。「ソーダ・ファウンテン」と名付けて人気を呼びました。 またその後、1個8銭のショートケーキを発売したり、伊勢崎町店ではシュークリームを販売したりするなど、洋菓子がまだ広く知られていない日本に少しずつ新しいおいしさを浸透させていきました。 「ペコちゃん」の誕生は1950年「ペコちゃん」の誕生は1950年 東京進出は1923(大正12)年で、銀座6丁目店が最初でした。しかしこの年の9月には関東大震災で店舗を失います。それでも翌年には銀座店と伊勢佐木町店を再開、やがて会社組織となり、支店や工場を増やし成長しきていきました。 終戦から5年たった1950(昭和25)年には、早くも「ペコちゃん」が誕生。翌年にはミルキーを発売するなど、現在に至る礎を築いていきます。数寄屋橋店の開店はその3年後でした。この年には、今でも七五三に欠かせない千歳飴(ちとせあめ)を、翌年には「ポップキャンディ」「パラソルチョコ」を発売。1962年には「ルックチョコレート」、1964年には「ネクター」も登場しました。こうしてみると、不二家が実に多くのロングセラーを生み出しているかがわかります。 製品の増加にしたがい、不二家は各地に工場を建てていきます。また、1965年には東京、大阪、名古屋の各証券取引市場第1部に株式上場し、日本を代表する洋菓子メーカーに。ぐるぐると渦を巻いた模様が懐かしいキャンディー「ノースキャロライナ」や「ホームパイ」が登場したのはこの少し後です。なお、今でも愛され続けている「カントリーマアム」は1984年に発売開始しています。 転機が訪れたのは2007(平成19)年。1月に消費期限切れ原料使用に端を発する一連の問題が発覚。生産・販売がほぼ停止する事態となりました。これにともない、スーパーなどでの取り扱いが停止。その余波で粉飾決算なども報道され、創業家出身の社長が辞任。3月に山崎製パンとの業務資本提携を締結することで、止まっていた生産・販売の再開がようやく可能となりました。 ポーチになった「ペコちゃん」(画像:ヴィレッジヴァンガード) ただ、山崎製パンとタッグを組んだことで、消費者にとっては商品のバリエーションが増えて楽しみも増えたのは事実です。ミルキー味の製品の多角的展開や、お菓子を超えたペコちゃんの活躍は、現在もファンを楽しませてくれています。 叡王戦のおやつの中身叡王戦のおやつの中身 いったん、話を冒頭の将棋に戻します。 第6期叡王戦第五番勝負第5局が行われた、渋谷区千駄ケ谷にある将棋会館(画像:(C)Google)今回の叡王戦で提供されたおやつがどのようなものだったかおさらいしてみましょう(肩書は対局当時)。 ●第1局 ・10時のおやつ 豊島将之叡王:アーモンドショコラ 藤井聡太王位・棋聖:プレミアムモンブラン(熊本県産球磨栗) ・15時のおやつ 豊島将之叡王:山形県産佐藤錦のミルクレープ 藤井聡太王位・棋聖:プレミアムミルキーバターサンド ●第2局 ・10時のおやつ 豊島将之叡王:アーモンドショコラ 藤井聡太王位・棋聖:プレミアムショートケーキ ・15時のおやつ 豊島将之叡王:プレミアム濃厚ベイクドチーズケーキ 藤井聡太王位・棋聖:ミルキーバウムクーヘン ●第3局 ・10時のおやつ 豊島将之叡王:瀬戸内大長レモンケーキ 藤井聡太王位・棋聖:プレミアムショートケーキ ・15時のおやつ 豊島将之叡王:瀬戸内大長レモンケーキ 藤井聡太王位・棋聖:瀬戸内大長レモンケーキ ●第4局 ・10時のおやつ 豊島将之叡王:瀬戸内大長レモンケーキ 藤井聡太王位・棋聖:熊本県産和栗のプリンショート ・15時のおやつ 豊島将之叡王:熊本県産和栗のプリンショート 藤井聡太王位・棋聖:プレミアム生ミルキー ●第5局 ・10時のおやつ 豊島将之叡王:アーモンドショコラ 藤井聡太王位・棋聖:コロコロしばちゃん ・15時のおやつ 豊島将之叡王:国産フルーツロール 藤井聡太王位・棋聖:プレミアムミルキーバターサンド おやつが提供される際に使われたお皿はミルキーの柄で、こちらもとてもキュートでした。 このほかにも「ペコちゃんお菓子BOX」が提供されました。ペコちゃんお菓子BOXは、将棋を指すペコちゃんのイラストが描かれた青い箱のなかに ・ふんわりマドレーヌ(ミルク) ・カントリーマアムチョコまみれミドルパック(チョコブラウニー) ・カントリーマアムマイスターズ(チョコブラウニー) ・ルック(アラモード) が入っています。 コラボ商品でも存在感コラボ商品でも存在感 長い歴史を持つ不二家ですが、時代をつかむ力にもたけており、女優の酒井美紀さんを社外取締役に起用したことが話題になりました。 また、アニメ『鬼滅の刃』とのコラボ商品の発売でも注目され、ロングセラーのチョコレート「ルック」のキャラクターにジャニーズのSnow Manを起用。彼らが出演するラジオ番組「不二家 presents Snow Manの素のまんま」は放送のたびにSNSのトレンド入りするなど、不二家の認知度向上に一役買っています。 また、最近ではスタイリッシュな展開も。9月22日からは銀座三越でイベント「FUJIYA Smile Switch Festa in GINZA 2021 Autumn」が開催されます。 9月22日から10月5日まで開催される「FUJIYA Smile Switch Festa in GINZA 2021 Autumn」の会場イメージ(画像:三越伊勢丹ホールディングス) このイベントは1月にも開催され、スタンプラリーやパネル展示のほか、オリジナルスイーツやグッズが販売されます。 話題のスイーツ「マリトッツオ」の不二家バージョンや限定のオリジナルお楽しみ袋を販売。商品は三越伊勢丹公式オンラインストアでも購入可能ですので、コロナ禍で参加できない人も楽しめそうです。 長い歴史を持ちながら、いまなお進化し続ける不二家。その姿は、藤井3冠という新時代のスターを迎える将棋界とリンクする部分があります。藤井3冠の今後の活躍を見守りつつ、不二家のお菓子に思いをはせるのも味わい深いかもしれません。
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