女たちはストッキングを脱いだ――1996年夏を彩った「生足ブーム」を振り返る

今から24年前、あるスーパーモデルの来日から始まった「生足ブーム」について、ルポライターの昼間たかしさんが解説します。


大はやりしたのに消えたブーム

 いつの時代でも東京は流行の発信地。日本国内にインスタ映えするオシャレな街はたくさんありますが、ファッションの最先端はやっぱり東京。多くの有名ブランドが集まり、ありとあらゆる選択肢がある、こんな都市は世界でも限られています。

 さまざまな流行の中で、ファッションほど移ろいやすいものはありません。

「生足ブーム」は1996年に起きた(画像:写真AC)



 例えば、1964(昭和39)年の夏に大はやりした「みゆき族」。男性はアイビールックをくずしてコットンパンツやバミューダショーツ、女性は白いブラウスにロングスカート、頭にはスカーフや首にチーフ、男女ともに手にはVANかJUNの紙袋というスタイルーー。

 同年春ごろから注目されたこのファッションは、銀座のみゆき通りにあったVANを中心に若者が集まったことから、みゆき族と呼ばれました。この新たなファッションの流行は、その後のアイビールックの定着もあり現代史の1ページに記録されています。しかし、流行はひと夏のもので終わりました。

 このように、現代史の中ではさまざまなファッションが足跡だけを残して消えています。足跡が残ればまだいいほうで、大はやりしたのに「そんなのあった?」と完全に忘却されているものも多いのです。

 今回はそのひとつ。1996(平成8)年の生足ブームを取り上げてみたいと思います。

きっかけはスーパーモデルの来日

 女性たちがストッキングやパンティーストッキングを履かなくなった、そんな現象が注目されるようになったのは1996年8月のことでした。

 それまで、女性ファッションの定番アイテムといえばストッキング。多くの女性にとって、暑くてもストッキングを着用して過ごすのは常識でした。

ストッキングを履いた女性のイメージ(画像:写真AC)



 ところが、この夏は違いました。

 多くの女性が、ミニスカートに露出の多いサンダルを履き、生足を堂々と見せつけて大手を振って歩いていたのです。

 そんな新たな流行の発信源となったのは、海外のスーパーモデルでした。1996年5月、世界で注目を集めていたシンディ・クロフォードが来日します。

 そんな彼女が当時愛用していたのが、生足にサンダルといういでたち。それが当時の女性たちには目新しく、かつ格好良く映ったのです。

大いに売れたサンダル

 それまでも、当時隆盛を誇ったコギャルはルーズソックスに生足。安室奈美恵のファッションに影響を受けたアムラーは、生足にブーツをメインファッションにしていました。

かつてコギャルたちでにぎわった渋谷の街並み(画像:写真AC)

 どちらも生足ではあるといえ、足の大部分は隠れています。ところが、この夏のブームはサンダル。隠すことなく堂々と足を見せることに新たな美的価値観が生まれたわけです。

 まず、大いに売れたのはサンダルです。女性誌はどれもサンダルを特集し、店舗によっては例年の倍以上のサンダルが売れました。

 当時の売れ筋は、1万円以内のミュール。とりわけベージュ系でヒールが8cm以上の太いもの。爪先下のソール部分が厚手のものが人気でした。存在感のあるサンダルでカツカツと音を鳴らして歩く女性たちには、独特の美しさがありました。

訪れなかったストッキング回帰

 隠すことなく足を見せるブームに乗って、さまざまな産業が相乗効果で売り上げを伸ばします。

 まず売れたのはマニキュアです。人気のサンダルは、ほぼひもで固定しているような状態ですから、爪の先まで丸見え。視線に入りやすい爪の部分をオシャレするのは当然です。

足の爪に塗ったマニキュアのイメージ(画像:写真AC)



 各化粧品メーカーは、マニキュアやフットケア商品の販売額が急増します。足のマニキュアのコツは、手の爪よりワントーン濃くすること。そうすることで、足が引き締まって見える効果がありました。

 さて、1996年の夏を彩った「ミニスカ + 生足」ファッションですが秋になると、瞬く間に姿を消していきます。次第に寒くなるのだから当然です。

 しかし、女性たちはストッキングには回帰しませんでした。女性たちの間で新たに流行したのは、同じく1996年の春ごろからはやり始めていたパンツスタイルでした。

 余談ですが、この頃はまだズボンという呼称のほうが主流で世の男性たちは一度ならずとも「パンツ」と聞いて下着とごっちゃになって混乱したものです。

パンツスタイルの普及

 パンツに生足で見せるスタイルは、このファッションスタイルの代表格だった女優・山口智子にちなんで「トモラー」と呼ばれるようになります。

 身体にフィットしたパンツスタイルは、足を全部見せるスタイルよりも楽だったのでしょうか。それはブームから定着へと向かい、翌年以降も継続します。

 同時に、関連アイテムも進化します。

 当時の代表的なアイテムが、カネボウの脚用ファンデーション「レッキュ レッグテイント」です。

パンツスタイルのイメージ(画像:写真AC)

 サンダルの流行で、女性たちは気づきました。女優やモデルでもない限り、意外と足には、傷や虫刺されの痕が目立つものだと。

 オシャレに気を遣うと、毛穴のブツブツや肌のムラも気になります。そうした需要に応えて、塗れば足がきれいに見えるとして人気になったのが、この商品だったわけです。

 ブームが定着期に入った1997年3月に発売されたこの商品は宣伝を一切しないにもかかわらず、女子高生を中心に口コミで広がり、4か月で50万本を売る大ヒット商品となりました。

 もし生足の流行がミニスカートとの組み合わせのみだったら、ひと夏の流行で終わったでしょう。しかし、汎用(はんよう)性の高いパンツスタイルが同時に登場したことで、定番スタイルとして定着していったのです。

次の流行はフットカバー

 さて最近の動向を見ると2018年頃から、ストッキングの売り上げ不振が幾度かニュースになっています。

 夏の暑さが厳しくなり、1990年代以上にストッキングが敬遠されるようになったこと、簡易なフットカバーが女性に人気を集めていること、が理由のようです。

フットカバーのイメージ(画像:写真AC)



 しかし、ファッションは幾度も流行廃りを繰り返すものです。

 男性の場合でも、ネクタイの結び目を大きくするか小さくするかーー筆者(昼間たかし。ルポライター)が上京してから何度入れ替わったことか。冬のダウンジャケットも「沿岸警備隊か!」と言われることがあったりすれば、最新ファッションになったりもする……。

 とはいえ、そんな世の移ろいを最先端で見ることができる東京は、やっぱりすてきな街だと思います。


【画像】今年のトレンドは? 2020年、最新「ストッキング」4選

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