「密か」な石めぐりを楽しもう
都会の中で石を楽しんでみませんか。いわゆる「3密」にならず、別の「密」すなわち「密(ひそ)か」な石めぐり。
今回は、都内のビル外壁で楽しめそうな石材を三つ紹介しましょう。
赤坂サカスの外壁に注目
まずは、定番のアンモナイト探しです。
街の中に使われている石材の中に渦巻き模様のアンモナイト化石があることはよく知られており、本やウェブサイトでも紹介されています。しかし、風通しの良い屋外で観察できるところは意外と少ないのです。
というのも、アンモナイトを多く含む石材は石灰岩で、雨に溶けやすく、たいてい内壁に使われているためです。そこをあえて外壁に使っているのが、赤坂サカス(港区赤坂)です。撥水(はっすい)加工を施しているはずですから、不必要に擦ったりしないよう注意しながら観察しましょう。
くまなく見ていくと、渦巻き模様のアンモナイトの化石をあちこちで見つけることができます。
目が慣れてくると、渦巻き模様には見えない殻の縦断面や端っこだけの切断面に気が付くようになり、いかにアンモナイトだらけの石材であるかわかってきます。
アンモナイトのほかにも、べレムナイト、海綿、有孔虫などの化石があります。化石を含んでいる石材は「ジュライエロー」という銘柄です。
「ジュラ」とは、映画「ジュラシックパーク」のジュラと同じで、中生代ジュラ紀という地質時代のこと。陸上では恐竜が闊歩(かっぽ)していた頃の海底の世界が、石の中に閉じ込められているのです。
KITTE丸の内には赤く輝くガーネット
次は、1月の誕生日「ガーネット」探しです。
宝石にもされる赤いガーネットを、外壁の中で見つけることができます。例えば、丸の内永楽ビル(千代田区丸の内)がオススメです。
外壁に使われているベージュ~黄色の石材の中に、1cm程度のガーネットが無数に含まれています。大粒で美しいものとなるとなかなか見つかりませんが、日が差し込むと真っ赤に輝くものもありますので、じっくり探してみましょう。
この石材は、ブラジル・エスピリトサント州産の「ジャロサンタセシリア」という銘柄で、日本橋三井タワー(中央区日本橋室町)やKITTE丸の内(千代田区丸の内)の玄関まわりなどにも使われています。
岩石の分類でいうと、堆積岩が変化した変成岩の一種である片麻岩(へんまがん)にあたり、もともとは海底に積もった土砂だったのですが、5億年以上前に起こった大陸同士の衝突によって地下深部の高い温度と圧力(地下15~20km、700~800度程度)にさらされ、融解することなく再結晶してできた岩石です。
つまり、長い時間をかけて起こるプレート運動の記録が刻まれた石といえるでしょう。実際、大陸移動の歴史は、こうした岩石を詳しく調べることで研究されています。
石の内部が輝く理由は「光の干渉」が原因
もうひとつ、キラキラ輝く石材を紹介しましょう。
東京メトロ「半蔵門駅」3番出口にある住友不動産半蔵門駅前ビル(千代田区麹町)や汐留住友ビル(港区東新橋)の外壁には、日が差し込むと青く輝く美しい石材が使われています。
ノルウェー産の「ブルーパール」という銘柄で、学問的にはラルビカイトという特殊な岩石。およそ3億年前、大陸の裂け目に生じたマグマが固まってできた火成岩の一種です。
よく観察してみると、青く輝いているのは石材の研磨面ではなく、石材の内部であることがわかると思います。
この岩石をつくっている鉱物の結晶内部に薄い膜のような構造(ラメラ)があり、その膜の表と裏面で反射した光が「光の干渉」という現象を引き起こし、モルフォチョウのように色付いて見えるのです。
丸の内南口改札も宝石のような石が
同じ石材で黒っぽいタイプもあり「エメラルドパール」と呼ばれています。
エメラルドパールは、東京メトロ「麹町駅」そばの住友不動産麹町ビル(千代田区二番町)や銀座888ビル(中央区銀座)、東京駅丸の内南口改札付近(千代田区丸の内)などに使われており、遠目には黒っぽく見えますが、近づいて見ると宝石が入っているかのようなきらめきがあります。
見つけやすくて密かに楽しめる石材を紹介しましたが、街の中には、ほかにもさまざまな石材が使われており、その美しさ・多様さに驚かされます。
東京は、まさに巨大な「石の博物館」です。
なぜこの石が選ばれたのか、どこでどのようにしてできた石なのか、そんなことを考えながら石を見て歩けば、街の景色が変わって見えてくるでしょう。散歩のついでに、ビルの外壁に使われている石に目を向けてはいかがでしょうか?