東京の「転出超過」5か月連続も 安易な「地方移住」は絶対に控えた方がいいワケ【連載】現実主義者の東京脱出論(6)

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東京の「転出超過」5か月連続も 安易な「地方移住」は絶対に控えた方がいいワケ【連載】現実主義者の東京脱出論(6)

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碓井益男

地方系ライター

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新型コロナウイルスの感染拡大で、今まで以上に注目を浴びる「東京脱出」「地方移住」。そんな世の中のトレンドに対して、1年の半分近く全国各地を巡る地方系ライターの碓井益男さんが警鐘を鳴らします。

自然豊かな環境の持つデメリット

 コロナ禍の影響で、東京から地方へ移住する人が増え、それに関するニュースも注目を集めています。先日、東京都の「転出超過(転出数が転入数を上回っている状態)」が5か月連続となったことが報じられたばかり。しかし筆者は、移住者がそろそろ「夢から覚める時期」を迎えていると考えます。

 移住者の多くは、自然豊かな環境での

・のんびりした暮らし
・伸び伸びとした子育て
・地産地消の健康な食生活

などをイメージしていたのでしょう。

 しかし短期間ならともかく、移住開始から数か月も過ぎれば、現実が明らかになります。自然豊かな環境では、スーパーマーケットもコンビニエンスストアも自宅から遠く、不便です。それゆえ、家事に費やす時間も増加。子どもの最寄りの小学校まで歩いて1時間なんていうのも珍しくありません。

 田舎暮らしは、何事も都会より時間がかかります。そんな日常をこれからも楽しめるかどうかが、地方移住への適性のカギになります。

行政サービスに過度な期待はできない

 先日、近畿地方の山間部に移住したご家族に話を聞く機会がありました。ご家族いわく、自然豊かな環境を満喫している点については成功だったそうですが、子どもが小学校に入学する際、問題が発生したといいます。

 移住した地域は過疎が進み、周辺の小中学校はすべて廃校。最も近い小学校は峠をいくつも越えた先で、車でも30分以上かかるため、小学1年生が歩いて登下校する距離ではなかったそうです。

 そこで自治体に相談したところ、

「児童ひとりのためにスクールバスは出せない」

と言われたそうで、結局、両親が毎日送り迎えするよう指示されたといいます。

 しかし、住んでいるところが県境に近かったため、県境を挟んだ隣県の町役場に相談したところ「そういう事情なら」と、隣県の町がスクールバスのルートを変更して寄ってくれることになったそうです。

東京から離れた地方のイメージ(画像:写真AC)



 現在、全国的に少子高齢化が進んでいることもあり、小中学校ならまだしも、高校が自宅から通学できる距離にない地域も増えています。

 このような現状に対して「行政サービスが不足している」と怒るのではなく、「地方ではこんな対応が当たり前」と考えられる人であれば、地方へ移住しても問題はないでしょう。

移住歓迎、福岡市の利便性

 そこで考えられるのが、地方都市への移住です。現在、移住者を歓迎する地方都市は増えています。なかでも、もっとも勢いがあるのが福岡県福岡市です。

 福岡市はコロナ禍以前から都心部の再開発が進み、特区や助成を設けてベンチャー企業の創業支援を行うなど、経済的に充実した施策を打ち出しています。筆者は取材のために、これまで何度か福岡市に長期滞在していますが、驚くほど便利な都市です。

福岡県福岡市(画像:(C)Google)



 まず挙げられるのが、店舗や施設の充実度に対して、街がコンパクトであることです。繁華街は博多駅と天神駅を中心とするエリアですが、地下鉄で数駅程度、徒歩でもいける距離です。

 ここに新宿や渋谷、池袋などにあるような店舗がだいたい集まっています。繁華街がコンパクトなので、住宅もそれに準じた形で都心近くに立地しています。一般的に「電車で30分」は「遠い」という感覚です。

 福岡市の西に位置する糸島市は風光明媚(めいび)な田園と海が広がる場所で、都会からの移住者が増えています。天神駅から糸島市の中心駅である筑前前原駅までは電車で40分かかりません。

 都心から40分で田舎が味わえるのも福岡市の魅力です。なお、途中の姪浜駅で降りると、九州最大級のアウトレットモール・マリノアシティ福岡があります。

「あの人はよそから来た人だから」

 どこに出掛けるにも近く、店舗は東京並みに充実している――移住するならやっぱり福岡市だなと筆者は思いますが、もちろんハードルはあります。

 とりわけ福岡市出身者に聞くと「東京から移住するの?」と首をかしげます。多くの出身者が指摘するのは福岡市の持つ独特の気質です。

福岡市の街並み(画像:写真AC)

 日本の歴史上、古来より人の往来が多かった福岡の土地は、よそから来た人にとても親切です。それは旅行者にも転勤者にも同じ。ただ、扱いはあくまで「異邦人」なのです。

「とにかく福岡の人は親しみやすい気質で、よそから来た人でもすぐに仲良くなれます。ところが10年くらいたって土地にも慣れ、『自分も福岡人』という立場で話をすると一転、『あなたは、ここの生まれではないでしょう』といいます」

 東京でもかつて「三代住めば江戸っ子」という風潮がありましたが、このようなことは福岡市に限りません。全国のあちこちで話を聞いていると

「あの人はよそから来た人だから」

という会話を耳にする機会は意外なほど多いのです。

移住するなら土地の風習・文化に敬意を

 ただ、これまでの取材で聞いた「いつまでたってもよそ者扱い」の事例を精査していくと、排他的な土地柄だからというのは極めて少ない印象です。

 どこの地方でも独特の風習や文化があります。その多くは、東京から見ると奇異に見えます。それらをどこかしら冷めた目で見ていると、温度差が隠せなくなるということでしょう。

地方の奇祭イメージ(画像:写真AC)



 もし移住した土地で長く暮らしていく決心をしたならば、その土地の風習や文化を楽しむことが肝要です。とりわけ地域の行事などは時間も労力も取られますが、それを地元民くらいに楽しまなければ、そもそも移住した意味などあるのでしょうか? むしろ奇異に見えることがある地域に住んだなら、それを「幸運」と思わなければなりません。

 そう思えないのなら、東京での生活を続けることをお勧めします。どこまで行っても、個性を生かせる、尊重される都市は東京だからです。

 最後に余談ですが、うどん好きの筆者は讃岐より博多派なので、福岡市に住んだら毎日幸せかもと少々思ってしまいました。

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