明治時代から体育一筋 五輪選手も多数輩出「日本体育大学」とはどのような大学なのか
お祭り騒ぎになるはずだった2020年夏 スポーツの祭典オリンピック・パラリンピックが開催される予定だった、2020年の夏。ドキドキしながら新年を迎えたとき、まさか延期になるとは誰も想像していなかったことでしょう。 さて2021年の夏に延期が決まった東京オリンピックですが、競技選手の名とともに示されるのが、所属大学や所属会社です。 この競技はこの大学が強い、あの競技にはあの企業が強い、いったようなことがよくありますが、オリンピックを観戦しているときにずばぬけて目にするのが、日本体育大学(世田谷区深沢)です。 日本体育大学の外観(画像:(C)Google) メジャー競技だけではなく、マイナー競技に至るまで多くのオリンピック選手を輩出している日本体育大学ですが、他の大学とどのように違うのでしょうか。 明治時代から体育一筋 スポーツに特化した大学ということもあり歴史が浅いかと思いきや、大学の起源は明治期にまでさかのぼります。 1891(明治24)年に成城学校(現・成城中学校・高等学校)内に設置した「体育会」を起源としています。 成城中学校・高等学校の所在地(画像:(C)Google) 西南戦争に政府軍として参加した日高藤吉郎は、一連の戦いで軍人は体力が必要と痛感し、若者の体力を鍛えることが重要と考えました。同時期の学校教育の中では、生徒児童へ適切な指導ができる教員が不足していました。 そして1893(明治26)年、日本体育会体操練習所を設置。体育指導員の育成を本格化させたのです。 日本体育会体操練習所は初期の軍人となる若者の鍛錬という目的から、国民の体力の底上げ、またそれを支える人材育成へと発展していきました。 明治時代から一貫して、体育に特化した専門高等機関として存在しているのは非常に珍しく、こうした歴史が日本体育大学のブランド力を高めています。 オリンピックでもずばぬけた強さオリンピックでもずばぬけた強さ 日本体育大学とオリンピックのつながりは古く、戦前の1928(昭和3)年に行われたアムステルダム夏季オリンピックに初めて選手と役員ひとりずつを送りました。 それ以降、戦後直後のロンドンオリンピックと、政治的理由で日本の参加が見送られたモスクワオリンピックを除いた全ての大会に学生や卒業生、職員が参加しています。 強豪の体操では内村航平を筆頭に、数多くの日本代表を輩出。水泳の北島康介や柔道の古賀稔彦、大学院生時代の「柔ちゃん」こと田村亮子や、マラソンの有森裕子といった有名アスリートを生んでいます。 つり輪をする体操選手のイメージ(画像:写真AC) 日本体育大学は夏季オリンピックに強いイメージがありますが、1984(昭和59)年のサラエボオリンピック以降は、冬季オリンピックにも選手や役員を派遣しています。 2018年の平昌オリンピックではスピードスケートの高木美帆とスキージャンプの高梨沙羅、カーリングの本橋麻里といった卒業生や在学生が活躍。冬季大会で初めて、日本体育大学関係者がメダルを獲得しました。 獲得メダル数は、金銀銅合わせて131個。パラリンピックでは2個とずばぬけた成績を出しています。 これまでの日本代表のオリンピックメダル獲得総数は、夏冬合わせて497個。なんとその約26%が、日本体育大学関係者で占められているのです。 広大な敷地と充実した大学施設広大な敷地と充実した大学施設 夏季と冬季に関係なくオリンピック代表を誕生させているのは、その充実した施設の完備が上げられます。 本部を置く世田谷キャンパスの約4倍の敷地面積を誇る横浜・健志台キャンパス(横浜市)には学生が練習に集中できる環境が用意されています。 内野に観客席を持つ野球場は室内練習場もあり、国内大会を開催できる陸上競技場、11月まで使用可能な屋外温水プールといった、国内最高クラスの設備を誇ります。 横浜・健志台キャンパスの陸上競技場(画像:(C)Google) そのため外部へ練習に行く必要もなく、キャンパス内で仲間とともに練習に明け暮れることができるのです。 学生の素質はもちろんのことですが、こうした大学の環境が整っているからこそさらに能力を伸ばし本番に臨むことができます。 スポーツ大学としてだけではない一面も これまで書いてきたように、日本体育大学はアスリート育成というイメージが強い大学ですが、そのほかにも見逃せない魅力があります。 2018年度に新設したスポーツマネジメント学部では、スポーツビジネスを学ぶことができるのです。 人生100年時代と言われる昨今、健康的に生活を送るためにもスポーツは老若男女問わず求められています。同学部では、そんな時代にマッチした専門知識が学べます。 日本体育大学が擁する学部学科(画像:日本体育大学) ほかにも、保健医療学部は整復医療学科と救急医療学科の2学科があり、アスリートを支えるプロや、地域社会に必要不可欠な救急救命士などを育成しています。 体育学部の華やかさに注目が集まりやすいものの、社会に必要とされるこうした人材を送り出す学部学科を擁しているのも、日本体育大学の特徴といえるでしょう。 明るい未来がくると信じて明るい未来がくると信じて 日本体育大学は緊急事態宣言の解除後、十分な対策を採った上で、対面授業や施設を開放しつつあります。それでも、仲間が集まり切磋琢磨(せっさたくま)していた以前とは程遠い状況です。 コロナ禍で黙々とトレーニングに励むことは並大抵のことではありません。また、オリンピックを夢見るアスリートや指導教員にとって、思うように身動きがとれないのは困難以外の何物でもないでしょう。 アスリートのトレーニングイメージ(画像:写真AC) この苦しい逆境をはね返すことができるか――。その強い気持ちが今、試されています。
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