女性アイドルの夏ソングに「恋愛もの」が少なくなった理由

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女性アイドルの夏ソングに「恋愛もの」が少なくなった理由

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太田省一

社会学者、著述家

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2020年も夏はすぐそこ。これまで夏を歌った多くありますが、今回は女性アイドルに絞って、その変遷を取り上げます。解説は社会学者で著述家の太田省一さんです。

女性アイドル歌手に似合う季節は?

 2020年も6月に入り、季節はそろそろ夏。それぞれの好みはあるかと思いますが、

「女性アイドル歌手に似合う季節は?」

と聞かれ、「夏」と答えるひとは少なくないのではないでしょうか。

2011年発売、夏っぽさ満載のAKB48「Everyday、カチューシャ」(画像:キングレコード)



 そこで今回は歴代の女性アイドルが歌ってきた夏ソングを、網羅とはいきませんができるだけ幅広くふれてみたいと思います。

本土復帰前の沖縄から来たアイドル

 まずはやはり、南沙織のデビュー曲「17才」(1971年発売)です。

1971年発売の南沙織「17才」(画像:ソニー・ミュージックダイレクト)

「誰もいない海」というフレーズから始まる、初々しい夏の恋愛ソング。

 1970年代、小柳ルミ子、天地真理とともに「新三人娘」のひとりとして活躍した南沙織は沖縄出身で、長い黒髪につぶらな瞳、日焼けした肌というルックスもそれにぴったりでした。

「17才」は、後に森高千里もカバーしてヒット。アイドルソングのスタンダードになりました。

 ちょうど南沙織がデビューした頃、国鉄(当時)の「ディスカバー・ジャパン」キャンペーンが始まっていました。

 高度経済成長で豊かになった日本人の旅行熱の高まり、東京~大阪間を結ぶ東海道新幹線の開通など鉄道網の整備を背景に、日本各地の魅力を旅で再発見しようというコンセプトでした。

 ただ沖縄は、南沙織がデビューした時点ではまだ本土復帰前。地理的にだけでなくそういう意味でもまだ遠さを感じる場所でした。しかしだからこそ、その沖縄から東京へやってきたアイドルとして、南沙織は特別な存在でもあったのです。

都心のシティーホテルを彷彿とさせる曲

 1980(昭和55)年にデビューし、今年デビュー40周年を迎えた松田聖子はヒット曲も数多く、歌の季節も問いません。

 ただ、抜群の伸びのある彼女の歌声は、夏が舞台の曲をより印象的にしてくれました。2曲目のシングル「青い珊瑚礁」(1980年発売)は、そんな1曲。このストレートなラブソングは大ヒットし、初出場の「NHK紅白歌合戦」でも披露されました。

 また松田聖子と言えば、作詞家・松本隆とのコンビが有名です。代表曲となると「赤いスイートピー」(1982年発売)になると思いますが、夏ソングにも佳曲があります。

「小麦色のマーメイド」(1982年発売)は、しっとりとしたバラード。

1982年発売の松田聖子「小麦色のマーメイド」(画像:ソニー・ミュージックレコーズ)



 歌詞の女性がいるのはどこかのおしゃれなプール。具体的な地名は出てきませんが、呉田軽穂(松任谷由実)作曲ということもあり、東京都心にでもありそうなシティーホテルのイメージです。

 デッキチェアに座り、りんご酒をひとくち飲む彼女のすぐそばには彼がいるのですが、「嘘よ 本気よ」「好きよ きらいよ」と内心はちょっと揺れているようです。

 このとき松田聖子は20歳になったばかり。大人びた世界が似合う年齢にもなっていました。それまでの常識を壊し、アイドルを職業として確立した彼女ならではの1曲と言えます。

東京でひとり暮らしをする女性の歌

 1990年代後半、一時あまり目立たなくなっていた女性アイドル歌手を復活させたのがモーニング娘。でした。

 こちらもキャリアの長さに比例して、夏ソング曲には事欠きません。「サマーナイトタウン」(1998年発売)や「ハッピーサマーウェディング」(2000年発売)も捨てがたいのですが、ここでは「ふるさと」(1999年発売)にふれたいと思います。

1999年発売のモーニング娘。「ふるさと」(画像:アップフロントワークス)

 歌詞の内容は、東京でひとり暮らしをする女性が失恋してしまい、田舎に住む母親に向けて自分の気持ちを語りかける、というもの。メインボーカルの安倍なつみが切々と歌っています。

 PVは彼女の故郷である北海道で撮影され、夏に帰省した設定。メンバーの母親(ただ顔は映っていません)や幼少期の写真が登場するのも見どころです。

 望郷歌は歌謡曲伝統のもの。どちらかというと演歌のイメージが強いですが、それをアイドルに歌わせるところがいかにもつんくらしいテイストです。

 この「ふるさと」は代表曲となった「LOVEマシーン」(1999年発売)のひとつ前のシングルということもあって目立ちませんが、いま聞くと味わい深い1曲です。

東京の地名を持つグループが歌う夏の歌

 2000年代から2010年代にかけては、AKB48や坂道シリーズといった東京の地名に名前の由来を持つグループが続々台頭しました。

 それらのグループにも、AKB48「Everyday、カチューシャ」(2011年発売)、乃木坂46「裸足でSummer」(2016年発売)、日向坂46「ドレミソラシド」(2019年発売)など夏の恋を歌ったヒット曲があります。

2019年発売の日向坂46「ドレミソラシド」(画像:ソニー・ミュージックレコーズ)



 ただ、これらの歌の詞は、「カチューシャしてる君に 僕は 長い恋愛中」(「Everyday、カチューシャ」)といったように、みな「僕」の視点から書かれています。

「17才」や「青い珊瑚礁」「小麦色のマーメイド」は、曲調の違いこそあれ、どれも女性目線の歌でそれが常識でした。ところがここでは、「僕」という男性目線に変わっています。

 理由はいくつかあるのでしょうが、この時代にアイドルがライブや握手会などを通じてより身近な存在になったことがひとつあるような気がします。男性ファンからみてより「共感」できることが大切になったのです。

変化する夏ソングの固定観念

 さらに乃木坂46には、女子だけの世界を歌った「ガールズルール」(2013年発売)のような夏ソングもあります。

2013年発売の乃木坂46「ガールズルール」(画像:ソニー・ミュージックレコーズ)

 白石麻衣が初めてセンターを務めたこの曲では、最後となる部活の夏合宿に出掛けた女の子どうしが、思い出を語り合いながら互いの絆を確かめます。

 PVも、思い出が詰まった学校のプールの取り壊しを決定した大人たちに生徒役の乃木坂46のメンバーたちが結束して反抗するというものでした。

 そこには、モーニング娘。あたりから少しずつ顕著になってきた「夏と言えばドキドキするような恋」という固定観念からの脱却、夏ソングの世界観の変化が垣間見えるようでもあります。

 さらに前述の「共感」という要素が大切になり、恋愛だけでなく、故郷や家族への思い、仲間との友情といった、性別を超えて誰もが多少なりとも思い当たるようなことが、女性アイドルによって広く歌われ始めたのではないでしょうか。

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