悪魔的な高カロリー鍋が大人気! 健康ブームはいずこへ? その背景に迫る
食の健康志向が加速する一方、多くの人が高カロリーな食べ物を求めていることが分かりました。そのトレンドの背景にはいったい何があるのでしょうか。加速する健康ブームの裏で…… 食の健康志向が加速しています。糖質制限やスーパーフードのほか、女性たちの間で特に盛り上がりを見せているのが「ギルトフリー」食品です。ギルトフリー食品とはその名のとおり、食べても「罪悪感(ギルト)」を感じずに食欲を満たせる商品のこと。ここでいう「罪悪感」とは、添加物やカロリー、アレルギーなどで、現在市場には、ラーメンからパスタ、アイスまで、さまざまな対応商品が並んでいます。 「鶏ポタ ラーメン THANK」(港区芝大門)が2018年7月に販売したギルトフリーラーメン「冷製トマトのモリンガ麺」。栄養豊富なスーパーフード「モリンガ」を使った一品(画像:ビースタイル) そんななか、リクルートライフスタイル(千代田区丸の内)の調査機関「ホットペッパーグルメ外食総研」が全国に住む20~59歳の男女約1000人を対象に行ったインターネット調査によると、「高カロリーな料理に抵抗がある」と答えた人が約半数いる一方、そのなかの約80%は「抵抗がある」にもかかわらず、「たまには高カロリー料理を思い切り食べたい」と考えていることが分かりました。このような結果は、人々の「本音」なのでしょうか。 「いくら健康志向が高まっているといっても、(約80%という)この数値は想像以上でした」 ホットペッパーグルメ外食総研の上席研究員・有木真理さんも、今回の結果について驚きを隠し切れない様子で話します。 リクルートライフスタイルが行ったインターネット調査の結果(画像:リクルートライフスタイルのデータを元にULM編集部で作成)「健康志向が高まっていると言われていますが、本気で健康を気にしている人は、外食や中食をあまりせず、自宅で料理を作る傾向があります」 こう分析するのは、調査会社「NPD Japan(エヌピーディー・ジャパン)」(港区高輪)のシニアアナリスト・東さやかさんです。東さんは、外食・中食時における人々の「健康意識」は近年、継続的に低下していると指摘します。その背景にあるのは、前出の「本音」のほか、コンビニエンスストアの利用率の高まりが関係しているようです。 エヌピーディー・ジャパンが、2014年10月から2018年9月までを4ピリオドに分けて調査した「外食・中食時の健康意識」の変化(画像:エヌピーディー・ジャパン)「コンビニエンスストアの便利さや商品価格に慣れている現代人は、健康志向よりも『わざわざ外出してお金を払うのなら、家では食べられない価値のある商品に払いたい』という意識が強くなってきているのです」(東さん) テレビ露出なしでも人気テレビ露出なしでも人気 こういったなか、外食業界は今冬、「たまには高カロリー料理を思い切り食べたい」というニーズを先取りして、あるメニューを積極的に提供しています。それは鍋です。 外食大手のダイヤモンドダイニング(港区芝)は、都内20店舗で、高カロリーだったり、プリン体を多く含んでいたりする鍋を計14種類提供しています。「贅沢★牡蠣×アン肝×白子の新痛風鍋」(1人前2640円)や「白子とあん肝の痛風いくら鍋」(1人前3580円)、「男のにんにくバターもつ鍋」(1人前1390円)といったメニュー名からも、その「罪悪感」がたっぷり伝わってきます。 なお、これまでにも高カロリーなどを売りにした鍋メニューは存在していましたが、あくまでも宴会や飲み会を盛り上げる「インパクトのあるツール」のひとつであり、「罪悪感の演出というより、各社が他企業との差別化を図る手段」(有木さん)として提供していたといいます。 ダイヤモンドダイニングが運営する鍋専門店「九州黒太鼓 池袋」で提供されている「贅沢★牡蠣×アン肝×白子の新痛風鍋」(画像:ダイヤモンドダイニング)ダイヤモンドダイニングが運営する鍋専門店「九州黒太鼓 池袋」で提供されている「白子とあん肝の痛風いくら鍋」(画像:ダイヤモンドダイニング)「たまに『良くないもの』を食べて、とことん贅沢できる鍋を追求しました。プリン体の多いあん肝、白子などはもちろん、贅沢気分に浸れるうに、いくら、濃厚な味わいとコクを加えるバターともつなど、いくつもの贅沢食材を組み合わせました。想像するだけで胸焼けしそうな『罪悪感』を演出しています」(ダイヤモンドダイニング) 「罪悪感」を感じる鍋を注文するのは男性が多いですが、年齢層は若者から年配者まで幅広いといいます。同社は当初、一般的な鍋より高価という理由から「注文数は控えめだろう」と予想していましたが、テレビなどで一切紹介されていないにもかかわらず、現在では鍋の人気ランキングの上位に食い込んでいるとのことです。 「(SNSに料理の写真が投稿された際)インスタ映えする料理には『きれいだね』『すごいね』といった客観的な『いいね』が押されますが、このような鍋には『本当に美味しそう』『食べたい』という主観的で、衝動的な『いいね』が押されます」(同) そういったことからも、SNSとの親和性が高いメニューといえます。 売り上げは予想の約150% カフェダイニング事業を手掛けるエスエルディー(渋谷区神南)は、都内に8店舗を構える「kawara CAFE&DINING」や「hole hole cafe&diner」(都内3店舗)で、2018年10月から「イベリコ豚とカマンベールチーズの塩バターミルフィーユ鍋」(1人前1180円)や、「牛ステーキのアボカドサルサチーズ鍋」(1人前1480~1680円)を展開しています。注文の多くは意外にも20~30代の女性で、こちらもSNSからの反応が大きいようです。 「『イベリコ豚とカマンベールチーズの塩バターミルフィーユ鍋』のチーズやバターが一体となって溶ける様子は、インスタグラムを中心にブームの『ムービージェニック(動画映え)』的な観点からも人気です」 ホットペッパーグルメ外食総研の有木さんはこう説明します。 エスエルディーが運営する「kawara CAFE&DINING」で提供されている「イベリコ豚とカマンベールチーズの塩バターミルフィーユ鍋」(画像:エスエルディー)エスエルディーが運営する「hole hole cafe&diner」で提供されている「牛ステーキのアボカドサルサチーズ鍋」(画像:エスエルディー)「罪悪感」鍋の売り上げは現在、同社予想の約150%と好調とのこと。 「平日は健康を意識するが、たまには息抜きでこってりしたものを食べたくなる、という人の総数は増えると考えています」(エスエルディー) 罪悪感消費のきっかけは……罪悪感消費のきっかけは…… エヌピーディー・ジャパンの東さんによると、このような「罪悪感」流行の背景には、ワイン国内最大手メルシャン(中野区中野)が2017年4月から行った、チリワイン「カッシェロ・デル・ディアブロ」の販促キャンペーンがあるといいます。「悪魔の蔵」の伝説を持つといわれる同ワインと相性の良い高カロリーなメニューを「悪魔メシ」と定義したことがブームの始まりといえるようです。 「カッシェロ・デル・ディアブロ」と相性抜群な「悪魔メシ」をPRするホームページ(画像:メルシャン)「これを機に、カロリーが高く健康に悪そうだが、甘美的で魅惑的なメニューとして流行りました。この流行がヒントとなり、多くの外食店が罪悪感を感じるメニューを多く出すようになったと考えられます。爆発的に売れたローソンの『悪魔のおにぎり』(2018年10月16日発売)のヒットもこの延長線上にあります」(東さん) 白だしで炊いたご飯に「天かす」「青のり」「天つゆ」を混ぜて作った「悪魔のおにぎり」。おにぎりに独自のアレンジが加えられた料理の画像がSNS上で多くアップされた(画像:ローソン) これからの「罪悪感」消費について、有木さん、東さんはともに「健康ブームと共存しながら、続いていくでしょう」と話しています。 外食の醍醐味は、家庭で味わえないものを楽しむこと。そんな楽しみが「罪悪感」という形で消費されるこの現代こそ、食本来が持つ多様性を感じとる時代といえるかもしれません。
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