コロナ禍のシェアハウス、暮らして痛感した「家庭内感染」防止の難しさとは【東京・ロンドン徹底比較】

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コロナ禍のシェアハウス、暮らして痛感した「家庭内感染」防止の難しさとは【東京・ロンドン徹底比較】

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鳴海汐

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以前は「夜の街」が挙げられていた、新型コロナウイルスの感染拡大ルート。しかし2020年夏以降は「家庭内感染」にも注目が集まるようになりました。ひとつ屋根の下で暮らす者同士が感染を予防する難しさとは、東京とロンドンそれぞれの都市についてライターの鳴海汐さんがリポートします。

首都圏にあるシェアハウスの一例

 新型コロナウイルス感染拡大が問題になってから、シェアハウスに住んでいる人はいったいどうしているのだろうか、という考えがよぎったことはあるでしょうか。

 家の中ではソーシャルディスタンスを保つのが難しく、同じ物に触れる機会が多くなります。

 東京でも2020年7月頃から「家庭内感染」の割合が増えていることを考えると、どうやって対策を取るのか、どういう心持ちになるのだろうかと筆者は考えたことがあります。

家族以外の者同士がひとつ屋根の下で暮らすシェハウスのイメージ。感染対策はどうなっているのか?(画像:写真AC)



 首都圏のシェアハウスに暮らす知人に聞いてみたところ、緊急事態宣言が始まってしばらくは部屋に閉じこもっていたけれど、途中で限界がきて、その後はふつうにほかの住人と一緒に料理をしたり、ご飯を食べたりするようになったと話していました。

 緊急事態宣言前に近い生活に戻しただけで、人が触れる場所を消毒する、といったことは徹底しきれていなかったとこのこと。

 住人は20代が中心ということだったので、万が一感染しても重症化するリスクが高くないから気にし過ぎず生活できていたのだろうと思いました。

 この話を聞いた6月当時、筆者は同居していた両親と、食卓を分け、お互いが触れるスイッチや持ち手などのあちこちを消毒し、洗面所とトイレを別にし、マスクをして会話するといった生活をしていたから、余計にそう感じたのかもしれません。

 筆者は現在、仕事の都合で8月からロンドンに来ていて、民泊のシステムを利用して一般家庭に滞在しています。つまり、シェアハウスで生活しています。

ロンドンではシェアハウスが一般的

 この民泊システムでロンドンの1ルーム以上の貸切物件を探すと、平均価格はひと月4825ポンド(約65万1627円、9月19日のレートを使用)。金銭面の問題もありますが、現地の人とのコミュニケーションが仕事上必要なのでシェアハウスに滞在することを選びました。

 旅行者用ではない一般的な賃貸契約においてもロンドンは家賃が高く、日本のようなひとり暮らしの物件が少ないこともあってか、東京の2倍以上かかります。

 OECD(経済協力開発機構)発表の2019年の賃金水準では、イギリスは日本の1.2倍。その収入でひとり暮らしは厳しいということで、シェアハウスは一般的です。

2019年の平均賃金。日本円で、日本が約404万円、イギリスは約494万円(画像:OECD)



 普通の一軒家(隣家と壁を共有していることが多い)やアパートをシェアするので、東京よりも少人数の物件が基本です。

 大家さんが空いている部屋を貸し出すこともあれば、別物件に住みながらシェアハウスの運営をするパターンもあります。

 バストイレは専用の場合とそうでない場合がありますが、個室があり、キッチンやリビングは共用の物件を選択しています。

 予約の際、コロナの関係で今はゲストを宿泊させていないと断られたケースもありましたが、OKが出た4軒を8月から9月にかけての1か月間、渡り歩いてきました。

 宿泊を許可するということは、ある程度コロナに対して緩やかな感覚の持ち主なのかもしれないと考えられますが、滞在したことで見えた現地の人々のコロナに対する意識を紹介します。

大家さんが「コロナ経験者」のケース

 入国後に直行したのは、イギリス人男性が大家さんのアパートです。

 どこの家でも、ソーシャルディスタンスの意味で距離を取られることになるだろう、多少避けるような態度を取られても仕方ない、と覚悟して向かいました。

 出迎えた大家さんはマスクをしていませんでした。日本でも、家の中でマスクをしている人はかなり少数派ですが、相手が日本から到着したての筆者と近づくことに抵抗があるかもしれないので、できるだけマスクをして接しようと考えていたため、少々面食らいました。

 個室で荷物の整理をしていたところ、大家さんに呼ばれたので向かった際、マスクを忘れたので、マスクを忘れましたと言いながら部屋に戻ったら、「マスクは要らないから」とひと言。

 話を聞くと、すでに3月に感染済みとのこと。看護師の恋人から感染し、嗅覚異常があったと。今は後遺症もないそうですが、本人からうつってしまった父親がもっと大変で、一時呼吸困難になったそうです。

 大家さんは抗体が今もあると信じていて、「家の中をあちこち消毒しているのは、ゲストのため」「僕は感染しないし、感染させないから安心して」と言いながら、リビングのリモートワークコーナーに戻っていきました。

 その後やってきた看護師の恋人も、「抗体があるから気を遣わないで」と話していました。

 実際のところ、彼らに抗体が今もあるかどうかはわかりませんが、本人たちは試験が終わった後の学生のように感染のプレッシャーから解放されていて、のびのびしている様子がうらやましかったです。

運用あいまいな「自主隔離」ルール

 2軒目は、在英35年のアジア系女性のアパート。一応マスクをして接していたのですが、「私はワルだから、マスクしないの」と彼女は言いました。

 話好きで、ここ数年の出来事、今取り組んでいることなど、こちらが心配になるほどの長話となりました。

 リモートワークで何か月も閉じこもって頭がおかしくなりそうなので、朝晩の散歩が欠かせないとのこと。上司がリモートワークでメンタルの病気にかかったので、自分も気を付けなければと言っていました。

 寝室が隣同士だったのですが、1泊目の明け方、かなり咳き込んでいるのが聞こえてきました。

 このとき、

「スペイン旅行が半額だったからこの間行ってきた。感染者が増えていたけれど、キャンセルするのはもったいないし。観光が打撃を受けているから、お金を落とさないと。サニタイザー(消毒用アルコール)をたくさん持って行って、頻繁に手の消毒をした」

と話していたことを思い出しました。

明け方、家主の女性がしきりに咳き込む音が聞こえてきて(画像:写真AC)



 今も継続中の措置ですが、そのときイギリスでは、スペインから帰国後2週間の自主隔離が義務付けられていました。

 毎日の咳が気になりなりつつ、なかなか聞けないでいたのですが、いつスペイン旅行に行ったのか尋ねたら、「今日で帰ってきて2週間! 自主隔離が終了。だから娘が会いに来るの」と。

 自主隔離は、家に引きこもって、外部の人とは一切接しない、というルールですが、筆者を泊まらせていたのです。

 さすがにショックで、咳は大丈夫かとコロナに言及してみたところ、「これはコロナじゃない。外から入ってきた埃。この咳は喉からだけど、コロナの場合は肺からの咳だから。味覚や嗅覚の異常も出てないし、熱もないし」とのこと。

 人と暮らすリスクをあらためて実感しました。

4軒を体験して感じたこと

 前述の2軒もそうですが、あとの2軒でも大家さんがリモートワークをしていました。日本よりもリモートワークが進んでいるように思います。

 またどの家でも個室にサニタイザーが設置されていましたが、それ以外、目立った対策は感じられませんでした。

 話を聞いていると接触感染の可能性を気にしている大家さんもいましたが、キッチンなどで筆者と近くで話すことに対して、マスクなしでもまったく気にしている様子が見られません。

 人と暮らす以上、多少鈍感にならざるを得ない部分はあるのかと思いますが、しぶきが飛ぶことについてはあまり気にしていないように思います。

 これは、シェアハウス以外の屋内でも現地の人に接していて感じたことです。

シェハウスは、トイレや洗面所も共有で使う場合が多い(画像:写真AC)



 日本でのエピソードですが、出国前に首都圏の病院に行った際、前のめりで質問していたら、「近すぎるから離れてください!」と先生がいきなりキャスター付き椅子でシャーっと下がって距離を取られたことがありました。

 一瞬コロナのことを忘れてしまっていたことに反省しつつも、ちょっと驚いた出来事でした。

 ロンドンでは、そういったことがありません。コロナ対策的には良いことではありませんが、そうと分かっていてもちょっと傷ついてしまう、「さっと距離を取られること」が、こちらでは皆無。

 大家さん以外の住人からも、期待していた以上に、温かみのある対応を受けています。

コロナ対策か、人との交流か

 ちなみに4軒中3軒が、入り口で靴を脱ぐシステムの家でした。

 ヨーロッパの土足システムが感染拡大につながったと日本のワイドショーで言われていましたが、この3軒に限らず、筆者がこれまで訪れた家でそういったシステムをとっている家は結構多いです。

 コロナ対策と、人とのコミュニケーション。その両立はなかなか難しく、ちょうどよい距離感を見出すのは容易ではありません。

 ただ個人的には、イギリスの人々はもう少し飛沫の飛散距離を気にする必要があるのではないかと考えています。

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