サンシャイン水族館の丸山館長はなぜ今、魚たちの「性の世界」に切り込むのか?
サンシャイン水族館が生き物たちの性の世界について紹介する「夜のサンシャイン水族館『性いっぱい展』」を開催します。開催に先駆けて行われた記者公開で、丸山館長に同展への想いを聞きました。魚たちの「性」「繁殖行動」「求愛行動」について紹介 サンシャイン水族館(豊島区東池袋)が2019年9月27日(金)から期間限定で、生き物たちの「性」についてのコンテンツを体験できる「夜のサンシャイン水族館『性いっぱい展』」を開催します。生き物の「性の世界」に切り込むというのは、ファミリー層も多く訪れる施設としては扱いづらいテーマ。どのような趣向が凝らされているのか、同展の開催に先駆けて行われた、記者内覧会に訪れました。 記者内覧会で挨拶を行う、館長の丸山克志さん(2019年9月26日、宮崎佳代子撮影) 館内はピンク色の照明で水槽を照らすなど、昼間とは異なる歓楽街を模したようなムーディーな雰囲気。展示の魚たちの「性」「繁殖行動」「求愛行動」などについて、水槽周辺にパネルを配置して解説しています。 ユーモアも交えて特質が紹介されていて、群の中で一番体が大きくなったメスがオスに変わるコブダイには「華麗なる性転換」、オスがメスに噛み付くトラフサメの交接行動には「噛むほどにサメない恋」。表現にクスッと笑ってしまうような工夫が凝らされています。実際の交接や産卵などを見ることはできないため、その瞬間を捉えた動画や模型なども活用しています。 また、「のぞきBOX」や「おさわりBOX」など、生き物の性を五感で体感できるような仕掛け、フォトジェニックなスポットも用意。学術的な内容だけでは飽きてしまうため、さまざまな表現方法を駆使し、性の多様性を楽しく紹介していました。普段とは異なるムード、魚の表情をみるのも同展の目玉といえます。 サンシャイン水族館館長の丸山克志さんは「性いっぱい展」開催の挨拶で次のように述べました。 「私に限らず、飼育スタッフ皆が生き物がどうやって種を残すのか、とても興味深いことと感じてきました。生き物の性に関する行動は、私たち人間の考え方や行動をも変えうる多様性に富んでいるからです。 その性の世界を伝えたいと長年考えてきましたが、扱いづらいテーマであることも事実です。これまでの数々の特別展で『表現の工夫』の経験を活かして今回、この重要なテーマを実施することにいたしました」 イベント後、丸山館長に同展開催のタイミングがなぜ「今」だったのか、その理由と想いについて聞きました。 想いは、生き物の性の多様性を通じて、人の多様性も伝えること想いは、生き物の性の多様性を通じて、人の多様性も伝えること 丸山館長は水族館での勤務歴31年の大ベテラン、サンシャイン水族館の館長を務めて今年で5年めとなります。 「夜のサンシャイン水族館『性いっぱい展』」が開催(2019年9月26日、宮崎佳代子撮影)ーーかねてからやりたかった生き物たちの性に関する特別展を今、このタイミングでやった理由を教えていただけますか。 生き物の性に関する特別展をどういう表現方法でやれば広く受け入れてもらえるか、ということを長い間考えてきました。その間、「変な生き物展」とか「猛毒展」といった、多くの方に見てもらうのは難しいと思われるような特別展も色々やったんですね。それによって、普段水族館に来ないような方々が足を運んでくださいました。伝え方の工夫を色々経験して、それを今回のテーマに活かす自信と覚悟がついて、性いっぱい展を開催するに至りました。 ーー自信と覚悟のきっかけとなった、社会現象のようなものは何かあったのでしょうか。 LGBTなど「性の多様性」を認めることが今、課題となっています。そういう面でもタイムリーだと思いました。生き物の世界の性の多様性を共有し、認識を深めることで、性についての考え方を柔軟に持つことへの取り組みにもつながるかもしれない。水族館という範疇から突き抜けたことをやることで、そういうことも伝わるのかな、と思っています。 ーー表現において、一番難しかった点はどういった部分でしょうか。 生物学的な用語を使って正確に伝えることは簡単なのですが、人にたとえたりしながらわかり易く伝えようとした時に、その表現の限界をどこに持っていくかについては悩みました。敢えて、その表現の部分を少し「突き抜けた」ところに持ってきたことによって、今まで水族館に来なかったような方にも来ていただけることをひとつの狙いとしています。賛否両論あるかもしれない、敢えて難しいところにチャレンジしてみました。 ーー生き物の性の多様性で館長が一番面白いと感じるのはどこでしょうか。 生きる環境に即して、子孫を増やすためにそれぞれ異なる生殖器の形や機能が備わっています。その違いや理由を知るのも面白いですし、自然に性が変わっていく生き物もいて、それは人間ではあり得ないことですから、その過程を知るのも興味深い部分だと思います。 繁殖シーンはスタッフでも滅多に見られなもの繁殖シーンはスタッフでも滅多に見られなものーー実際に繁殖行動を目にできる時期のようなものはあるのでしょうか。 クジラやイルカのような海獣類は、ある程度、繁殖の時期を狙って観ることができますが、それ以外のものは24時間録画してその場面を観るのが普通です。飼育スタッフでも、偶然目にしたというケースは非常に稀で、今回そういったビデオも一部見られます。 歓楽街のような少し暗めでムーディーな照明(2019年9月26日、宮崎佳代子撮影)ーー歓楽街のような少し暗めでムーディーな照明にすることで、魚が見えづらくなりがちですが、その辺りの工夫はどうされたのでしょうか? 以前、夜の水族館をやった時に「暗いシーンを見に来たのではなく、魚を見に来たのだけど」と言われたことがありました。なのでまずテーマの目的を理解していただければと思います。ただ、まったく生き物が見えないと意味がないので、きちんと観察できるように照明の加減を工夫しています。時間を切り分けているので、本来の魚たちの色を見たい方は昼間にきていただいて、性いっぱい展では、いつもと違った雰囲気やストーリーを楽しんでいただけたらと思います。 ※ ※ ※ 会期中、毎週金曜と土曜日の19時半から10分間、飼育スタッフによるトークショー「性いっぱいトーク」が開催されます。学術的な話からちょっとしたトリビアまで、普段なかなか聞くことのできない内容の話が聞けるとのことです。 ベテラン館長が、満を持して開催する「性いっぱい展」。期間は11月4日(月・振休)までとしています。 ●夜のサンシャイン水族館「性いっぱい展」 概要 ・会場:サンシャイン水族館 本館 ・場所:東京都豊島区東池袋3-1 サンシャインシティ ワールドインポートマートビル・屋上 ・会期:2019年9月27日(金)〜11月4日(月・振休) ・時間:18:30〜22:00 ※最終入場は1時間前 ・休館日:2019年10月17日(木) ・料金:大人(高校生以上)2200円、ペア(同)3500円、子供(小・中学生)1200円、幼児(4才以上)700円
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