今なお続く「平成のキムタク」症候群 ファンもアンチも巻き込む圧倒的存在感の正体とは

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今なお続く「平成のキムタク」症候群 ファンもアンチも巻き込む圧倒的存在感の正体とは

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Tajimax

平成ガールズカルチャー研究家

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2020年になった今も、人々の注目を集め続けるキムタク、こと木村拓哉。なぜ私たちは彼に引かれるのでしょうか。平成ガールズカルチャー研究家のTajimaxさんが分析します。

今も「かっこいい人」にランクイン

 キムタクはカッコイイ――。彼がSMAPの一員としてデビューして以来、平成の30年をへる間、私たちは何度この言葉を繰り返してきたでしょう。

 月刊誌『ESSE』(扶桑社)が読者アンケートで「永遠にかっこいい人」1位に木村拓哉が選ばれたと発表したのは、2020年4月のこと。今なお「カッコイイ男」に指名され続けるキムタクは、女性ファンはもちろん男性からの注目も絶えない、固有の魅力を放ち続けている存在です。

平成と令和「カッコイイ」の違いは

 そもそも、カッコイイとはなんでしょう?

 本来的には外見的な良さや体裁などを肯定する形容表現ですが、現代では「カワイイ」同様、より幅広い意味が含まれているように思われます。

 今回は平成の「キムタク・シンドローム」時代と、令和時代に「男があこがれるカッコ良さ」について比較してみたいと思います。

大きく変化しないカッコイイの定義

 近年の、男性が選ぶ「なりたい男ランキング」などを多数見ていて面白いと感じるのは、キムタクはもちろん竹野内豊や福山雅治など、90年代から活躍している俳優やアーティストがちらほらランクインし続けている点です。

2020年3月発売の「アエラスタイルマガジンvol.46」で表紙を飾ったキムタク。その存在感は今も変わらない(画像:朝日新聞出版)



 平成カルチャーと現代の比較によって新たな視点を見いだすことは筆者の重要なテーマのひとつですが、こと「男性があこがれる男性像」に関しては、現代と90年代とを比較したとき、そこに「違い」以上の「共通性」があることを感じます。

 これが、女性が選ぶ「なりたい女性ランキング」となると、20~30年もの時代をへればその変動はもっともっと激しいもの。

 ファッションのトレンドこそ変わっても、「男性が目指すカッコ良さ」は時代がいくら変化しても根本的なところは大きくはあまり変わらないのかもしれません。

 その理由は何かと考えたとき、男性の思う「カッコイイ」には、流行とともに移ろいやすい外見的なカッコ良さと同じくらい、内面のカッコ良さもまた含まれているからだと筆者は考えます。

 もちろん女性が内面的な部分を軽視しているという意味では決してなく、女性の場合、年齢や時代の変化によって目指す理想像が男性と比べて常に繊細に変化しているだけなのでしょう。

ブームも社会現象も全てキムタク発

 これまでもさまざまなメディアで散々語られていることではありますが、90年代の木村拓哉の影響力にはすさまじいものがありました。

 あの時代、木村拓哉が主演を務めるテレビドラマは常に驚異的な視聴率をたたき出していたことが有名ですが、ドラマと共に社会現象をも生み出す、まさに「シンドローム」的な側面も持ち合わせていました。

 反町隆史や竹野内豊など人気俳優はほかにもたくさんいましたが、ブームを生み出すという点ではキムタクがぶっちぎりの1番。そしてその人気は当然、女性からだけものにはとどまりませんでした。

入手困難になったロレックス腕時計

 ここで歴代のキムタク主演ドラマが残した「伝説」と、男性ファンの間に起きたアイテムのブームを少し振り返ってみたいと思います。

 ドラマ内でキムタクが身につけたものはいつもヒットの連続でした。

 東京を舞台にした1996(平成8)年4~6月のフジテレビ系ドラマ「ロングバケーション」で見せた「ゆるふわパーマ」を筆頭に、「ラブジェネレーション」(1997年10~12月、フジ系)の放送時には、腕時計のロレックス エクスプローラーや、バッグのブランド、ポーターのタンカーが大ブームになりました。

 東京の街角には同じアイテムを持つ男性が大勢現れ、特にロレックスは高級品にもかかわらず入手困難になったほど。

「ビューティフルライフ」(2000年1~3月、TBSテレビ系)で乗っていたバイク、ヤマハのTWも、納車まで数か月待ちとなる販売店が続出しました。

映画化もされた「HERO」。このレザーダウンジャケットで同作を思い出す視聴者も多いのでは(画像:東宝)



 そして「HERO」(2001年1~3月、フジ系)も、主人公・久利生公平の代名詞ともいえる「A BATHING APE」のレザーダウンジャケットが大ヒットしたことも覚えている視聴者は多いことでしょう。

高校生がスーツを着こなそうとした

 また、ほかのメディアではあまり言及されていませんが、個人的に「ギフト」(1997年4~6月、フジ系)の時の“スーツブーム”は筆者の記憶に強く残っています。

 このときのスーツブームは、スーツとはまだまだ無縁の高校生にとってさえ「女の子が男の子にデートに着てきてほしい服」になったし、男の子も余裕を見せて着こなそうと頑張っていました。

1997年の『東京ストリートニュース!』。男性モデルたちは皆、キムタクそっくり(画像:Tajimax、学習研究社)



 ポーターのタンカーにしても、ロレックス エクスプローラーにしても、ヤマハ・TWにしても、ファッション好きやバイク好きの人からすると、もしかしたら“いまさら感”があったかもしれません。けれど、キムタクのドラマとともに一般に広く知れ渡り、ブームになったのは事実です。

 ちなみにキムタク・シンドロームは、就職活動にまで影響を及ぼしました。

 特にカリスマ美容師ブームは「ビューティフルライフ」の美容師役でさらに拍車がかかり、美容師志望率が例年より2割ほど上昇。旅客機パイロットを演じた「GOOD LUCK!!」(2003年1~3月)の放送後には、ANAなど航空業界への就職希望者が急増する現象が起きたほどです。

役の数だけ新たなカッコイイが誕生

 それにしても、当時なぜ若者はそれほどまでキムタクに引かれたのでしょうか。

 皆が口をそろえて言う、呪文のような「カッコイイ」という言葉。

 そこには色気や男らしさ、ワイルド、真面目……など、さまざまな意味が含まれています。

 女性に人気があるから、モテたいから、キムタクになりたい……のではなく、「木村拓哉そのものにあこがれていたし、木村拓哉が演じる役にもあこがれていた」というのが当時の心境の正体だったのではないかと、筆者は思います。

 木村拓哉には、役と本人との間に「境界線」がありません。

「ドラマ」と本人は別のもので、あくまで役を演じているだけなのに、それでもなぜか木村拓哉自身の存在もテレビの中の役柄に投影してしまうのです。

社会問題まで引き起こした1997年ドラマ「ギフト」(画像:ポニーキャニオン、フジテレビ)



 だから演じたドラマの数だけ「木村拓哉」を私たちは見てきたし、そのたびごとに話題になるし、いつも新鮮で数知れないほどの「カッコイイ」が生み出されたのでしょう。

 この「境界線のなさ」はきっと誰にもまねできない、キムタクにしかできない天性のものだったのだと思います。

カッコイイの永続性と普遍性を提起

 話を現代に戻します。

 あらためて強調したいのは、今の時代の「カッコ良さ」の定義も、キムタク・シンドローム時代と変わらないということ。

 木村拓哉本人の才能ももちろんあったし、その時代が求める「カッコイイ」の波にうまく乗れたという運もあるでしょう。そしてそれは長い長い延長線を描いて、今の時代の「カッコイイ」の模範にもなり続いています。

 若さだけが「カッコイイ」の条件ではない、「カッコイイ」には永続性も普遍性もあるのだ――。それを体現してくれているのが、キムタクをはじめ、90年代から今なお活躍を続ける男性アーティストや俳優たちではないでしょうか。

 女子にとっての「カワイイものはカワイイ!」という直感的な思いと同様、男子の思う「カッコイイ」にもまた、きっと流行などないのです。

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