「あと少し頑張ってみよう」 閉塞する街・東京にMr.Childrenが差し伸べる一筋の希望とは

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「あと少し頑張ってみよう」 閉塞する街・東京にMr.Childrenが差し伸べる一筋の希望とは

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松本侃士

音楽ライター

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地方から上京し、毎日がむしゃらに働いても夢が叶うかどうかは分からない。きらびやかな一方で閉塞も感じる東京に暮らす人々に、Mr.Childrenは温かな歌詞でそっと寄り添ってくれます。日本が誇るロックバンドが見つける「東京」の姿を、音楽ライターの松本侃士さんが解説します。

時代、世代を超えて支持される理由

 日本が誇る稀代のロックバンド、Mr.Children。

 彼らは、25年以上にわたって、あらゆるリスナーに優しく寄り添いながら、私たちの日々の生活を彩り、肯定し、そして時に、新しい一歩を踏み出す勇気を授け続けてくれています。

2020年12月に発売されたMr.Childrenの最新アルバム『SOUNDTRACKS』。「まるでひとつの物語のよう」などと評判を呼んでいる(画像:トイズファクトリー)



「innocent world」「Tomorrow never knows」「シーソーゲーム ~勇敢な恋の歌~」「名もなき詩」「終わりなき旅」「Sign」「GIFT」「HANABI」「エソラ」「365日」「足音 ~Be Strong」、そして「ヒカリノアトリエ」。

 このように代表曲を挙げていけばキリがありませんが、これまでの日本の音楽シーンを振り返っても、日本国民、世代を問わず誰もが口ずさむことのできる楽曲を、これほどまでに数多く有するロックバンドは他にいないでしょう。

 桜井和寿が綴る歌詞は、あらゆる時代のあらゆるリスナーの生活に寄り添う普遍性が宿っており、それ故、Mr.Childrenの楽曲の大きな傾向として、特定の地名や固有名詞が歌詞の中に登場することは極めて稀です。

 そんな中でも、Mr.Childrenが“東京”を歌った楽曲があります。2008(平成20)年に発表されたアルバム『SUPERMARKET FANTASY』に収録されたアルバム曲「東京」です。

 桜井和寿は、どのような観点から東京を見据え、切り取り、どのようなメッセージを伝えようとしているのでしょうか。この楽曲の歌詞を紐解いていきましょう。

無機質で冷淡なイメージの東京

<東京を象徴しているロボットみたいなビルの街
 目一杯 精一杯の
 働く人で今日もごった返してる>

 これは「東京」のはじまりの一節です。

人々がせわしなく行き過ぎる街、東京。皆さまざまな思いを抱いている(画像:写真AC)



 歌詞の後半を読んでいくと、この楽曲の主人公は、地方から上京してきたことが読み取れますが、そうした地方出身者から見た、無機質で冷淡、そして喧騒という東京のイメージが綴られています。そしてこの楽曲は、次のように続いていきます。

<描いた夢、理想を追い続けたって 多分
 ものにできるのはひとにぎりの人だけど
 あと少し頑張ってみようかな
 それでもいつか可能性が消える日が来ても
 大切な人はいる>

<この街に大切な場所がある
 この街に大切な人がいる>

 喧騒の街・東京の中で、自分の夢を叶えるために、もしくは、自分にとって大切なものを守り続けるために、日々を懸命に生きている人(特に、地方出身者)にとっては、この歌は、とても深く響くのではないでしょうか。

「誰かが特別喜ぶでもない でも」

 そして、直接的に東京を描いているわけではないものの、同じテーマを持つMr.Childrenの楽曲は、ほかにも存在します。その内のひとつが、2005(平成17)年に発表されたアルバム『I ♥ U』のオープニングナンバー「Worlds end」です。

<飲み込んで 吐き出すだけの
 単純作業繰り返す自販機みたいに
 この街にボーっと突っ立って
 そこにあることで誰かが特別喜ぶでもない
 でも僕が放つ明かりで 君の足元を照らしてみせるよ
 きっと きっと>

多くの“サラリーマン”が行き交う新橋。Mr.Childrenの歌詞に共感を覚える人も少なくないはずだ(画像:写真AC)



 ここで引用したのは、この楽曲の2番のサビの歌詞で、この一節の前半では非常に辛辣な労働の描写が続きますが、最後には、この楽曲の主人公は、大切な人である「君」のために、輝かしい存在意義を取り戻していきます。

 続いて、2010年に発表されたアルバム『SENSE』に収録された楽曲「擬態」を紹介します。

<アスファルトを飛び跳ねる
 トビウオに擬態して
 血を流し それでも遠く伸びて
 必然を 偶然を
 すべて自分のもんにできたなら
 現在を越えて行けるのに。。。>

不条理な現実、それでも諦めない思い

 これは、あくまでも個人的な解釈ではありますが、筆者は「アスファルトを飛び跳ねるトビウオ」という言葉から、コンクリートジャングルと呼ばれる東京の街で必死に生きる人々の姿を思い浮かべました。

 この楽曲を通して描かれる景色は、決してポジティブなものではありません。不条理で不平等な現実と折り合いをつけながら、それでも諦めずに、自分の夢や信念のために生きようとする主人公の物語が綴られています。

 そして、この物語の主人公は、そのまま、この楽曲の「リスナー」と言い換えることができるはずで、その意味で、この楽曲のメッセージに奮い立たされるような思いを抱く人は、きっと少なくないはずです。

 最後に、現時点における最新アルバム『SOUNDTRACKS』のリード曲「Brand new planet」を紹介します。

巨大な都市を俯瞰してみれば自分の悩みなどちっぽけなものかもしれない。それでもやはり悩み事は尽きない(画像:写真AC)



<立ち止まったら そこで何か
 終わってしまうって走り続けた
 でも歩道橋の上 きらめく星々は
 宇宙の大きさでそれを笑っていた>

 この曲の冒頭に歌われるのは、夢や憧れのために、ある街の中を必死になって走り続ける主人公の描写です。そしてこの後のサビでは、次のように歌われます。

<静かに葬ろうとした
 憧れを解放したい
 消えかけの可能星を見つけに行こう
 何処かでまた迷うだろう
 でも今なら遅くはない
 新しい「欲しい」まで もうすぐ>

あなたのミスチル「東京ナンバー」は?

 これまで紹介してきた楽曲は、東京、もしくは、ひとつの街が舞台となっていましたが、この「Brand new planet」では、メッセージのスケールが宇宙規模へと拡大しています(「可能性」を「可能星」と、逆に「星」を「欲しい」と表記している点にも、要注目です)。

 日々の生活における些細な感情や心境の変化が、「宇宙」へと接続されていく壮大な展開、そして、そこに説得力をもたせる奥行きと深みを秘めた重厚なバンドアンサンブルに、筆者は強く心を打たれました。

※ ※ ※

 ここで紹介した楽曲はごく一部で、Mr.Childrenの楽曲の中には、まだまだ、東京の街で懸命に生きる人々の背中を押し、そうした人生を鮮やかに彩ってくれる楽曲が数多くあると思っています。ぜひあなたも、自分にとっての「東京ナンバー」を探してみてください。

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