大根で踊ってるだけじゃない バイオ分野で世界初の偉業達成「東京農業大学」とはどのような大学なのか

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大根で踊ってるだけじゃない バイオ分野で世界初の偉業達成「東京農業大学」とはどのような大学なのか

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中山まち子

教育ジャーナリスト

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スポーツやバイオサイエンス分野で名が知られる東京農業大学。同大の歴史について、教育ジャーナリストの中山まち子さんが解説します。

旧幕臣子息への奨学金支援が設立のきっかけ

 どんなに時代が変わっても、人が生きる上で欠かせないのが食事です。食事を支える農業があってこそ、私たちは日常生活を心配なく送れます。

 そんな農業について研究している機関のひとつに、大学の農学部があります。農学部は国立大学に多く、東京の私立大学でも限られていますが、そのなかでも東京農業大学(世田谷区桜丘)は100年以上の歴史を持つ、2017年度まで農学に特化した唯一の大学です。

東京農業大学の世田谷キャンパス(画像:(C)Google)



 東京農業大学は、江戸末期から明治初期までの混乱で地位が変わった旧幕臣の子息への奨学金支援がきっかけとなり設立されました。

 幕臣として新政府軍に最後まで抵抗した榎本武揚(たけあき)は、戊辰(ぼしん)戦争(1868~1869年)後に投獄されるも、新政府の黒田清隆の助命活動などによって特赦で放免。その後は明治政府の要職に就き、北海道開拓使などで活躍した人物として知られています。

 その榎本武揚が1885(明治18)年に設立したのが徳川育英会です。時代が明治になり、思うように勉学に励むことができなくなった旧幕臣の子息を支援する目的で設立されました。

 この育英会を母体として、現在の千代田区飯田橋付近に1891年、商業科、普通科、農業科を開校しました。東京農業大学のルーツはこの農業科にあたります。

 その後は経営難で徳川育英会は大日本農会に移管されたものの、1925(大正14)年に財団法人化し、大学令を受けて東京農業大学に昇進。晴れて独立となりました。

農学一色から専門性の高い大学へ

 東京農業大学は設立当初から実学を重視し、研究や実験を重ねることで、効率的な近代農業を支える教育機関として数多くの学生を輩出してきました。

 そんな農学に特化した大学ですが、現在はバイオテクノロジーや遺伝子、環境問題といった最先端技術を学べる理系大学になっています。

東京農業大学の厚木キャンパス(画像:(C)Google)



 現在は世田谷キャンパスと厚木キャンパス(神奈川県厚木市)、そして北海道オホーツクキャンパス(北海道網走市)に、

●農学部
・農学科
・動物科学科
・生物資源開発学科
・デザイン農学科

●応用生物学部
・農芸化学科
・醸造科学科
・食品安全健康学科
・栄養科学科

●生命科学部
・バイオサイエンス学科
・分子生命化学科
・分子微生物学科

●地球環境科学部
・森林総合科学科
・生産環境工学科
・造園科学科
・地域創生科学科

●国際食料情報学部
・国際農業開発学科
・食料環境経済学科
・国際バイオビジネス学科
・国際食農科学科

●生物環境学部
・北方圏農学科
・海洋水産学科
・食香粧化学科
・自然資源経営学科

の6学部23学科があり、1万2419人が在籍しています(2020年度)。

 なお北海道オホーツクキャンパスは生物環境学部が、厚木キャンパスは農学部が利用しています。

名物の大根踊りで有名

 さて、東京農業大学の名前を聞いて一般的に思い浮かぶのが、インパクトの強い葉付き大根を持って踊る応援歌「大根踊り」ではないでしょうか。

 大根踊りの正式名称は「青山ほとり」といい、大学公式ページによると1952(昭和27)に開催された戦後初の文化祭「収穫祭」時に大根を持ったパフォーマンスが披露されたと書かれています。

大根(画像:写真AC)



 応援歌そのものは1923(大正12)年に作成されており、歌詞に登場する「常磐松」は当時の校舎があった常磐松御料地(現在の渋谷区渋谷4丁目)にあった常磐の松を由来としています。学歌にも「常磐の松風」とあるので、学校のシンボルマーク的存在だったようです。

 しかし、農業系の大学は実習を行うために広大な土地が必要です。そのため、世田谷という都心の一等地にあるキャンパスのほかに、同大は新キャンパスを設置することに。

 1960(昭和35)年には現在の厚木キャンパスの基になる厚木農場を、1989年(平成元)年には北海道オホーツクキャンパスを造りました。

プロスポーツの世界でも卒業生が大活躍

 現在、東京農業大学の運動部でひときわ活躍をしている部が北海道オホーツクキャンパスの野球部です。

東京農業大学の北海道オホーツクキャンパス(画像:(C)Google)

 ソフトバンクホークスで活躍し、全日本のメンバーにも選抜された周東佑京(しゅうとう うきょう)選手も生物産業学部出身です。

 流氷観光で有名な網走市にあるキャンパスは冬は極寒となり、厳しい環境下で学業と練習に打ち込んでいます。

 また、東京農業大学といえば相撲の名門として有名です。相撲部の歴史は古く明治末期に創立と、学生相撲を語るには東京農業大学を外すことはできません。

 9月場所で幕内優勝し大関昇進を決めた正代関も東京農業大学出身です。大学2年で学生横綱になるなど華々しい成績をおさめています。

世界が驚いた卵子だけで誕生したマウス

 農業とスポーツ強豪校というイメージがある一方で、東京農業大学は世界初となる偉業も達成しています。

 2004(平成16)年6月、河野友宏教授の研究グループが世界的科学雑誌「ネイチャー」で、卵子のみを使ってマウスを誕生させることに成功したと発表しました。哺乳類がメスのみで新たな生命を産むことは当時不可能とされており、世界に衝撃が走りました。

 なお2003年2月3日に誕生した二母性マウス「かぐや」は剥製標本となり、大切に保管されています。

女子学生の割合は4割超

 前述のように東京農業大学は栄養学や生命科学、バイオテクノロジーなど最先端技術の研究開発を行っており、こうした学部学科が新設されていることもあり、2020年度の学生は男子56.2%、女子43.8%と女子学生の割合も高くなっています。

 新型コロナウイルスにより、就職氷河期が再来するのではないかと危惧されていますが、東京農業大学のように専門生の高い学部学科を卒業している学生は強みになると言えます。

東京農業大学のウェブサイト(画像:東京農業大学)



 東京農業大学のひとり当たりの求人倍率は5.65倍です。全国平均1.83倍を考えると、いかに同大の人材が多くの企業から求められているかが分かります。

 先行き不透明な時代のなか、人が生きていく中でなくてはならない農業やバイオテクノロジーに特化した東京農業大学の存在価値は今後増していくでしょう。

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