いま再燃する「ラジオ人気」 現代の孤独に寄り添う絶妙な「距離感」とは

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いま再燃する「ラジオ人気」 現代の孤独に寄り添う絶妙な「距離感」とは

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堀越愛

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往年のヒット曲「Video Killed the Radio Star(ラジオ・スターの悲劇)」が発売されたのは、すでに40年以上前の1979年。時代の移り変わりとともにリスナーの減少が指摘されてきた「ラジオ」が今、幅広い世代から再び注目を集めています。ライターの堀越愛さんが、ラジオを取り巻く現状をリポートします。

雑踏に足がすくむ東京の街で

 地方から上京した人にとって、「東京」に本当の意味で慣れるのは至難の業。何年住んでも「地元」と断言することに抵抗があり、「東京に暮らす」自分に違和感を覚えます。

 繁華街では気を抜けば人にぶつかるし、四方から人の声やなにかのBGMが聞こえてくる……地元の何倍もの人が行き交う雑踏で、足をすくませることも多いものです。

ふと孤独を感じる場面は、東京にも地方にもある(画像:写真AC)



 筆者が東京に住み始めて、2020年でちょうど10年。地元にいた頃は人のいない道を歩くのが怖かったけど、東京は逆にどこにでも人がいる。「ひとり」になる時間が短くて、なんだか別の不安に襲われるのです。

 筆者の場合、この不安感を和らげてくれたのが「ラジオ」でした。

 ラジオを聴いていると、「ひとりだけどひとりじゃない」不思議な感覚に包まれるのです。イヤホンの向こうから聴こえるのは、パーソナリティーが話す声。大都会での暮らしに不安を感じても、パーソナリティーを通して自分の存在を確認する。東京のざわめきに負けず堂々と前を向ける気がします。

 もちろん街を歩くときは、車やアナウンスなど重要な音を聞き逃さないよう、音量を小さく絞りながら。筆者にとってラジオは、「東京」に暮らすうえで欠かせないものなのです。

今、再び台頭するラジオ文化

 ここ数年、ラジオというカルチャーが見直され、どんどん盛り上がっているように思います。リアルタイムでなくとも、パソコンやスマホで聴けるサービス「radiko」を使えばライフスタイルに合わせていつでも好きな番組を聴くことができます(放送から1週間以内)。

 また、ネット発の人気番組が次々に生まれています。2020年9月には、丸ごと1冊が”芸人ラジオ情報”というMOOK『芸人ラジオ』(スコラマガジン)が発行。さらに『日経トレンディ11月号』(10月2日発売)では、「実は成長市場!すごいラジオ大研究」という巻頭特集が組まれました。

 そして、そんなラジオカルチャーの盛り上がりを示すイベントが、9月27日(日)に渋谷・ユーロライブで開催されました。

その名も『ラジオリスナーフェス2020』。主催は岩井葉介さんという「ラジオ好き」の会社員。なんと、ラジオ業界とは関係ない“一般人”。つまり、ラジオリスナーがつくるラジオリスナーのためのイベントなのです。

2020年9月に開催された『ラジオリスナーフェス2020』。大勢のラジオファンが楽しんだ(画像:岩井葉介)



 登壇したのは、人気番組のパーソナリティーや構成作家、元ディレクターなどラジオにまつわる人々。リスナーにとっては見逃せないラインナップで、その注目度の高さを表すように会場は満席(新型コロナウイルス対策のため、178席のうち約半数を開放)。

 さらにオンライン配信で100人を超えるリスナーが視聴し、イベント終了後もアーカイブが販売されるなど、大盛況のイベントとなりました。

ラジオ愛であふれたイベント

 もちろん、筆者も参加しました。魅力的なプログラムの中でも特に印象に残っているのが、中盤に行われた「深夜ラジオ編成ドラフト会議」。

テーマは、「自分がラジオ局長だったら、平日AM1時~3時の深夜帯を誰にやってほしいか」。

 出演者は、自らを“ラジオ変態”と称する女子高生タレント・奥森皐月(おくもり さつき)さん、ラジオイベントを主催するほどラジオを愛するアイドル・室井ゆうさん、ラジオパーソナリティでもあるシンガーソングライター・百山月花(ももやま つきか)さん。

 MCは2017~2018年に「オールナイトニッポン0」を担当した芸人・ランパンプスが担当。ドラフト指名がかぶった際は、くじ引きで獲得権を争います。外れたほうが本気で悔しそうな表情を見せるなど、白熱の戦いとなりました。

 指名はラジオの帝王・伊集院光さんのような“定番”から、ネットラジオで人気の若手芸人・ぐりんぴーすのような“変化球”までさまざま。出演者のラジオ愛に会場はうなり、筆者もうんうんとうなずきながらドラフト会議を楽しみました。

「深夜ラジオ編成ドラフト会議」のほか、ネットラジオ界の草分け的番組『ぶちラジ!』を配信する芸人・ウエストランドによるトーク、元ラジオディレクター・石井玄さんや構成作家・藤井青銅さんの対談など、ラジオリスナーとしてかなり満足度の高いイベントでした。

 主催の岩井さんは、ラジオリスナーが毎月1番印象に残ったラジオ番組を選ぶ「プラネット賞」創設者でもあります。主催者・出演者・観客すべての熱量が高く、次回の開催を今から待ち遠しく思います。

それぞれの孤独に寄り添う力

 イベント中、何度か「ラジオは友達のいない人が聴くもの」「今日来ているのは、音楽フェスとは違う客層」といった自虐発言がありました。

 確かにそうかもしれないし、この発言で笑いが起きていました。おそらく、同意の笑いだったのだと思います。ただ、先述の通り現在ラジオを取り巻く状況は大きく変化しています。

ラジオからの語りに耳を傾けながら、「ひとりだけどひとりじゃない」感覚をかみ締める(画像:写真AC)



 雑誌で特集が組まれることも増え、ここ数年でネットラジオや音声配信サービスは急増しました。また2018年~2019年にかけて『オードリーのオールナイトニッポン』が全国ツアー、ならびに武道館公演を行いチケットが即完売するなど、大規模なラジオ発イベントも増えています。

 つまり、ラジオは購買や集客など、人を動かす可能性があるメディアということ。

 ラジオは間違いなく、個々の“孤独”に寄り添うメディアだと思います。パーソナリティーとリスナーのある種“共犯的”とも言える関係は特別なもので、他メディアでは代替不可能。だけど、同時にたくさんの人を動かす力がある。

 筆者はたまたま、東京でラジオに出合いました。人によって、地方や学校、職場、家庭……それぞれが持つ“孤独”の中で、ラジオに出合うのでしょう。ラジオという文化の中に同居する、不思議な「狭さ」と「広さ」。これからラジオはもっと面白くなる、と確信しています。

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