街なかで見かけるお相撲さん、国技館にどうやって移動している? 遠い部屋の力士のルートも調べてみた

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街なかで見かけるお相撲さん、国技館にどうやって移動している? 遠い部屋の力士のルートも調べてみた

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小林拓矢

フリーライター

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街なかでときどき見かける大相撲の力士。そんな彼らはいったいどのような手段で国技館へ向かっているのでしょうか。フリーライターの小林拓矢さんが解説します。

関取は車で国技館入り

 大相撲夏場所が5月9日(日)から、両国国技館(墨田区横網)で行われています。新型コロナウイルス感染拡大のため、今場所も3日目までは無観客、4日目からは制限を設けて観客を入れています。

 さて、そんな国技館で相撲を取っている力士ですが、関取(十両以上の力士)は他人の運転するタクシーなどの車で国技館にやってきます。

 では、それより下の幕下以下の力士は何に乗って国技館にくるのか、皆さんはご存じでしょうか。

幕下は公共交通機関を使用

 答えを先に書くと、幕下力士は電車やバスなどの公共交通機関でやってきます。体は大きく和装ですから、間違いなく目立ちます(国技館に近い部屋の力士は徒歩で来ることも多いです)。

 力士も一般人と同じように、特別扱いされずに国技館まで足を運ぶのです。まげを結って、浴衣や着物を着て、げたや雪駄(せった)を履いて国技館にやってきます。

国技館通りにある力士像(画像:写真AC)



 もちろん本場所中だけではありません。入門したての力士の教育機関で、国技館敷地内にある相撲教習所に通う際も、合同稽古を行う際も、番付を受け取りに行く際も国技館なのです。

 力士が稽古をしながら生活している相撲部屋は、国技館のある両国を中心に

・千葉県
・埼玉県
・茨城県

に広く散らばっています。かつては神奈川県や山梨県にもありました。

 前述のように国技館近くの相撲部屋の力士は歩いてやってくるのですが、遠い場所にある部屋の力士はどのようにやってくるのでしょうか。早速、都内の例を挙げてみましょう。

板橋区の相撲部屋から力士はどう通うのか

 まずは台東区から板橋区へ2021年2月に移転し、千賀ノ浦部屋から名前を変えた常盤山部屋についてです。

 千賀ノ浦部屋はかつて台東区橋場にありました。しかしどの駅からも遠いため、バスと電車を乗り継いで国技館まで通っていたと考えられます。なお現在の常盤山部屋は板橋区前野町にあり、最寄り駅は東武東上線のときわ台駅となっています。

常盤山部屋の位置(画像:(C)Google)



 ときわ台駅から東武東上線に乗り、池袋駅で山手線に乗り秋葉原駅へ。そこから総武緩行線に乗り両国駅へと向かいます。改札から改札までの時間は45分程度です。もちろん、大関・貴景勝や関脇・隆の勝は車でやってくるのですが、幕下力士はこの部屋から電車で通ってきます。

 常盤山部屋には関取が4人おり、比較的強い力士が多いことで知られていますが、いま電車で通っている幕下以下の力士も、このルートの電車に乗りながら「いつか関取に」と思っているのでしょう。

 ただ、もっと遠い相撲部屋もあります。いくつか見てみましょう。

茨城県龍ケ崎市から力士がやってくる

 国技館から遠い相撲部屋といえば、茨城県龍ケ崎市にある式秀部屋でしょう。

 ここの部屋は親方の独特な指導方針や、ユニークなしこ名の力士が多くいることで知られています。力士が20人近くいるにもかかわらず、昇進できる力士が見当たらないのは気がかりですが、頑張ってほしいものです。なお部屋の最寄り駅は常磐線の龍ケ崎市駅です。

 龍ケ崎市駅から常磐快速線で日暮里駅へ。そこから山手線に乗り換え、秋葉原駅から総武緩行線で両国へと向かいます。時間にして1時間15分程度。ただJRだけで済むため、片道運賃は990円と、1000円を超えないのがポイントです。

 これだけ遠いと車内で座ることも多いと思いますが、いかんせんスペースがかなり必要です。なかなか大変ですが、式秀部屋は地元と良好な関係を築いているため、国技館の近くに移転することはないでしょう。今後も常磐快速線から、取手駅北にあるデッドセクション(無給電区間)をくぐる力士が見られます。

 また茨城県にはもうひとつ相撲部屋があります。つくばみらい市にある立浪部屋で、最寄り駅はみらい平駅です。

立浪部屋の位置(画像:(C)Google)

 みらい平駅から守谷駅までつくばエクスプレスに乗り、守谷駅で同線の快速に乗り継ぎ、秋葉原駅へ。ここからは総武緩行線で両国駅です。こちらは交通系ICカードで1079円かかるため、運賃が大変です。

 ただ立浪部屋は夏場所後、前述の千賀ノ浦部屋があった台東区橋場に移転するため、今場所が最後のつくばエクスプレスでの移動となります。なお移転理由のひとつは、移動の負担軽減とのことです。

かつて山梨県にあった相撲部屋

 かつて、山梨県上野原町(現・上野原市)にも相撲部屋がありました。

上野原市の位置(画像:(C)Google)



 1992(平成4)年、元関脇の太寿山は花籠部屋を再興した際、バブルによる不動産価格の上昇から、山梨県に部屋を建てることにしました。上野原駅から両国までは1時間30分程度かかり、運賃は現在の価格で1166円、しかもJRだけでその運賃です。

 ルートは上野原駅から高尾駅まで中央本線の普通列車を使い、高尾駅から御茶ノ水駅まで中央線の中央特快、そこから総武緩行線で両国駅となります。中央特快のない時間帯ならもっと時間がかかりました。そのため、相撲教習所に通うのも大変で1996年には都内に移転しました。

 当時は上野原が都内へ通える住宅地として注目されていたこともあり、花籠部屋が上野原にやってきたのも不自然ではありませんでしたが、同地は「あまりにも遠すぎる」として都心で働く人のための住宅地としても敬遠されるようになりました。

 なお上野原から都内にやってくるには、いったんは神奈川県を通り、小仏トンネルをくぐります。ほかの部屋のように関東平野にあるわけではないのです。

中野新橋の貴乃花部屋は遠かったのか

 相撲部屋と国技館との距離といえば、こんなエピソードも。

 中野区本町には、かつて貴乃花部屋がありました。最寄り駅は丸ノ内線の中野新橋駅。藤島部屋・二子山部屋の親方をしていた元初代貴ノ花の後を継ぎ、貴乃花部屋としました。一定以上の実績を持った横綱は現役時代のしこ名で部屋を持てる権利があり、貴乃花部屋はその権利を使ってできた現時点で最後の部屋です。

中野新橋駅の位置(画像:(C)Google)

 そんな貴乃花部屋が国技館への移動時間軽減を理由に、2016年、江東区へ移転することになりました。これまで挙げてきた部屋に比べてずいぶん近いのに移転か……と、筆者は当時思ったものです。

 では、中野新橋駅から両国駅への移動を見ていきましょう。中野新橋駅から新宿駅までは丸ノ内線、新宿駅から御茶ノ水駅までは中央快速線、御茶ノ水駅からは総武緩行線です。中野新橋駅から四ツ谷駅まで丸ノ内線、そこから総武緩行線でもいいでしょう。40分もかかりません。

 貴乃花親方は弟子に厳しい稽古をつけることで知られていたため、そうした時間さえも無駄だったのでしょう。移転先は江東区東砂。最寄り駅は南砂町駅です。

 南砂町駅からは東西線、門前仲町駅で乗り換え、大江戸線を使って両国駅へというルートに変わりました。乗車時間は20分程度です。貴乃花部屋の近くには両国駅に直行するバスも走っています。

 確かに距離は軽減し楽になりましたが、東京の公共交通を利用する人にとっては、それほどでもないのが思うでしょう。ただそれだけ、貴乃花親方が弟子育成に熱心だったともいえます。

 残念ながら貴乃花部屋は2018年になくなってしまい、力士は千賀ノ浦部屋へ移籍、現在は常盤山部屋となっています。ただ、中野新橋時代の貴乃花部屋を経験している力士で、現在も常盤山部屋から電車で国技館に通っている力士は貴大将(東三段目65枚目)ただひとりとなっています。

序二段陥落した照ノ富士が乗った一駅間

 大関ともなると、国技館には当然車でやってきます。

 一度大関になったものの、けがや病気で序二段にまで陥落、その後元の地位に復帰したことでいま注目を集めているのが照ノ富士です。照ノ富士は間垣部屋に入門し、部屋閉鎖後、伊勢ヶ浜部屋へと移籍。そこで大関になります。

 一般的に、大関から幕下へと陥落した力士は引退します。照ノ富士も引退しようとしましたが、伊勢ヶ浜親方が説得し、相撲を続けることに。

 幕下に陥落すると、電車で国技館に通う生活に戻ります。伊勢ヶ浜部屋は江東区毛利にあり、近い駅は新宿線・半蔵門線の住吉駅か、JR総武緩行線の錦糸町駅。錦糸町駅まで歩けば、両国駅まではたった1駅です。

伊勢ヶ浜部屋の位置(画像:(C)Google)



 一度は大関にまでなった力士ですから、顔は知られています。まげと服装で力士だということもわかります。伊勢ヶ浜部屋から錦糸町駅まで歩き、電車に1駅だけ乗っても、多くの人に気づかれます。

 再び関取・幕内へ、大関に戻ろうと考えていた照ノ富士は電車と徒歩で移動し続けます。歩き、電車で移動するなかで、絶対に元に戻ると誓い続けていたことでしょう。体調を整え、稽古を積み重ねていく中で照ノ富士はまた車で国技館に入る地位に戻り、大関復帰となります。その先は、だれもが「綱」を期待するのではないでしょうか。

 上をめざす力士は、国技館へ向かう公共交通機関の中で強くなろうと考えながら、日々を過ごしています。

 強くなって車で国技館にやってくる力士も、強くなろうと電車でやってくる力士も、この本場所では熱戦を繰り広げています。というわけで、力士はどんな交通手段でどこにある部屋からやってくるのか――ということを見てみるのも意外と面白いかもしれません。

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