「あなた、妊娠してたの!?」 保護した子猫がベッドで突然の出産、助けた女性の苦闘と決断とは
いつも見掛ける子猫を保護したら そろそろ梅雨が明けて、暑さが本格的になりそうな時期でした。 猫のシェルターを運営している私(山本葉子。東京キャットガーディアン代表)たちの元には、子猫の保護依頼の連絡が連日メールなどで届きます。このときは、若い女性と思われる文面でした。 「私は飼ってあげる決心がつかないのですが、行き場がないのか子猫が家の前によく来るんです。一時的な保護はできるので、そのあと引き受けてくれるところを探しています」 その夜まさかの事態が待っていた お聞きした大きさからすると3~4か月くらいの猫でしょうか。白のボディーに淡い橙(だいだい)とグレー。三毛ちゃんだから女の子ですね。 実家で猫を飼っていたので、猫は大好きだし保護もできそうだと言うので、おいしいご飯で仲良くなって貸し出したキャリーケージに誘導するようにお願いしました。 そして、2日後。 捕獲はうまくいって、家に一時保護することができたと電話がありました。良かった良かった。ひと晩おいてご飯をたっぷり食べて、落ち着いてからシェルターに連れて行きます、とお約束。 私も彼女もホッとひと息だったのですが、まさかの事態が待っていました。 ここからは彼女の話です。 保護した小さい猫(仮称チビちゃん)は、家の中に入れるとよくご飯を食べて甘えるようにずっと鳴き続けたので、思い切ってキャリーケージから出しました。 怖がる様子もなく、なでられるととってもうれしそうに体や頭をなすり付けてきて、「助けてあげて本当に良かった」と思ったそうです。 布団に広がる真っ赤な血のシミ布団に広がる真っ赤な血のシミ ひとしきり部屋を探検したらベッドにも付いてきて、掛け布団をあちこち「ふみふみ」した後で彼女の足元の方で丸くなって寝る体勢。 久しぶりの猫がいる生活に興奮したり、「やっぱり飼ってあげられないかな」と考えてみたりしながら眠りにつきました。 夜中にふと起きて、最初に感じた違和感は手触り。なんだかぬるぬるする。続いて匂い。知っているけど思い出せない匂い。 自宅に保護した小さな猫が、深夜に突然の出産。驚いた女性は……(画像:写真AC) 手探りで電気をつけて見下ろすと、掛け布団と敷布団の間に真っ赤な血のシミが広がっていました。 一瞬自分の体に何かあったのかと思い、続いて猫の具合が急変したのかと考え、布団を大きくめくってみると、そこには保護したあの子とたくさんの生まれたばかりのベビーたちがいました。 真夜中、突然の出産 どうすれば? 人間の脳はあり得ないものを見たとき、しばらくの間それを認識しないそうですね。彼女もまた、目の前の光景を理解することができなくて、しばらく声も出せずにフリーズしていたそうです。 時間にしてどれくらいでしょう。このままでいるわけにはいかないと、恐る恐るもっと近づいてみました。 保護したチビちゃんは、実は大人で身ごもっているお母さん猫だったようです。初めての出産なのか、チビちゃんはぼーっとしていて、よく見るとうごめいている子猫たちとチビちゃんは、へその緒でまだつながっています。大変! 震える手でハサミを握りしめて震える手でハサミを握りしめて 昔見た映画の記憶を頼りに、なんとかへその緒を切らなきゃいけないのではと思い、でもその辺のハサミなんかで切ったら不衛生じゃないかと考え、そうだガスの火であぶって消毒すればいいのでは……と。 いったん動き出した彼女は早かったようです。ハサミ・タオル・お湯・なぜか塗り薬まで用意して、チビちゃんに「動かないでね、すぐ終わるから」と何度も話しかけます。 消毒したハサミで思い切ってひとつずつ切り離す。心臓が飛び出しそうだったと後で語ってくれました。 ベッドの上で生まれた赤ちゃん猫たちに、女性が取った行動は……(画像:山本葉子) 見た目「笹(ささ)団子」のようなベビーたちは全部で6匹。 動いてはいますが血まみれで、切り離したへその緒が少し付いたまま、次はどうしたらいいのかと途方に暮れ始めた直後に、チビちゃんがやっとお母さん猫としての役目を思い出したのか、順々になめてキレイにしていきます。 ベビー猫の鳴き声 やがて大合唱に ベビーたちはコロコロと転がされながら鳴き声をあげていて、ひととき大合唱になりました。段ボール箱の一辺を開けてそこにバスタオルを敷いたら、チビちゃんが気に入ったのか子猫たちを運び込みます。 テレビで見たことのある「首根っこをくわえて」というスタイル。本当にそうやるんだ~と眺めているうちに、親子がすっぽり入っている巣ができ上がりました。 チビお母さんがパタンと横になる。ベビーたちがミルクにありつこうと必死になっておなかを探ります。 押し合いへし合い、鼻を使って相手を押しのけたりおなかの下に潜り込んだり。この生まれたばかりの小さい体のどこにそんな力がという光景。全員のポジションが決まると静かになり、一生懸命ミルクを吸う音だけが聞こえたそうです。 壮絶な一夜を越え、決心した女性壮絶な一夜を越え、決心した女性 この光景を見て安心して脱力した彼女は、そーっとお布団の片付けを始めました。もう気持ちは決まっていたそうです。 翌日、ことの経緯とともにお電話で「チビちゃんと一緒に暮らします。ベビーたちの方をシェルターで保護してもらえますか?」と申し入れがありました。 無事に出産した三毛のお母さん猫は、女性の家で暮らすことになった(画像:山本葉子) しばらく彼女の部屋でチビママに子育てをしてもらって、離乳が済んだらベビーたちを保護団体がお引き受けして、新しいご家庭を探すことに決まりました。 大変なひと晩を過ごした後で「もう、チビちゃんのいない生活は考えられない」と思ったのだそうです。 ベビーたちも里親が見つかって 一般的にオス猫に比べて体格の小さいメス猫ですが、こんなに小さいお母さん猫がいるとは、彼女も私も驚きでした。 ベビーたちは母乳でしっかりと育ち、シェルターでお引き受けした後、ずっと暮らすお家へもらわれていきました。ガッツのある女性に保護してもらってよかったね、チビちゃん。 ※ 猫の保護主である個人のプライバシーに配慮し、写真は全てイメージ画像です。
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