地方移住したら収入激減! 自然満喫ライフも「激務で無理ゲー」という厳しい現実【連載】現実主義者の東京脱出論(5)

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地方移住したら収入激減! 自然満喫ライフも「激務で無理ゲー」という厳しい現実【連載】現実主義者の東京脱出論(5)

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碓井益男

地方系ライター

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新型コロナウイルスの感染拡大で、今まで以上に注目を浴びる「東京脱出」「地方移住」。そんな世の中のトレンドに対して、1年の半分近く全国各地を巡る地方系ライターの碓井益男さんが警鐘を鳴らします。

「移住で減収」の対価

 新型コロナウイルスの感染拡大で、今まで以上に注目を浴びる「東京脱出」「地方移住」。そんな世の中のトレンドに対して、1年の半分近く全国各地を巡る地方系ライターの碓井益男さんが警鐘を鳴らします。

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 東京から地方移住をしようとする人たちが、まず考えるのは「働き方」です。

 大半の人は地方に移住後も、現在の仕事の継続を望んでいます。しかし、残念ながらそれが可能な職種は限られます。地方移住を勧めるウェブサイトに掲載されている移住者の紹介文を読むと、職業にウェブデザイナーなどが目立ちます。

 またインターネットをベースにした仕事であれば、東京と同じように働けるでしょう。ただし、地方で新しい出会いがあっても仕事を得る機会は減ります。とりわけフリーランスであれば、地方に移住しても変わらずに仕事をもらえるかもしれませんが、それもいつまで続くかわかりません。当然、移住先で新たな得意先を得ようとしても、先に同業種の人がいれば仕事は奪い合いになります。

のどかな地方のイメージ(画像:写真AC)



 先日、ある地方に移住した夫婦のインタビューを読みました。仕事は夫婦でライターとカメラマン。収入は東京で働いていた頃の半分以下になったと書かれていました。子どものいる世帯であれば、将来の学費なども考えつつ、

「減収の対価としての、人生の充実」

があるのかを、真剣に考える必要があります。

 筆者は全国各地を回りながらも、拠点は東京という生活を崩すつもりはありません。もし「海も山もきれいで食べ物もおいしい田舎に住みませんか。古いけれど家は無償で差し上げます。ただし収入は現在の半分です」と誘われても、それでいいやと思える胆力はありません。

 仕事の場所が比較的自由な職種でも、東京とのつながりは断てないわけですから、会社勤めしている人はなおさら覚悟が必要です。移住すれば、東京で得ている賃金の仕事にはまず就けません。

 両親や親類縁者の住んでいる故郷へのUターンなら別ですが、見知らぬ土地で今までよりも低い賃金で働くのは、どんなに自然が美しく、食べ物がおいしくても、精神衛生上よくありません。

地方で増える「東京ヘイト」

 数年前、筆者の知人男性が長野県北部の片田舎に移住しました。彼は独り身の気軽さで、「自分の気に入った土地に住みたい。そこで山に登ったり、自然を満喫したりして暮らしたい」と話していました。しかし、うまくいきませんでした。

 収入は東京時代より激減。そもそも正社員雇用は少ない環境です。どんなに行政の移住支援が手厚い地域でも、移住者が納得できる仕事のあっせんはほぼ不可能です。言うまでもなく、地方は働く場所が限られているからです。元々の選択肢が少ないのですから、そのなかで妥協してくださいということになります。行政が悪いのではなく、地方はおしなべてそのような状況なのです。

 そんななか注目を集めているのが「二地域居住」です。

 東京の自宅はそのままにして地方移住する人は以前から存在していましたが、コロナ禍で「東京脱出」を考える人が増えるなかで、新たな生活スタイルとして話題となっています。

 国も地方の人口増加をもくろみ、国土交通省が2021年3月、「全国二地域居住等促進協議会」を設立。既に二地域居住が増えている自治体のノウハウを共有し、関連施策を検討するとしています。

全国二地域居住等促進協議会のウェブサイト(画像:全国二地域居住等促進協議会)



 ここでイメージされているのは「週末移住」のようなスタイルです。大都市圏から2~3時間程度の地方に住み、ウイークデーは大都市圏で働き、週末を地方で過ごすというもの。いわば「プチ田舎暮らし」であり、新たな東京脱出のスタイルとも言えます。

 ただ、国が関心を示しているわりにはうまくいきそうな要素が見当たりません。

 まず、コロナ禍でこのスタイルは困難です。筆者は現在も感染に気をつけながら地方取材を何度も行っていますが、2020年よりも素朴な「東京ヘイト」は増えているように感じます。

 先日もある地方の食堂で順番待ちの列に並んでいたら、前に並んでる初老の女性ふたりが

「東京はコロナでいっぱいらしいな」
「東京の人を外に出したらいかんわ」

という会話をしていて、少し怖くなりました。筆者は「帰れ!」と直接言われたことはありませんが「仕事とはいえ、なんでこんな時期に……」と哀れみのまなざしを向けられることは少なくありません。

仕事で自然を満喫できない現実

 東京から2~3時間のところにある、移住に適した場所とはどこでしょうか。長野県の軽井沢町や山梨県の北杜市は以前から人気ですが、別荘地の色が強く、「移住感」はありません。車で3時間以内として考えると、長野県佐久市や栃木県日光市など、適度に田舎感のある地域は存在します。

長野県佐久市(画像:(C)Google)



 鉄道での移動を前提にすると、移住先の選択肢はさらに増えます。ただ、ウイークデーを東京で過ごして、週末は自然のなかで過ごすモチベーションは持続するでしょうか。テレワークの進んでいる会社であれば、東京への出勤は週1回程度でも大丈夫ですが、それでも定期的なタイミングにやってくる移動は楽ではありません。

 以前、会社が完全なテレワーク体制に移行したため、出勤は月に1回程度になり、新入社員には画面越ししか会ってないという地方移住者に話を聞きました。その方いわく、

「窓の外には豊かな自然があるが、仕事をしているので楽しめない。週末も寝ていたら終わる」

とのことでした。

 また二地域居住ということで、東京に自宅や賃貸を維持している人からは「維持費が余計にかかるので、東京に住んでいたほうがマシかもしれない」という話も聞きました。結局、どんな手段を使っても良いとこ取りはできないのです。

 このような経験から筆者は、便利な東京生活を捨てず、自然が欲しくなったときに週末1泊旅行するくらいの生活がちょうどいいのではという結論に至りました。

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