えっ!? 大丈夫なの?」と周囲が心配……かつて「女性ひとり旅」は超絶マイナーな趣味だった

  • ライフ
えっ!? 大丈夫なの?」と周囲が心配……かつて「女性ひとり旅」は超絶マイナーな趣味だった

\ この記事を書いた人 /

小西マリアのプロフィール画像

小西マリア

フリーライター

ライターページへ

今や当たり前になった「女性のひとり旅」。しかしかつては、周囲にビックリされるほど珍しいとされたこともありました。時代とともに変化してきた女性と旅の関係について、フリーライターの小西マリアさんが解説します。

「GoTo」の東京スタートに寄せて

「女のひとり旅」という言葉が、女性たちから特別な支持を受けていた時代というのがありました。

 今では、男女どちらでもひとり旅なんて当たり前です。むしろ、人と一緒の団体行動は気疲れしてしまう、という人も少なくないかもしれません。筆者の知り合いの男性は「どこでもひとりで旅をしている女性は話の引き出しも多いし、とても魅力的」と話していました。

今では当たり前の「女性のひとり旅」。その歴史はどのように築かれてきたのでしょうか(画像:写真AC)



 2020年10月1日(木)からは東京発着を対象にした「Go Toトラベル」キャンペーンもスタートしました。家族や恋人、友人同士はもちろんですが、たまにはひとりで東京の喧騒(けんそう)を離れ、自分自身と向き合いたい、という女性も多いのではないでしょうか。

 しかし、平成の半ば頃までは女性がひとりで旅をしていると、特別なものとして扱われることがありました。例えばなにか失恋とか、いろいろワケがあってひとり旅をしているのではなかろうか――などと勘繰られたのです。

 また、これは男性でも同様なのですが、ひとり客は宿に宿泊を断られることもありました。ふたり以上でないと泊められない、というのです。泊めてくれても、なんだか仲居さんがちょくちょく声をかけにくる……。

 おそらく、何かを深く思い詰めた末にフラリと旅に出た、とでも思われたからなのでしょう。

 たまには東京の日常からたったひとりで抜け出したい、と思っても、なかなか難しい時代だったのです。

初期イメージは『いい日旅立ち』

「女のひとり旅」が最初に話題になったのは、1970年代前半です。

 当時、国鉄が行った「ディスカバー・ジャパン」は、それまでの団体旅行に替わって個人旅行を喚起するためのキャンペーンでした。

 これを契機に個人旅行をする人が増加。なかでも目立つようになったのが、いわゆるアンノン族。雑誌『anan』や『non-no』の旅行特集に影響を受けて、個人や少人数で旅行に出るようになった女性たちを示す言葉です。

 こうした女性たちが求めたのは、今でいう「癒し」の要素でした。そのため、各地の「小京都」と呼ばれるような地域や、妻籠宿(つまごじゅく)のような宿場町などがウケました。

ひとり旅に癒しや内省の機会を求めるのは、今も以前も変わらない(画像:写真AC)



 女性旅行者の増加を意識して国鉄が用いたコマーシャルソングが山口百恵の『いい日旅立ち』だったあたり、精神面での充足にも重きが置かれた、少しウェットでセンチメンタルな旅が好まれていたような気がします。

 そんな旅の事情が変わったはバブル期やその崩壊以降。

 バブル景気の時代は国内・海外かかわらず、遊びのために旅行するのが当たり前です。バブル以前までは国内旅行でも、一世一代だとか、人生を変えるために……みたいな精神性がありました。

 令和の現代となっては何だか失礼な話なのですが、1980年代前半までは女性が旅に出るというだけでビックリされたものでした。

 アンノン族のブームはあったものの、国内であってもひとり旅に出かけるというだけでいろいろと邪推されます。それが海外にひとりで行くともなると、それ自体がニュースというか事件です。

気軽に手軽に楽しむものへと変化

 なにしろ海外に出かけるというのは「会社を辞めて人生を変える」のとセットになっていることが多かったからです。

 アフリカになんて出かけたら、それだけで帰国後に取材を受けることもあるくらいです。この熱が最高潮になったのは沢木耕太郎の『深夜特急』が出版された1986(昭和61)年頃。これを読んで会社を辞めたり学校をほっぽり出したりして旅立つ人に、男女の差はありませんでした。

 こうした、バックパックとともに人生をも背負った旅は、1987年頃から激変します。

 バブルの上向きな空気の中で、旅行はもっと軽く楽しくするものだという空気のほうが主流になったわけです。

もっと楽しく、もっと手軽に――。変化していった旅の在り方(画像:写真AC)



 人気のハワイなどはもちろん、ふと週末に思いたって、香港や台湾に出かけて飲茶(ヤムチャ)を楽しむプチ海外旅行が流行しました。

 これは、格安航空会社(LCC)お得なチケットが急増した21世紀になってむしろ盛んになっていますが、外国への旅行が手軽にできるなら手軽に楽しめばいいじゃない、という意識が浸透したわけです。

 なにより重視されたのは「ふと思いたったから出かける」というスタンスです。

 これは、今の男女も持っている独特の旅情や喜びと同じ感覚。2018年頃にネットでちょっと話題になった「エアポート投稿おじさん」(空港にいることをSNSでしきりにアピールする40代以上の男性)のごとく「思いたって香港」みたいな人がいっぱいいたということでしょう。

数々ブームをへて定着した女性旅

 タイやバリ島などに長期滞在して非日常を味わう日本人女性が増加したのは1990(平成2)年頃からだとされています。

 これも突然始まったブームではなく、下積みがあります。

 1980年代まで何度かあったエスニックブームで、東南アジアの料理はメジャーかつ、おいしいものとして若い世代に受け止められるようになりました。また、今よりも発展の途上にあった東南アジア諸国は、安価で気軽に非日常感を味わうことができる旅行先だったわけです。

 もちろん、楽しいばかりではありません。旅先のロマンスで詐欺にひっかかる女性もけっこういたことは当時の女性誌でも取り上げられています。

 ちなみに、海外で日本人女性の定番の髪型みたいになっている直毛ロングヘアは、バリ島あたりに長期滞在している日本人女性から始まったという説も。真偽のほどは分かりません。

 こうしたいくつかのムーブメントをへて、女性もひとりで旅することはなんら不思議ではなうなっていったのです。

 ただ、国内はともかく海外では「そもそも食事はひとりでするものではない」という文化圏がけっこう存在するもの。これが男女を問わない最大の悩みなのではないでしょうか。

関連記事