20万円の携帯電話に申し込み殺到! 90年代「世界最小・最軽量」で売れまくったムーバを覚えていますか?

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20万円の携帯電話に申し込み殺到! 90年代「世界最小・最軽量」で売れまくったムーバを覚えていますか?

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星野正子

20世紀研究家

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今や生活必需品となった携帯電話。90年代中期にその盛り上がりを支えた「ムーバ」について、20世紀研究家の星野正子さんが解説します。

携帯電話という技術革命

 携帯電話は現代人の生活の一部、どころではなく、半分くらいを占めています。あまりに当たり前過ぎる存在となったためか、新製品のスマートフォンを買っても昔のように自慢できません。

 そんなときに思い出すのが、「携帯電話を持っている」というだけで話の中心になれた時代です。

 1985(昭和60)年にショルダーホンのサービスが開始され、1987年に携帯電話が登場。移動しながら使える電話はそれまで、大企業の重役か、お金持ちのためのもの(自動車電話)でした。これを機に、一気にビジネスシーンで使われるようになります。

 この流れに、NTT以外の日本移動通信(IDO)や第二電電(DDI)などが参入し、競争が激化。そんななかで各社が端末の買い切りを導入し、契約数を増やしていきました。

 この頃は「携帯電話を持っている」、ただそれだけでライバルよりも仕事ができると思われていました。当時のNTTは携帯電話の利便性を次のように語っています。

「事務所から全員出払ってしまうことも珍しくないですよね。そんなとき留守番電話ということもありますが、携帯電話があれば、転送電話機能を付加することで出先で応答ができ、ビジネスチャンスを逃すことはまずない」(『プレジデント』1991年8月号)

 当時、顧客からの電話を外出先で受けられるだけで、まるで未来に行ったような感覚でした。なにしろ携帯電話が普及していない時代は、公衆電話から会社に何度も電話して用件を尋ねなければなりませんでした。

 携帯電話があれば、そんな手間はいりません。おまけに電話番の人件費を削減できるという利点もありました。

世界最小・最軽量、ド級のインパクト

 1994(平成6)年4月、そんな携帯電話の世界に激震が走りました。NTTが市場に投入したムーバです。携帯電話の歴史を変えたムーバは

・NEC
・富士通
・三菱電機
・松下通信工業(現・パナソニックモバイルコミュニケーションズ)

の4社がNTTと共同開発したもので、それぞれ「ムーバN」「ムーバF」「ムーバD」「ムーバP」の名称が付けられていました。

ムーバN、ムーバF、ムーバD、ムーバP(画像:NTTドコモ)



 話題になった理由は、ずばり大きさです。

 ムーバの重さはそれぞれ220~250g。660gあったそれまでの携帯電話と比べて、重さは3分の1程度。世界最小・最軽量の携帯電話でした。まさしく「本当に携帯できる携帯電話」といえる存在です。

 便利なのは持ち運びだけではありません。100人分の電話帳を登録し、リダイヤルできる機能も付いていたのです。

月産生産量の7倍以上のオーダー

 NTTが自信を持って市場に投入したムーバでしたが、前月の3月に申し込みを開始すると大騒ぎに。なんと3月29日までに、メーカー各社を合わせた月産生産量は7000台が限界にもかかわらず、申込数が5万件を突破したのです。

 予約待ちが必至と報道されたことで、申し込みがさらに殺到します。供給が間に合わないと判断したNTTでは4月1日のサービス開始を同月26日まで延期。メーカー各社も増産体制を取りますが、入手できるのは6月とも夏ごろともうわさされていました。

平成時代の携帯電話(画像:写真AC)

 もちろんテレビCMも打ち切りです。それでも予約の波は治まらず、6月になると申し込みだけで17万件を到達。それまでの携帯電話の加入件数が26万件だったことを考えると、とんでもない数字でした(『読売新聞』1991年6月11日付朝刊)。

 しかも、この頃は買い切り制がまだ導入されていなかったため、契約料金も高額です。新規加入料・保証金2年分・充電器セットで17万9800円。ここに任意の保険も入るので、計20万円くらいになりました。このようなことからも、世界最小・最軽量が当時どのくらいインパクトのあることだったかが、よくわかります。

軽量化戦争は再燃するか

 他社も負けてはならないと、次々と新機種を投入します。

 第二電電系の沖縄セルラー電話を除くセルラー系電話7社は1992(平成4)年11月、日立HP-421を発表。これはムーバよりも軽いことが売りでした。1995年にはPHSのサービスが開始。ここでは、携帯電話よりも小さく軽いということが売りになります。

 そんななかNTTドコモは1996年10月、松下通信工業のデジタル・ムーバP201HYPERを発表。重量は93~97gで、ついに小型化・軽量化戦争はひとつの到達点を迎えたのでした。

 ポケットに入れて持ち運びできる小型化・軽量化が追求された1990年代ですが、現在のスマートフォンはどうでしょう。iPhoneで見てみると2020年10月発売のiPhone 12 miniは133g。iPhone 12 Pro Maxは226gとなっています。

2002年時点のムーバ(画像:NEC)



 現在購入できるスマートフォンで最軽量のものを探してみたところ、60g程度のものはありました。しかし海外製品のため、購入のハードルが高いものばかり。また、実用には難がありそうです。

 スマートフォンの時代になって、携帯電話はかえって重量が増しているのが一般的な流れです。スマートフォンは携帯電話というより、むしろ「電話もできるミニパソコン」です。そのため、軽量化を追求し続ける意義は失われているのかもしれません。

 軽量化を再び争う時代は、また違う形で到来するのでしょうか。

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