菅首相が創設「ふるさと納税」 和牛もイクラもない東京23区が全国からの寄付集めに成功した意外な秘策(前編)
2020年9月16日、菅義偉氏が首相に選出され、新内閣が発足する見通しです。同氏が総務大臣時代にリードした「ふるさと納税」制度は創設から12年。その歴史をフリーランスライターの小川裕夫さんとおさらいしましょう。制度開始10年で5000億円規模に 安倍晋三首相が、2020年8月28日(金)に辞任を表明しました。これにより、7年8か月に及んだ安倍政権が幕を下ろすことになりました。 そして、第2次安倍政権の発足から長らく官房長官を務めた菅義偉氏が自民党の新総裁に選出されました。9月16日に臨時国会での首相指名選挙をへて、菅新首相が誕生する見通しです。 菅氏が自民党総裁選で展開したこれまでの実績。なかでも特に肝いり政策として力説していたのが「ふるさと納税」です。 ふるさと納税のイメージ(画像:写真AC) 2006(平成18)年9月に発足した第1次安倍政権で、菅氏は総務大臣に就任しました。このときに 「ふるさと納税」の議論が始まり、省内での検討を踏まえて2007年に同制度の創設が発表されたのです。実際に税制が改正されて、正式にスタートしたのは2008年度のことです 。 こうした経緯もあって、菅氏はふるさと納税の生みの親ともいえる存在です。それだけに、同制度に対して格別の思い入れを抱いているようです。 ふるさと納税がスタートして10年、節目に当たる2018年度の額は、5000億円規模にまで拡大しました。発足当初はなじみの薄かった同制度ですが、今では誰もが知っている制度にまで認知度を上げています。 しかし、ここまでの道のりは決して平坦ではありませんでした。特に、東京都や23区、都内の多くの市町村がふるさと納税制度に一貫して反対を唱えてきました。 特に、東京都は石原慎太郎都知事・猪瀬直樹都知事・舛添要一都知事・小池百合子都知事と4代にわたって反対のスタンスを崩していません。 利用者の利便性を高める仕組み利用者の利便性を高める仕組み 納税というネーミングではありますが、ふるさと納税は寄付として扱われます。また「ふるさと」という名称ではあるものの、納税者が自分の好きな自治体に納税できます。 出生地や過去に居住した自治体といった思い入れのある地に納税(寄付)をすることも、一度も行ったことがない自治体に納税することも可能です。この制度において、ふるさとの定義はあいまいなのです。 ふるさと納税のイメージ(画像:写真AC) 制度発足当初は複数の自治体にふるさと納税をすると、税制控除を受けるための手続きが煩雑な制度設計になっていました。 それが制度の盛り上がりを欠いた要因とされたため、政府は制度設計を変更。2015年度にワンストップ特例制度がスタートし、手続きが簡素化されました。 このワンストップ化が契機になり、ふるさと納税は少しずつ広まりを見せるようになります。特に、自治体側からふるさと納税を多く集めようとする機運が生まれ、地元の特産品を返礼品として贈るようになったのです。 ふるさと納税は税額控除というメリットがあり、そのうえ返礼品として豪華な水産物や和牛といった地元の特産品がもらえるというお得感から大きな話題を集めます。 テレビ・新聞などでも大々的に豪華な返礼品情報を扱うようになり、各自治体の返礼品をカタログギフトのように一覧で並べて検討できる雑誌が次々と出版。それらはベストセラーになりました。 加熱した「返礼品合戦」の行方加熱した「返礼品合戦」の行方 過疎化や少子高齢化いった問題を抱える地方自治体にとって、先細る税収を補う手立てとしてふるさと納税による税収を増やそうと考えるのは自然な流れ。 豪華な返礼品が多額のふるさと納税を集めるのに有効であると実証されたこともあり、自治体の激しい返礼品合戦が始まったのです。 従来、ふるさと納税の返礼品は、地元の特産品というのが暗黙の了解になっていました。しかし、地味な返礼品では多額の寄付を集められません。自治体は家電品や金券類を返礼品として用意するようになりました。 東京都や23区にとって、この事態は看過できないものです。なぜなら、ふるさと納税によって自前の住民税が他自治体へ“流出”する事態が起きるからです。 ふるさと納税のイメージ(画像:写真AC) こうした状況を是正するため、総務省は「返礼品は寄付額の3割程度」「地元産品に限定」「換金性の高い商品は除外」といった、の返礼品に対する指針を策定。 しかし、これらの指針に法的な縛りはありません。総務省と地方自治体はそれぞれが独立した団体であり、総務省が地方自治体に“命令”することはできないのです。そのため、指針は “お願い”という位置付けにとどまりました。 総務省が策定した指針によって、多くの自治体は豪華な返礼品を贈ることを取りやめました。しかし、強制力はないので、豪華な返礼品を続けた自治体も一部で残りました。 ふるさと納税の返礼品で、世間の耳目を集めた大阪府泉佐野市も総務省の指針に反発した自治体のひとつです。 重ねた改善、より使いやすく重ねた改善、より使いやすく 泉佐野市には、多額のふるさと納税を集められるような豪華な地元産品がありません。そこで、アマゾンギフト券を返礼品として用意したのです。 換金性の高いアマゾンギフト券は、抜群の効果を発揮しました。泉佐野市は約250万件、金額にして約500億円にもおよぶふるさと納税を集めたのです。 当然ながら、総務省は泉佐野市の取り組みを問題視。これがきっかけとなり、ふるさと納税は制度を改正することになります。 ギフト券のイメージ(画像:写真AC) 新制度では、地方自治体が総務省へとふるさと納税の適用を受けるための届出をしなければなりません。そして、総務省が認可・不認可を判定します。新制度への移行は、2019年度から始まっています。 当初、総務省は泉佐野市をふるさと納税の対象から除外する予定にしていました。これに対して、泉佐野市は「過去の行状で除外するのは不当」と抗議。 総務省と泉佐野市の主張は平行線を辿り、最終的には法廷闘争にまで発展。その結果、泉佐野市の言い分が通り、泉佐野市はふるさと納税の対象団体に復帰しています。 菅氏が生んだふるさと納税は制度開始からここまで多くの紆余曲折をへています。その過程で、さまざまな改善がなされ、今に到っているのです。
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