東京郊外の住民たちが予想以上に「地元付き合い」を大事にしているワケ

  • ライフ
東京郊外の住民たちが予想以上に「地元付き合い」を大事にしているワケ

\ この記事を書いた人 /

昼間たかしのプロフィール画像

昼間たかし

ルポライター、著作家

ライターページへ

かつて「ニュータウン」と呼ばれた東京の郊外に住む人たちは、ほかの地域の住民に比べて「地元を好き」という割合が高いようだと、ルポライターの昼間たかしさんは指摘します。果たしてその理由とは?

「こないだ地元の先輩が~」

 都会にあこがれて上京してくる人はおおむね、東京は洗練された大都会だと思っているはず。

 良くも悪くも、人との付き合いにはドライなもの……なんて考えていると、驚きますよね。東京生まれ東京育ちの人は、想像するよりもずっと地元の友人知人や人間関係を大事にするんですから。

 ここで東京を知らない人が驚くのは、お祭りなどが盛んな下町よりも、むしろ新しく開発されたベッドタウンとおぼしき郊外の方が、「地元の先輩が~」という言い回しを使う、人間関係が濃いエリアが多いということです。

大型駐車場のあるショッピングセンターに自家用車で集結(画像:写真AC)



 なんて伝統があるのだろう……と思うかもしれませんが、でも、地元を愛し地元で育ち、地元で暮らす郊外のライフスタイルというのは、決して古いものではないのです。

かつて郊外の団地に暮らすのが夢

 かつて東京の郊外は、本当に郊外でした。

 高度成長期に東京では、都心に通勤する人たちの住宅を確保するために郊外に次々とニュータウンとか住宅団地というものが建設されていきます。洗練された都市計画のもとに生まれる新たな住宅地は、都心で働く人にはあこがれの対象だった時代もあります。

 山田洋次監督の映画『下町の太陽』(1963年)で、早川保が演じたヒロイン倍賞千恵子の恋人の夢は、下町を抜け出して郊外の公団住宅に暮らすことだったりします。

 最新の設備を備えた郊外の住宅地、とりわけ団地は設備も整っていて住みやすかったのです。

とはいえ「寝に帰るための場所」

 でも、そんな郊外の住宅地は決して便利ではありませんでした。あくまで住宅地として開発されたために、店の数は限られていて単に寝るために帰るだけの場所だったわけです。
 郊外に次第に店が増えるようになったのは、1970年代に入ってからです。

 この頃になると高度成長によって豊かになった家庭では、自家用車を所有する世帯が増えていきます。これに対応するように巨大な駐車場を備えた店舗が郊外に見られるようになります。

東京郊外は人間関係を大事にするらしい、一体なぜ? 画像はイメージ(画像:写真AC)



 いわゆるロードサイド店舗と呼ばれるものですが、それらは都心に比べると見劣りしていました。

 どんなに便利になろうとも、都心に比べると店の数も少なくて、品ぞろえも劣るというのが少なくとも当時の常識。地元で最低限の生活ができても、買い物や遊びのためには、電車に乗って都心に向かわなくてはいけなかったのです。

若者が先導した都市開発、便利化

 ところが、1990年代中盤からこの常識には変化が起こります。都心に比べると見劣りしていた衛星都市にも若者たちが集うようになり、買い物や遊び場がにぎわうようになるのです。

 その理由は、それまでは都心にしかなかった古着屋やレコード店、クラブなどが出店するようになったことです。

 若者文化の成熟とともに代に増加した、これらの店舗は最初は都心に集中していました。けれども都心に出店するのは賃料も高くなかなか困難なもの。そこで、フロンティアとして有望視されたのが郊外でした。

渋谷並み?に成長した郊外・町田

 きっかけとなったのは、ターミナルへの人気店舗の出店です。

 都心が飽和状態になった人気店は郊外のターミナルに隣接する商業施設へ出店するようになっていきます。1990年代中盤に千葉県柏の高島屋にビームスやユナイテッド・アローズ、丸井にはフィールドやヴァージン・メガストアが出店しています。

 また、東京・町田では駅前のファッションビル「町田ジョルナ」(町田市原町田)が郊外なのに渋谷風なショップを多数入居させていました。

「ちょっとダサい」というイメージがある町田で、渋谷に匹敵するほどの買い物が可能に(画像:(C)Google)



 地元の駅周辺に、それまで都心にいかなければなかった店舗が増えたことで若者たちが集います。そうなると、新天地を求めて周囲にも個人経営のとがった店が増えていくというわけです。

駅ビルが育んだ郊外の「地元愛」

 この地元志向は若者だけには止まりませんでした。あらゆる世代が地元に都心と同じような店ができれば、そこを利用するわけです。

 誰もがどうしても都心に出掛けたかったわけではありません。都心に行かずとも、同じような買い物ができるのならば地元で済ませてしまおうという考えるわけです。

 21世紀に入ると、こうした地元志向に対応する再開発は加速度的に進みます。JRの駅ビルが再開発で多くのオシャレな店舗が入居する商業ビルになるのも21世紀に入ってからです。

都心よりも住みやすい? 郊外の魅力

 もはや、こうして生まれた郊外の繁華街は都心よりも充実しているといえます。都心であれば新宿・渋谷・銀座など広い範囲に目当ての店が点在しているわけですが、郊外ならば狭い範囲に集中しているのですから。

地元の過ごしやすさが相まって、郊外の人間関係は結束が強まるばかり(画像:写真AC)



 利便性では、郊外のほうが上。これは地元から離れがたくなる人が増えるのも当然でしょう。地元の付き合いを大事にする人が増えるのも当然です。

 本当に都会生活を楽しむなら、郊外の都市のほうが楽しいかもしれません。

関連記事