街にあふれる「無料」「半額」の文字
2020年6月中旬、梅雨入りしたとは思えないほどよく晴れた東京の渋谷センター街(渋谷区宇田川町)をひとり歩いていたところ、大きなハンバーガーの写真とともに「2個目無料」という文字が目に飛び込んできました。
それはハンバーガーチェーン・バーガーキングの店頭に置かれた看板で、よくよく見ると「テイクアウト限定」や「期間限定」というただし書きや、「第2弾」というキャンペーンコピーも。
ちょうどテイクアウト用の袋をぶら下げて店を出ていく男性会社員とすれ違ったので、彼はこのキャンペーンの利用客だったのかもしれません。
第2弾というからには第1弾がすでに実施され、好評を得られたからこそ続編を展開しているのでしょう。
確かに消費者にとって、1個でも2個でも支払額が変わらないのなら2個もらえるのはうれしいというのが至極当然の情。
あらためて街を見渡せば、デリバリーピザ店の「2枚め無料」(ただしこちらもテイクアウトのみ)や、マクドナルドのポテトS・M・L全サイズ税込み150円(2019年に実施)など、この世はファストフードの値引きにあふれています。
それにしてもなぜ、こうした非常に大胆な値引きを行うのか、疑問に思ったことはありませんか? 買う側にとってはラッキーでも、売る側のお店・企業にとっては商品1個分の売上金を得られなくなるから損なのでは、と素人考えで心配してしまうのですが。
「おうち時間」の需要をすくい上げる
まずは実際のサービスの現状を確認してみましょう。
バーガーキングを運営するビーケージャパンホールディングス(千代田区一番町)によると、第2弾となる現キャンペーンは6月5日(金)からスタートしていて、対象は「テリヤキワッパーJr.」と「ベーコンチーズワッパーJr.」の2商品。
ちなみに「第1弾」は別のバーガー商品を対象に5月1日(金)から実施しているといい、その時期柄やはり新型コロナウイルス感染拡大とそれに伴う外出自粛によって落ち込んだ売り上げを盛り返したいとの意図も感じられます。
書面での取材に応じた同社は、2個目無料キャンペーン実施の理由について、
「(外出自粛の)おうち時間にもバーガーキング自慢のじか火焼き100%ビーフをお得に楽しんでいただこうと企画しました。(テレビCMなどの広告で)大物タレントの起用にお金を掛けるのではなく、実際のサービスに還元することで本サービスを実現しています」
と回答しています。
「2枚め無料」改め、「1枚でも半額」
ほかの店ではどうでしょうか。
日本国内の宅配ピザ業界で、売り上げ・店舗数ともに1位を誇るドミノ・ピザ ジャパン(千代田区岩本町、同実績は2019年7月の同社発表)。
これまでも「テイクアウトなら2枚め0円」など大胆なサービスを提供して利用客を増やしてきた同社は、2020年6月11日(木)にオンラインでの記者会見を開き、テイクアウト2枚め無料を終了して「1枚でも、何枚でも半額」サービスを展開すると発表しました。
2020年3~5月のドミノ・ピザ利用者数は、外出自粛を背景にデリバリーが前年比42.5%、テイクアウトは同67.4%と好調な伸び。一方、単身世帯に限っては「量が多い」「値段が高い」などを理由に、需要はあっても実際の利用にはつながっていなかったことを今回のサービス変更の理由に挙げます。
東京などを中心に増え続ける、単身世帯の消費者。彼らについて、同社最高マーケティング責任者のトッド・ライリー氏は会見で「『2枚め無料』サービスを利用するために、必要以上のピザを購入しなければならないと不満を持っていた」と指摘。
テイクアウトを1枚めから半額にすることによって「ファミリーやグループだけでなく単身者にも、誰にとっても作り立てのピザを『普段食』にしたい」と今後の展望を語りました。
注文を増やして原価を抑える大手資本
これら2社のほかにも、日本マクドナルド(新宿区西新宿)は平日の昼限定でセットメニューを割引にしたり、ロッテリアも2020年5月の第4日曜日に1日限定で人気商品の「2個目無料」を実施したり――。
あらためて外食産業、特にファストフード業界における熾烈(しれつ)な値引き合戦の様相が浮かび上がってきます。
ここで再び、冒頭に浮かんだ疑問「なぜファストフード店は『2個目無料』といったサービスを展開するのか、できるのか」について考えてみましょう。
全国紙の経済部で取材歴が長い、元新聞記者の40代男性に業界の事情を聴きました。
まず、こうしたサービスを実施するのは基本的には大手チェーンに限られていて、「『2個目無料』キャンペーンを展開することによって通常時よりも多くの注文が見込まれるため、仕入れ数を増やすことができ、結果として原価を抑えることができるのです」。
また大手チェーンの場合、あらかじめ決められたマニュアルがあり調理もオートメーション化されているため、注文数が一時的に増えたとしても調理作業の手間自体はある程度抑えられるのだとか。
無料などの割引サービスの対象を「テイクアウトのみ」に限定するのは、店内での接客やデリバリーといった工数を減らすことで、経費の大きな部分を占める人件費を抑制するためというのが一般的だそう。
企業間の「優勝劣敗」いっそう激しく
さらに元男性記者は「今回のコロナ禍のように、世間が動乱に巻き込まれて不況に陥ったときこそサービス合戦は起こりやすく、業界内での『優勝劣敗』が激しくなる」とも指摘します。
「コロナ禍では外食チェーンの大量閉店も報道されましたが、そういうときにこそ多少無理をしてでも値引きサービスなどを実施して、新たな顧客を呼び込みたいという心理が企業側には働くのでしょう。特に外食は少子高齢化が進む日本国内での内需産業なので、限られたパイを奪い合う状況になり競争が激化しやすいといえます」(元男性記者)
確かにコロナを背景に、居酒屋チェーン大手のワタミ(大田区羽田)が2020年内に約65店を、ファミレスチェーンのジョイフル(大分市)は約200店を閉店することなどが報道されました。
元男性記者による上記の指摘は、特定の企業に関してではなくあくまで一般論ではありますが、業界の厳しい状況が垣間見えてきます。
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外出自粛によって飲食店が苦境にあった時期、あるいは大規模災害などによって被害を受けた被災地に対して、世間ではしばしば「食べて応援」というフレーズが使われました。
いつまでもあってほしいお気に入りのお店、また大好きな観光地に対して応援の意味を込めてお金を落とす、といった意味合いのスローガンですが、その意識は実は有事に限らず、平時から持っていても良いものなのかもしれません。
値引きという企業努力に敬意を表して買うも良し、あくまで味で勝負するお店を利用するも良し。あなたは、どのようにして外食先のお店を選びますか?
消費者側の消費行動があらためて問われることになりそうな、ウィズコロナ時代の日本・東京です。