カネカ炎上に潜む、「父親の『形だけ』子育て」という本質 保育士経験者が見た現実とは

カネカの元従業員の妻が「夫が育休復帰直後に転勤を言い渡され退職した」ことをツイッターで告発し、同社に批判が集まっています。この件について、保育園で勤務経験があり、自身も子育て中のライター 秋山悠紀さんが見解を語ります。


「育休復帰直後に転勤」、カネカに批判殺到

 東京都産業労働局の「平成30年度 東京都男女雇用平等参画状況調査 結果報告」によると、平成30(2018)年の東京都の育児休業取得率は男性従業員16.6%、女性従業員95.9%でした。男性従業員の取得率は、前年度調査(12.3%)から4.3ポイント上昇していますが、女性の取得率に比べるとまだまだ低いことが分かります。

東京の男性の育休取得率はまだまだ低い(画像:写真AC)



 そんななか、男性の育児休暇の取りづらさを証明するような大手企業の対応が発覚し、批判が殺到しています。

 化学メーカー大手のカネカ(港区赤坂)の元従業員の妻が、「育休を取得した夫が復帰明け直後に転勤を命じられた。転勤時期の延長や有給取得の申請を相談するも却下され、結局退職した」と、同社への告発を示唆するツイートを投稿したところ、一気に拡散しました。

 育休明けに、従業員に転勤の辞令を出すこと自体は違法ではありません。それでもSNS上などでは、「パタハラ(パタニティ・ハラスメント)だ」「男も育休取れ取れって言っておいて、取ったらこの仕打ちはひどい」と、カネカに対して批判が殺到しています。

 この件を受けて、実際に子育て中であり、保育園勤務経験者である筆者が「夫婦で子育てすること」のリアルや父親が子育てに参加することの重要性についてお話します。

最近は父親も子育てに参加するようになった?

 数年前に比べたら、日本は少しずつ「父親も子育てに参加するのが当たり前」という社会全体の空気になってきています。

 筆者が保育園に勤務していた3年前も、子どもの送りはお父さん、お迎えは仕事を早く切り上げられるお母さんというご家庭が全体の2割程度いらっしゃいました。

 しかし、保育士側が受け入れる際に子どもの様子や連絡事項について聞こうとすると「それは母親に聞いてください」「ちょっと僕はわからないです」と答えられ、そそくさと会社に向かわれてしまうことがしばしばでした。

 今の日本におけるお父さんの子育て参加とは、まだまだ出勤前に保育園へ送りに行くだけであることを、保育の現場で痛感していました。

 今回の件もそうですが、未就学児は子育てにおいて最も手のかかる時期です。子育ては、子どもの命を守ることでもあります。この命を守る負担を、働いていようがいまいが、母親にすべてかけることのリスクを社会全体で理解しなければならないでしょう。

 現在10か月の子どもを育てる筆者の家庭も、夫は仕事が忙しく、平日は子どもと顔を合わせられない状態が日常です。そんななかでも、どうにか抱っこする回数や顔を合わせる頻度を確保しようと必死になっています。それは子どものためでもあり、「自分ひとりだけに子育ての命がのしかかっている」という重責から、少しでも解放されるためでもあります。

 実際に筆者が保育園に勤務していた時、仕事をしながらのワンオペ育児によって鬱になってしまい、仕事を退職され、しばらくして保育園を退園されたお母さんがいらっしゃいました。

 お父さんは某大手企業に勤務されており、一度も保育園の送迎や行事にいらしたことがないほどの激務。シングルマザーであれば腹をくくれるかもしれませんが、父親がいるのに子育てに参加してくれないという状況は、想像以上に母親の絶望感を増幅させるものなのです。

子育てに参加してこなかった後悔が向かう先

 タイミングを同じくして現在、取り沙汰されている中高年の引きこもり。あくまでも個人的な考えですが、この問題にも、父親による希薄な子育て参加の影を見てしまいます。

男性も板挟みになっている(画像:写真AC)



 今の中高年の親世代は70~80代。日本の高度成長期を支えるため、家庭を顧みずに子育ては母親にすべて任せ、仕事に没頭した人生を歩んできた世代です。

 そんな父親とほとんど触れ合えなかった子どもは、心のどこかに寂しさをずっと抱え、“不在の父”によって、自分自身が父になって家族を作るイメージを持てずに大人になってしまった人もいるのではないでしょうか。

 もちろん、引きこもりになる要因がすべて父親との関係性とは限りません。
 
 しかし、人間の自我形成において親はあまりにも大きな存在です。「寂しい思いをさせられた」という強い孤独感や、家庭をないがしろにしてまで没頭していた“仕事”に対するネガティブイメージによって、なかなか仕事に就けずに引きこもってしまう人も少なくないと思うのです。

 そして当の父親もまた、仕事をリタイアして時間ができて初めて子どもと向き合おうとしても、どう接していいかわからない。子育てをしてこなかった罪滅ぼしとでも言わんばかりに、お金を出してあげることでしかコミュニケーションを取れない状態になってしまっていることが、今社会問題になっている「8050問題」(50代前後の引きこもりが長期化している子どもを、80代前後の高齢の親が養うが、病気や介護で生活が立ち行かなくなる問題)の要因のひとつだと思えてなりません。

子育てに参加したいのにできないジレンマを抱えるお父さんも多い

 子育て中の身としても保育園勤務経験者としても、父親が子育てに参加しない弊害は少なくないと感じます。そして、実は子育てにもっと参加したいのに、長時間労働を余儀なくされている働き方のためになかなか叶わないという、板挟みに苦しんでいる子育て世代のお父さんも、少なくないでしょう。

 今回のカネカの件は、企業側が取得推奨をうたっておきながら、実情を伴わない実績作りとも言える男性育休制度の存在が浮き彫りになりました。カネカに限らず、日本の多くの企業で同じような事態が現在進行形で起こっており、今後も起こり得ると推測されます。

 女性の多様な働き方が進んでいる一方で、男性の働き方がいまだに変わっていないことは、子育て家庭に大きなひずみをもたらしています。

 企業アピールのための名ばかりの男性育休制度はもちろん、育休復帰後の男性の働き方自体も見直さない企業が社会にどのような影響をもたらしているのか。そしてそうした企業はもうこれからの時代に社員から選ばれずに生き残っていけないのだと、企業側が早く気付かなければならないのではないでしょうか。


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