コロナ禍になぜ? 日本橋の星付きフレンチが「おでん屋」を6月に開業する理由

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コロナ禍になぜ? 日本橋の星付きフレンチが「おでん屋」を6月に開業する理由

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笹木理恵

フードライター

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レストランガイド「ミシュラン」で4年連続ひとつ星を獲得している、東京・日本橋のフレンチ「ラぺ」。オーナーシェフの松本一平さんは2021年6月、「ラぺ」からほど近い場所におでん屋の開業を予定しています。「フレンチ」「生産者」「サステナブル」……。飲食業界のいまと未来をひも解く、さまざまなキーワードの詰まったおでん屋に込められた思いをフードライターの笹木理恵さんが取材しました。

正月限定で提供し、話題に

 2018年より、4年連続でミシュランガイドのひとつ星を獲得している「ラぺ」(中央区日本橋室町)。オーナーシェフの松本一平さんが、2021年6月に開業を予定しているのが「おでん屋平ちゃん」。ラペからほど近い日本橋室町で、カウンター8席と個室からなる店舗をオープンします。

岩手・石黒農場のホロホロ鳥を使った「つくね」など、素材使いも独特なおでん(画像:ラぺ)



「おでん屋平ちゃん」が誕生したきっかけは、今から数年前。

 松本シェフの実家が和歌山でおでん割烹(かっぽう)を営んでいたことから、自身の原点である味をより多くの人に味わってもらいたいと考え、1週間限定で“フレンチおでん”をコンセプトにしたコースを提供したのが始まりです。

 やるなら徹底してやろうと、器やロゴも用意して「おでん屋平ちゃん」として営業したところ、口コミで話題に。

「来年も食べたい」というお客のリクエストを受けて毎年1月恒例のイベントとなり、近年は予約がいっぱいで断らざるを得ないまでの人気を集めました。

 こうした要望に応えるために、お店として独立させたいという思いが膨らんでいったのだといいます。

 そんな松本シェフの思いを実現に導いたのが、松本シェフと8年間職場をともにし、ラぺではオープニングより右腕として同店を支えてきたスーシェフ・根内大和さんの存在です。和食の経験もある根内さんとともに、「おでん屋平ちゃん」の構想を形にしていったといいます。

新体験「フレンチおでん」とは?

「おでん屋平ちゃん」では、「季節を感じるおでん」をテーマに、アミューズからデザートに至るフレンチのように、10品をコース仕立てで提供します。

 すべての料理の基本となるのは、昆布のだしに白醤油で味付けした特製のおでんだし。盛り付けや技法にフレンチのテクニックが見え隠れします。また、ラぺで築き上げた全国各地の生産者とのつながりを生かし、旬の食材がふんだんに盛り込まれているのも特徴です。

 例えば、スペシャリテのおでんサラダ。和歌山や岩手など各地の農園から仕入れるフレッシュな野菜に、おでんだしで煮た半熟玉子やゴボウなどを合わせた驚きのある一皿です。

 その他、ラぺの名物である韃靼蕎麦(だったんそば)茶を使ったブランマンジェ、シャラン産カモや鳥取産シカなど、フレンチならではの素材も登場します。〆(しめ)は、おでんだしで炊いた土鍋ご飯。いずれはおでんバーガーやラーメンなど、遊び心のある内容を考えているそう。

おでんだしで炊く土鍋ご飯にも、季節の素材が(画像:ラペ)



 さらにデザートも、フレンチらしい満足感を味わってもらいたいと、季節のフルーツを使ったパフェを用意しています。

 以上、コースの数品を紹介したが、いずれも「おでん」という響きからイメージする内容をはるかに超えた、驚きと楽しさのある内容です。

飲食業の未来を考える取り組み

「おでん屋平ちゃん」では、サステナブル(持続可能)な取り組みにも力を入れていくとのこと。松本シェフは、

「これからのレストランには、食材の資源管理が不可欠です」

と話します。

松本シェフ(左)と、「おでん屋平ちゃん」でシェフを務める根内さん(画像:ラペ)



 仕入れた食材を無駄にしないことはもちろん、例えば、余ったおでんを粗くたたいてコロッケの具にするなど、従来の高級店ではできなかったような売り方にも取り組んでいくそう。

 さらに、持続可能な漁業・水産業で獲られた「サステナブルシーフード」や、「未利用魚」と呼ばれる市場には出回らない魚の活用などにも力を入れます。

「日本の豊かな水産資源を未来に残していくために、少しでもそうした問題に意識が向いてくれるように、私たちが発信していかなくてはと考えています」。

コロナ禍の開業に込めた思い

 世界がコロナに見舞われ、多くの飲食店が営業自粛を求められた2020年。松本シェフは生産者からの仕入れを止めないために、コース料理を自宅で楽しめる「ラぺBOX」を開発。通販で計2000個を販売し、多くの人を勇気づけました。

「おでん屋平ちゃん」の内観。カウンター8席と個室からなる(画像:ラぺ)



 今回、コロナ禍での開業を決意した背景には、飲食業界がいまだ厳しい状況にあるなかで、料理人や生産者、レストランに行く日を楽しみにしてくれているお客さんに希望を与えたいという思いもあるといいます。

 幸せの分母を増やすべく、ラぺを知らない人にも「おでんや平ちゃん」を知ってもらいたいと、クラウドファンディングにも挑戦中です。

 コロナで私たちの価値観は一変し、飲食業界も従来のモデルからの変革を迫られています。これからを生き抜く新たな飲食店のカタチとして、様々な示唆を与えてくれる「おでん屋平ちゃん」。正式なオープンが楽しみです。

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