旅情とは何か? ムーンライトながら廃止でよみがえる前身「大垣夜行」の記憶

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旅情とは何か? ムーンライトながら廃止でよみがえる前身「大垣夜行」の記憶

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大居候

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1月22日に運転終了が告げられ、話題となった夜行快速「ムーンライトながら」。その前身である「大垣夜行」の思い出について、フリーライターの大居候さんが解説します。

車両の老朽化で廃止

 JR東日本とJR東海が2021年1月22日(金)に発表したニュースリリース「春の増発列車のお知らせ」は、全国の鉄道ファンを驚かせました。

「臨時列車の快速『ムーンライトながら』につきましては、お客さまの行動様式の変化により列車の使命が薄れてきたことに加え、使用している車両の老朽化に伴い、運転を終了いたします」

 新型コロナの感染拡大で、2020年春の運行を最後に休止していた夜行快速「ムーンライトながら」が再開されることなく、廃止となったのです。

在りし日の『ムーンライトながら』(画像:写真AC)



 1996(平成8)年3月のダイヤ改正とともに登場したムーンライトながら。2009年3月に臨時列車となるまで、毎日運行されていました。

 その前身である「大垣夜行」が誕生したのは、1969(昭和44)年10月のこと。1967年10月のダイヤ改正で東京~大阪間の1往復と、豊橋~東京間の夜行普通列車(上りのみ)の運転区間を短縮、電車の使用に切り替えて存続させたものです。

 まだ高速バスもない時代。大垣夜行は東海道本線を移動する格安の手段でした。帰省から貧乏旅行、鉄道好きまであらゆる人がこの列車を使い、その需要たるや繁忙期には臨時列車が運転されるほどでした。

 そして一部にグリーン車指定席という名前のリクライニングシートの座席があるほかは、すべてが普通の電車の自由席です。そのため、列車に乗るためには座席を確保するための強い意志が必要でした。1時間前に並べば座れないことはありませんが、よい座席を確保するなら、4~5時間ほど前から並んでおく必要があります。

 しかも、東京駅の東海道本線のホームはさまざまな列車が出入りし常に混雑しているため、邪魔にならないように並ばないといけません。

 新宿駅構内にはかつて「アルプス広場」という看板のあるスペースがありましたが(2020年7月廃止)、ここはかつて信州方面への登山客を運んでいた急行アルプスの乗客を待機させていたことが由来とされています。

 この急行アルプスの後継であるムーンライト信州も、2018年の最終運行で廃止されてしまいました。

知らない人と共有する「旅は道連れ」な雰囲気

 東京駅で大垣夜行を待つのは大変でしたが、逆に繁忙期は楽でした。大垣夜行は繁忙期になると品川駅始発に変更され、かつての品川駅には臨時列車のためのホームがあったからです。

現在の品川駅(画像:写真AC)



 こちらはほかの乗客の邪魔にならずに待つことができまし、筆者も何度も利用しました。まず必須なのはお尻の下に敷くものです。だいたいキヨスクで新聞を買って使っていました。

 なにしろ、スマートフォンはおろか携帯電話も普及していない時代。ヒマをつぶすには文字のある紙が欠かせません。次第に行列ができてくると、敷くものを持っていない人もいるため、新聞を分けてあげて、それをきっかけに会話をして時間をつぶすのです

 大垣夜行の一番の特徴は、こうして生まれる「旅は道連れ」の雰囲気でした。

「青春18きっぷ」で乗車できる時期の大垣夜行には、だいたい貧乏旅行をする人か、なにかの夢を追っている人ばかりが集まりました。似たような趣味を持つ人間という気安さで会話は弾みます。照明がずっと点灯したままの車内で、たまたま居合わせた者同士が交流する光景は、その後のムーンライトながら、あるいは夜行バスといったほかの交通機関には存在しないものでした。

 あれこれと話をしながらウトウトとして、目が覚めるのは豊橋駅を過ぎたあたりという人が多かったと思います。途中、名古屋で下車する人もいましたが、大半は終点の大垣まで。

 そこから西へ行くためには、車両の少ない米原駅へ向かう普通列車へ急いで乗り換えなければなりません。座席を確保するために走る様子は「大垣ダッシュ」として知られていました。もっとも、急がない人は1本後の普通列車でゆっくりと旅していましたが……。

 米原駅からは新快速に乗り換えて姫路まで。姫路駅の中華麺を使った独特の駅そばは長旅を癒やしてくれる味でした。その姫路駅の駅そばも、今ではリニューアルして立派な店構えとなっています。

便利さと旅情のはざまに揺られて

 そんな旅情も今は遠い記憶です。高速バスに続いて登場したLCC(格安航空会社)により、旅はさらに早く安く楽しめるようになりました。気がつけば、夜行列車も寝台列車もありません。

 夜行列車の最大の利点は、移動しながら休息を取ることができることです。あまり休みを取れない社会人であれば有り難い手段だと思うのですが、そう考えない人のほうが多いようです。

紙の時刻表のイメージ(画像:写真AC)



 さて、ムーンライトながらは消滅しましたが、2021年の春も青春18きっぷは例年通り発売されることが告知されています。春、そして夏はどこに行こうか……旅のプランを考えるために、まずは紙の時刻表を買うのも悪くないかもしれません。

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