日本人はいつから過度なバッシングをするようになったのかーー『テラハ暴走』を機に考える
SNSの普及で、さまざまな人たちに対するバッシングが加速しています。そんなバッシングとは日本でいつごろから始まったのでしょうか。20世紀研究家の星野正子さんが解説します。バッシングの裏には必ず人間がいる 現在、ネット上のバッシングが大きな問題となっています。 このサイト(アーバンライフメトロ)の記事を読んでいる人たちが、そのようなものとは無縁で、東京の楽しい生活を送っているであろうことを、筆者(星野正子。20世紀研究家)は願っています。 ただ残念なことに、バッシングの裏には必ず人間がいるのです。都会の闇にそうした悪意を振りまく人たちがいるのを想像すると、東京の美しい風景も色あせてしまう気がします。 恋愛リアリティー番組『テラスハウス』のウェブサイト(画像:フジテレビ) さて、バッシングとは英語の「bash(たたく)」から来ている言葉で、個人や団体などさまざまな事柄を過剰に非難することを意味しています。 日本で知られるようになったのは、1970年代以降、国際社会で経済力を発揮した日本企業に対して、あおりを受けた諸外国の人たちが非難を繰り返す「ジャパンバッシング」が相次いだ頃。 このことから「バッシング」という言葉は広がり始めたのです。 読者や視聴者の目が肥えていた時代読者や視聴者の目が肥えていた時代 さてバッシングという言葉が普及する以前から、ターゲットを決めて徹底的にたたく手法は、雑誌やワイドショーでよく使われていました。とりわけターゲットになっていたのは、芸能人や有名人です。 昭和のイメージ(画像:写真AC) これはある意味、「プロレス的」な要素も含んでいました。 というのも、読者や視聴者は雑誌の名前で内容の真偽を判断していたからです。大手出版社の発行する週刊誌の情報なら信頼できるが、実話誌や月刊誌は本当なのかどうなのか、と。 雑誌全盛時代の読者は、書き手の名前や文章のテンションから情報に真実味があるかどうかを的確に判断していました。そして、たいていのバッシング記事は大して根拠のないものだ、と理解しながら受け入れていたのです。 一方、テレビのワイドショーは、本人がカメラの前でしゃべっていなければ、あまり信頼できないと思われていました。 特定の有名人を攻撃する空気に 読者や視聴者が「舞台裏の意図」を理解しながら楽しんでいるはずだったバッシングは、1995(平成7)年頃から激変します。なぜか特定の有名人を攻撃するような記事が、読者や視聴者の支持を受け始めるようになったのです。 その結果、ある有名人が注目されると、すぐに雑誌やワイドショーでバッシングされるのが定番サイクルとなっていました。この時期、どのような人がどのような理由でバッシングされていたのか、過去の資料を調べていると思わず驚いてしまいます。 週刊誌記者のイメージ(画像:写真AC) 数々の人気ドラマの脚本を手掛けていた野島伸司さんには、「カネにうるさい」とか「性格がゴーマン」との理由で批判が――。 若乃花(現・花田虎上さん)の元妻・花田美恵子さんは婚約が発表された当初、勤務していた日本航空のカレンダーに使われていた写真と、記者会見での雰囲気が変わっていたことから、「ブランド好き」「おねだり美恵子」との理由で批判が――。 またドラマ『ポケベルが鳴らなくて』(日本テレビ系)で、緒形拳演じる男の家庭を壊す女性を演じた裕木奈江さんには、「ぶりっ子」「嫌いな女優No.1」などの言葉が浴びせかけられました。 裕木さんに至っては、ドラマ中の演技があまりにもリアルだったために、ドラマの役と本人のパーソナリティーが同一視されたという、あまりにも皮肉な結果となりました。 繰り返される過ち繰り返される過ち こうしたバッシングが読者や視聴者から支持を集めた理由は、景気の後退を抜きにしては語れません。 つい数年前までは、夢なら何でもかないそうだったバブルという時代。それが終焉(しゅうえん)を迎え、もはや日常は変わらないものだという意識が共有されていく中、過剰な怒りの矛先が、少し目立った人たちに向けられるようになったのです。 当時のバッシングブームは一過性でしたが、過剰に何かをたたく行為は残念ながら繰り返し起きています。 SNSを利用する女性のイメージ(画像:写真AC) とりわけ誰もがSNS上でバッシングできるようになったことで、状況は加速しています。そういったことを、この度の新型コロナウイルス感染拡大で現れた「自粛警察」や、恋愛リアリティー番組『テラスハウス』の出演者の死などによって、私たちは改めて知ったのではないでしょうか。 人々のさまざまな価値観が変わり始めたウィズコロナ時代の今こそ、SNS上のマナーも良い方向へ変えるチャンスであると、筆者は強く感じています。 皆さん、本当に変えていきましょう。
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