大学と専門学校のいいとこ取り? 令和の即戦力人材を養成する「専門職大学」とは何か

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大学と専門学校のいいとこ取り? 令和の即戦力人材を養成する「専門職大学」とは何か

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中山まち子

教育ジャーナリスト

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2019年にスタートした専門職大学・専門職短期大学をご存じでしょうか。現在はファッション、IT、医療に特化していますが、実学重視の流れを担う教育を担う存在として注目されています。教育ジャーナリストの中山まち子さんが解説します。

専門職大学とは何か

 2019年4月、大学の新しい歴史がスタートしました。1964(昭和39)年に短期大学が新制されて以降、長きに渡り日本の大学は

・四年制大学
・短期大学

の2体制を維持してきました。そこに新たに加わったのが、

・専門職大学
・専門職短期大学

です。つまり、現在の日本の大学は4体制になっているのです。

国際ファッション専門職大学が入居する、新宿区西新宿の「モード学園コクーンタワー」(画像:(C)Google)



 専門職大学と名前の似ている専門学校は、文部科学省の分類上「専修学校」になり、課程を修了すると専門士の称号が与えられます。一方、専門職大学は課程修了後に学士(専門職)、専門職短期大学は短期大学士(専門職)の肩書がそれぞれ授与されることから、これまでの大学や短期大学と同様と言えます。

 学部学科によって違いはあるものの、一般的な大学は基本的に授業が講義中心で行われます。しかし専門職大学はその教育理念に、専門性が高く社会に出た後に即戦力として活躍できる人材育成を掲げています。

 授業の3分の1以上は企業や病院施設等での研修といった実習形式で、こうした点も一般的な大学とは大きく異なります。また、専攻分野でおおむね5年以上の実務経験者が教員の4割以上を占める規定があり、企業や産業界との連携が強いことがわかります。

 専門職大学・専門職短期大学に関しては、学校教育法第83条の2第108条第4項で以下の通り定められています。

「深く専門の学芸を教授研究し、専門性を求められる職業を担うために必要な実践的かつ応用的な能力を育成・展開させる」

 この一文が示す通り、大学と専門学校の良いところを取った教育機関という性格が強くなっています。

入居するのは新宿のシンボル「コクーンタワー」

 しかし、専門職大学の制度や名前は全国に広く浸透していません。2021年現在、全国にある専門職大学は公立が2校、私立は12校です。

 そのうち、初年度である2019年に開校したのが高知リハビリテーション専門職大学(高知県土佐市)と国際ファッション専門職大学(新宿区西新宿)です。

 東京都内で最初の専門職大学となった国際ファッション専門職大学は、東京モード学園を筆頭に複数の学校を運営している日本教育財団(名古屋市)によって創立されました。国際ファッション専門職大学は本部を置く東京キャンパスのほかにも、名古屋キャンパス(名古屋市)と大坂キャンパス(大阪市)があります。

 さて、大学となると敷地確保も含め、創立はそう簡単ではありません。ましてや都内で新たに校舎を建てるとなると一大事業です。しかし国際ファッション専門職大学の場合、東京モード学園等の校舎でもある高層ビル・モード学園コクーンタワーに入居しています。

モード学園コクーンタワーの所在地(画像:(C)Google)



 高層ビルが立ち並ぶ新宿駅副都心かいわいでひときわ目を引くコクーンタワーは新宿のシンボルタワーのひとつであり、2校のほかにも日本教育財団が運営する専門学校や専修学校の校舎にもなっています。

専門職大学が誕生したのも必然なのか

 グローバル化やIT化の結果、企業間競争は世界規模に達し、激しさを増しています。かつてのように新入社員育成に時間をかけることは難しくなり、社会に出て即戦力として動ける人材育成が急務となっています。

 2015年4月、下村文部科学大臣(当時)により「個人の能力と可能性を開花させ、全員参加による課題解決社会を実現するための教育の多様化と質保証の在り方について」と題する意見を受け、翌年から中央教育審議会で専門職大学設置の検討を本格的に開始。2017年度に学校教育法を改正し、準備を整えてきた経緯があります。

2019年4月に施行された専門職大学等の制度化(画像:文部科学省)



 文部科学省も時代のニーズや変化を考慮し、既存の大学のように教養や学術を学びつつ、習得した専門技術に新たな価値観を見いだせる人材育成に特化した教育機関を立ち上げることになったのです。

 いわゆる専門学校のように特定の職業に特化した教育機関はすでに存在していましたが、専門職大学ではさらに産業界との連携を強める特徴があります。在学中から企業での実習や、現場で働いている先輩たちから学ぶほうが時代の流れをよりつかむことができ、それが実際にカリキュラムとなっています。

「令和2年度学校基本調査」から、令和2年度の高校等の卒業生(過年度卒を含む)の大学・短大、専門学校を含む高等教育機関への進学率は83.5%と過去最高を記録しました。進学が主流となっている今、専門職大学の登場は高校生にとって、選択肢が増えたことを意味しています。

認知度を高めて裾野を広げられるか

 しかし、メリットばかりではありません。

 現在開校している専門職大学は、

・ファッション
・IT
・医療

の分野に特化しています。そのため、今後の課題は専門職大学の認知度アップが急務となります。

養成する人物像(画像:文部科学省)



 専門性の高い教育を受けられることは、就職する際にも強い武器となるため、学生のニーズは決して低くはありません。しかし専門職大学自体が誕生してまだ2年と歴史が浅く、追い打ちをかけるようにコロナ禍も重なったため、受験生へのアピール活動が思うようにできない状況が続いています。

 今後、どのように受験生や保護者に対して認知度を高めていくのかが、専門職大学成功のカギと言えるのです。

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