「昭和の方が幸せだった」は本当か? 東京の統計データで見えてきた時代の実相とは
「昔は良かった」「昭和の頃に戻りたい」。そんなことをふと考えた経験はありますか? 昔を懐かしく思い出すことの良さがある一方で、現代には現代の良さがあるのも確かです。ライターの鳴海汐さんが、昭和と現代を統計データで比較・検証しました。緊急宣言下で懐かしまれる、輝かしき「昭和」 東京では2021年5月28日(金)、3度目の緊急事態宣言の延長が決定されました。経済的な打撃を受けている人、そうでなくても外出自粛で悶々と考え事をする時間が増えた人の中には、「昔は良かった」と時代を憂える人もいることでしょう。 昭和後期に撮影された子どもたちの写真のイメージ。「昭和の方が幸せだった」と思うことはありませんか? 果たして本当にそうなのでしょうか(画像:写真AC) 新型コロナ禍に見舞われたこの1年は特に、「日本はもはや先進国ではない」「他の先進諸国は平均賃金がアップしているのに、日本はこの30年間横ばい」といったニュース記事を目にする機会がぐっと増えた気がします。 失速した状態が続くと、日本が最も活気づいていた、豊かな昭和の時代が懐かしくなります。 令和になる直前ですが、NHKが世論調査で「昭和と平成はどちらがよい時代か」と聞いたところ、「昭和」を選んだ人が55%、「平成」が42%でした(「特集 平成は『戦争がなく平和な時代』79%」NHK世論調査)。 年代別に見ると、昭和を実際に経験した40代以上は昭和を選ぶ傾向にありました。 「平成のほうが幸せの総量は多い」「平成のほうが幸せの総量は多い」 そんななか、テレビやYouTubeなどで活動する実業家のひろゆき氏が、ダイヤモンド・オンラインのインタビュー(2021年5月21日配信)で 「 僕より上の世代は、『昔はよかった』と話す人が多い。しかし、ちゃんとデータを見ることができれば、昭和の時代より平成のほうが、殺人事件や餓死が少なく幸せの総量は多いことがわかる」 と話し、ネット上でもさまざまな議論が起こりました。 そこで東京の幸せを「昭和時代」対「平成・令和時代」のデータで比べてみます。 2つの死亡率に見る東京の“幸せ” 幸せを計る指標は本当にさまざま。そのなかでまずは、人生のエンディングである「死」をベースに昭和と平成・令和について見てみることにしました。 みなさんは、「最も幸せな死に方」は何だと思いますか? 天寿をまっとうする「老衰」と答える人が圧倒的に多いと想像されます。この老衰によって人生を終えた人の割合はどう変化したのでしょうか。 東京都の1985~1987(昭和60~62)年の老衰による死亡率(人口10万対)の平均は10.6。約30年経った2017~2019(平成29年~平成31/令和元)年は71.7にアップしています。 ※参照:e-Stat 都道府県別にみた死因(簡単分類)別死亡率(人口10万対) 背景にあるのは、やはり医療の進歩などでしょう。日本人の平均寿命も年々伸び続けており、不意の死を遂げる人が格段に減っていることが分かりました。 治安が向上し、他殺件数も激減治安が向上し、他殺件数も激減 一方、対極にある「不幸な死に方」については、何らかの事件に巻き込まれて亡くなる「他殺」として両時代のデータを比較してみます。事件の発生状況は治安という観点からも人々の幸福度を大きく左右します。 東京都の1985~1987(昭和60~62)年の他殺による死亡率(人口10万対)の平均は0.7。約30年経った2017~2019(平成29年~平成31/令和元)年は0.1に下がっています(同統計)。 東京都における、刑法犯全体の認知・検挙状況の推移(画像:警視庁) 現代でも事件に関する報道があるたび「物騒な時代になった」「凶悪な事件が増えている気がする」といったコメントがネット上に書き込まれますが、実際には他殺によって亡くなる人が大きく減ったことが分かります。 実際、時期は多少ずれますが、東京の殺人の平均認知件数は、1975~1984(昭和50~59)年の10年間は189.4件(参照:法務省 犯罪白書)だったものが、2015~2019(平成27年~平成31/令和元)年の5年間は、96.2件(参照:警視庁 統計)と半減しています。 これらのデータを見る限りは、昭和より平成・令和の方が幸せ度が増していると言えそうです。 東京のインターネットの利用率東京のインターネットの利用率 今度は、生きている今、幸せを感じるものを考えてみたいと思います。現代のわたしたちの生活に欠かせないものといえば、インターネットです。 これを使って出来ることと言えば、「情報を探す」、「人とコミュニケーションを取る」、「情報を配信する」、「動画を見る」、「音楽を聴く」、「ゲームをする」、「読書をする」、「お金を稼ぐ」、など無限大。 非常に便利で、もはや、それなしでは生きられない体になってしまった人がどれだけ多いことでしょうか。 インターネットは、昭和の時代に発明されたものの、一般への普及は0%です。 ひとり1台、もしくはそれ以上が当たり前になった、スマホをはじめとする現代のデジタルデバイス(画像:写真AC) そんなインターネットの現在の利用者(割合)を東京で見てみると、驚愕の95.7%になります。日本全体では89.8%で、利用者の割合は全国1位です。 ※参照:総務省 令和2年 情報白書、都道府県別インターネット利用率及び機器別の利用状況(個人)(2019年) インターネットをするためのデバイスは、「スマートフォン」74.5%、「パソコン」65.1%、「タブレット型端末」33.2%、「携帯電話(PHSを含む)」が10.4%となっていて、ひとりでスマートフォン、パソコン、タブレット型端末を用途に合わせて使いこなしている人も少なくありません。 これらのデータも、平成・令和の幸せを改めて知らしめるものでした。 昭和と令和、時代の空気感昭和と令和、時代の空気感 このように、医療が発達して寿命が延び、犯罪は減少し、日常の便利なツールが格段に増えた現代ですが、人々が体感する幸福感は昭和と比べてどのように変化したのでしょうか。 昭和の時代、特に後半になりますが、豊かで元気な時代だったと記憶している人は多くいるでしょう。戦後からの復興、高度成長期、バブル景気など経済は常に上り調子で、未来には期待感が満ちていて、ド派手なことが多く、お金があふれている。 派手で、景気の良さも実感できた昭和後期。その半面、世間のプレッシャーという外圧は現代よりも強かった(画像:写真AC) その一方で、集団行動が重んじられ、世間の常識からはみ出てはいけないプレッシャーは大きなものでした。たとえば「結婚はしなければならないもの」、「女性は寿退社」、「終身雇用、転職は負け組」といった外圧がとても強かった時代でした。 令和の今は、確かに昭和のような好景気を全国民が体感できているとは言えません。「これから時代はどんどん良くなっていく」という将来への期待感も決して強くはありません。 しかし「個人の考え」、「個人の選択」、「個人のペース」が理解される時代になりつつあります。「結婚はしなくてもいい」、「転職はキャリアアップ」という認識になりつつあります。 性的少数者(LGBT)への理解がようやく広まりつつあり、人々の見た目についてのいじりが問題視されつつあります。また昔は夢の夢だったリモートワークができる時代です。 心の自由度は格段に上がった令和。これでお金の不安がなければ最高なんですけれどね。
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