意外と知らない? 東京の街で「ツツジ」をしょっちゅう見かける理由

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意外と知らない? 東京の街で「ツツジ」をしょっちゅう見かける理由

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小川裕夫

フリーランスライター

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東京の街を歩いていると、ツツジをよく見かけます。いったいなぜでしょうか。その背景には長い歴史がありました。フリーランスライターの小川裕夫さんが解説します。

コロナ禍で生まれるストレスとその限界

 ゴールデンウィーク目前の4月25日(日)、緊急事態宣言が東京都・大阪府・京都府・兵庫県の4都府県に発令されました。3度目の発令で、新型コロナウイルスの脅威を再認識した人も多いでしょう。

 他方、多くの人はコロナ感染を拡大させないため、この1年間に手洗い・うがいの徹底、ソーシャルディスタンスといった新しい生活様式を意識して過ごしてきました。気苦労の多い生活強いられてストレスもたまり、精神的に限界を迎えている人も少なくありません。

 それでも早期の収束を願い、みんなが一致団結して感染拡大の防止に努めてきたのです。

 1年前、多くの人は「コロナが終息した2021年のゴールデンウィークは、友達と飲み会をしたり、家族と旅行に出掛けたりしたい」と思いながら我慢していたことでしょう。それだけに、3度目の緊急事態宣言の発令で

「何とか保ってきた緊張の糸が、プッツリと切れてしまうのではないか」
「緊急事態宣言に慣れてしまい、効果が薄れてしまうのではないか」

といった不安も広がっています。

 コロナを感染拡大させないために、ステイホームを心がけることは重要です。しかし、適度に体を動かし、外出をして気分転換しなければストレス過多に陥ってしまいます。ストレス過多によって、かえって心身を害してしまう恐れもあるのです。それでは、本末転倒と言わざるを得ません。

根津神社「つつじまつり」も中止

 4都府県に緊急事態宣言が発令され、そのほかの地域でも「まん延防止等重点措置」が取られるなど、外出しにくい雰囲気になっているのは事実です。人ごみの多い繁華街や観光名所などへ出掛けるのは避けた方がいいのは言うまでもありませんが、近所の公園や河川敷などに散歩として出掛けることは「許容範囲」と言えます。

 見慣れた近所の公園や道路などでも、季節によって植栽された花や樹木は変化します。そうした身近な自然を楽しんでみるのもいいでしょう。

 サクラのシーズンが終わった今、東京ではツツジの見頃を迎えています。

 東京でツツジの名所と言えば、毎年恒例の「つつじまつり」が開催される根津神社(文京区根津)が有名です。毎年、多くの行楽客を集める「つつじまつり」ですが、2021年はコロナの影響で中止になっています。

 根津神社のような名所は多くの人が集まるので、コロナ禍の今では足を運びづらいというのが実情です。しかし、それでもツツジを楽しむ方法はあります。

 東京では街に点在する小さな公園の花壇や歩道の植え込み、マンションなどの入り口の植栽など、あちこちでツツジが植えられています。わざわざお出掛けをしなくても近所のツツジを目にすることはできるのです。

都内に咲くツツジ(画像:写真AC)



 東京には、名もなきツツジの名所があちこちにあります。サクラと比べると、ツツジは大きな場所を必要としないため、手軽に植えられます。そうした手軽さから、あちこちに植栽されているのです。

 とはいえ、小さなスペースでも楽しめる花はツツジ以外にもたくさんあります。それにも関わらず、東京の街ではツツジをよく見かけます。いったいなぜでしょうか。

大名たちの間で起きた「庭園づくりブーム」

 ツツジの歴史、特に東京におけるツツジ史をひもとくと、徳川家が大きく関係しています。徳川家康は花の中でもツツジが好きだったことで知られています。そのため、江戸幕府はツツジの植栽に力を入れました。

 2代将軍・秀忠や3代将軍・家光も家康と同じくツツジ好きでした。そのため、江戸初期は市中のあちこちでツツジが植えられることになったのです。

 幕府に恭順(きょうじゅん。命令につつしんで従う態度)を誓った各地の大名は江戸に屋敷地を構え、1年の大半を江戸で過ごします。しかし、戦のない平和な世なので時間を持て余し、大名たちの間で「庭園づくりブーム」が起きました。

 時の権力者である将軍がツツジ好きなので、庭園づくりにもツツジが盛んに植えられるようになりました。紅やピンクに染まるツツジは見た目も美しいことから、家光が没した後も大名たちから愛され続けました。

文京区本駒込にある六義園のツツジ(画像:写真AC)



 5代将軍・綱吉に仕えた柳沢吉保(よしやす)は下屋敷(別邸)に庭園を築き、ツツジを植栽。柳沢の整備した名園は六義園(りくぎえん。文京区本駒込)として、現在は一般公開されています。6代将軍・家宣も前述した根津神社と深い由緒があります。

コロナ禍こそ密にならない「新しい花見」を

 こうしたブームは庶民にも広がっていきます。

 大名のように大きな庭を持つことはかないませんが、元禄(げんろく)年間あたりから鉢植えも普及し始めたことから、庶民が露地などで花を栽培するようになりました。そして、ツツジは江戸市中で楽しめる花になっていくのです。

 こうした歴史を経てツツジは庶民でも楽しめる花となり、東京でも特に台東区や墨田区、文京区、千代田区といった江戸時代に武家地・町人地となっていたエリアには今でもツツジが植栽されている場所が多くあります。

千代田区永田町にある国会議事堂周辺のツツジ(画像:写真AC)

 そして、明治になっても人気は衰えず、住宅地でも身近な花として親しまれます。高度経済成長期、多くの子どもたちが大人の目を盗んで咲き乱れるツツジの蜜を吸って遊ぶことも珍しくなくなりました。50代以上の世代なら、思い出を持っている方も多いでしょう。

 そんなツツジですが、ツツジ科の花には毒性を含む花もあります。見た目が似ているので、素人目で毒性のあるなしを判別するのは難しいので蜜を吸う行為は危険です。

 日常風景に溶け込んでいるツツジなら、コロナ禍でも存分に楽しめるはずです。2021年、コロナによりサクラの名所で花見は禁止になりました。サクラの花見は、仲間や友達と集まって酒を飲んだり談笑したりとコロナの感染拡大の要因になりやすいからです。

 しかしツツジは住宅街で、しかもひとりで楽しめます。例年、ツツジは4月から5月が見頃と言われます。外出自粛が励行される今、新しい生活様式として、身近に咲くツツジの花見という「新しい花見」を楽しんでみるのもいいかもしれません。

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