少子化・人口流出を防げる? 東京都「離島留学」、神津島への挑戦とは
2020年10月13日
ライフ近年、本土から児童生徒を招く「離島留学」導入が加速しています。その詳細について、教育ジャーナリストの中山まち子さんが解説します。
海に囲まれた日本
四方を海に囲まれた日本には本州や北海道、四国と九州、沖縄本島を除くと、6847もの島があります。
そのうち、離島振興法など離島に関する法律に基づき有人とみなされているのは304島、法対象外の有人島112島を合わせると416島になります(国土交通省の「日本の島嶼の構成」より)。
離島には独自文化があったり珍しい動植物が自生していたりすることも多く、本土にはない魅力があふれています。
代表的な観光地としてあげられる沖縄本島や鹿児島県の奄美大島、東京都に属する伊豆諸島や小笠原諸島などではマリンスポーツや海の幸を堪能できます。
一般的に離島というと「レジャースポット」という明るく楽しいイメージが思い浮かびますが、現実はそう明るいものばかりではありません。離島の住民は人口減と少子化という難題と常に直面しているのです。
この問題の解決の糸口となるべく各自治体は離島留学事業を行っており、東京もその自治体に含まれています。
12都道県で行われている離島留学
終戦以降、日本の人口は右肩上りを続け、1970年代には1億人を突破。現在は1億2581万人(2020年9月1日時点)に上ります。
その一方、離島ではかつて水産業や農業などが主体だったこともあり、若者が進学や就職で本土へ流出していきました。観光地でも高齢化が進み、子どもたちが減少しています。
島の子どもたちは生まれたころから同じメンバーで遊び、勉強しているため、多様性を獲得しづらい環境にあります。また、子どもの数が少ないことは廃校の危機と背中合わせであり、通学のために移住しなければならない可能性も秘めています。
つまり、学校の存続は島の将来を大きく左右しているのです。
そんななか、島の未来を背負う彼らが島を出てしまうのを避けるため、また、刺激ある環境で勉学に励めるようにするため、本土から児童生徒を招いた「離島留学」を導入する動きが広がっています。
小中高生を対象にした離島留学は現在、北海道から沖縄まで全国12都道府県で行われおり、多くの場合、全国から留学生を募集しています。
東京都で最初に離島留学を行った神津島
しかし、東京都の離島留学は都内の生徒に限定しています。都立神津高校(神津島村)と都立八丈高校(八丈島八丈町大賀郷)は、留学生の対象を都内の中学校を卒業見込みの生徒としています。
神津高校は都内で初めて離島留学を行った高校で、伊豆諸島の神津島にあります。

神津島は伊豆諸島が作られた際に神々が集まったという伝承を持ち、白浜が美しい前浜海岸や、島北部の赤崎海岸に作られた木造遊歩道(全長約500m)で知られています。
もちろん他の離島と同じように、神津島も少子高齢化に直面しています。
島には公立の小学校から高校がありますが、子どもの減少が続けば、高校の存続は危ぶまれています。このままでは高校が廃校になった場合、進学自体を諦める子どもや、進学のために移住しなければならない子どもが出かねません。
神津島はこうした問題解決策として、東京都教育委員会と協力し島外の子どもたちを留学生として受け入れる「島外生徒受入事業」を行っています。
都会の子が離島の学校で学ぶ理由
2016年度から始まったこの事業は2020年で第5期を迎えました。初年度の入学希望者は定員ひとりに対し応募者数は3人でしたが、2018年度は定員4人に対し20人の応募があり、倍率は増えています。
その背景には、2018年度に学生寮「しらすな寮」が完成し、受け入れ態勢が整ったことがあります。

2020年度は3期生の卒業が控えていますが、これまでホームシックなどで島を途中で離れる生徒はいなかったのでしょうか。
神津島村教育委員会に問い合わせたところ、これまでひとりの中退者がでたものの、他の生徒は3年間過ごしたということでした。
教育委員会は離島留学を決めた生徒たちの目的や理由について、
・自立した生活がしたい
・自然豊かな中で生活したい
・少人数制の学校で学んでみたい
としています。
留学が終わっても続く交流
こうした経験はすべての子どもたちができるわけではありません。彼らは一握りの存在で、ホームシックに負けない精神力はむしろ、今後の社会生活において強みになると言え、自己PRの強力な材料となるはずです。

神津高校を卒業した生徒の進学先は東洋大学(文京区白山)や日本大学(千代田区九段南)など、有名私立大が含まれています。
事業継続が導く未来とは
卒業にともない島を離れた後も、高校の文化祭に島を訪れたり成人式に出席したりするなど交流が続いています。

決して定住を目的としていませんが、事業を継続することで社会へ羽ばたいた卒業生との縁が、結果として観光や移住希望者を招くきっかけにもなるかもしれません。
受け入れ態勢の調整は大変ですが、長いビジョンに立てば双方にとってプラスとなるはずです。
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