もはや社会現象 あつ森が「ゲーム音痴の女子大生」までガッツリ取り込めたワケ
過去最大のスタートダッシュ 家庭用ゲーム機「Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ)」と、専用ソフト「あつまれ どうぶつの森」、通称・あつ森。品切れするほど世界的に人気が高まっているのは、皆さんご存じの通りです。 2020年6月2日(火)に公表された任天堂(京都市)の「第80期定時株主総会 事業報告」に、好調の様子が次のように記されているので引用します。 世界的な人気を誇る「あつまれ どうぶつの森」(画像:任天堂サイト)「当期は、(中略)小さく、軽く、持ち運びやすくなった携帯専用の『Nintendo Switch Lite』を発売したことに加えて、『Nintendo Switch』も勢いを落とすことなく好調に推移したことにより、(中略)本体の販売台数は大きく増加しました」 「(2020年)3月(20日)に発売した『あつまれ どうぶつの森(以下、あつ森)』がNintendo Switch向けソフトウエアでは過去最大の滑り出しを見せ、1177万本の販売となりました」 同期(2019年4月1日~2020年3月31日)の営業利益は、前期比41.4%増の3523億円。「あつ森」人気は4月以降も衰え知らずですから、売上本数は今後も大きく記録を伸ばすことになるでしょう。 女子大生が次々とSwitch購入 注目したいのは「あつ森」が、従来ゲーム機との親和性が高い男性や子どもたちだけでなく、いわゆるZ世代(1996~2012年に生まれた若者たち)の女性からも支持を集めている点です。 2017年3月に日米などでNintendo Switchが発売された当時、同社の第2四半期決算説明会では、Switch購入者(米国)の年代や性別についての分布資料が示されています。 18歳までの若者が17%、19~24歳が20%、25~34歳が43%とボリュームゾーン。そして男女別で見ると、男性86%、女性11%と圧倒的な開きがありました。 任天堂「第78期(2018年3月期)第2四半期決算 説明会資料」で示された、米国ユーザーの年齢・性別分布(画像:任天堂サイト) ところが2020年6月、私たち「Z総研」が東京の女子高生や女子大生を中心に聞き取り調査を行ったところ、およそ3人にひとりの割合で「Nintendo Switchを持っている」「最近買った」という回答が。そして所有動機の多くが「『あつ森』をやるため」だったのです。 「あつ森」人気を後押しした背景に、新型コロナウイルスによる外出自粛があったのは各メディアが指摘している通り。しかし、若い女性にまでこれほど受けた理由はどこにあるのでしょう。 同ゲームの特長とともに考えてみたいと思います。 リアルと連携、充実の島作りリアルと連携、充実の島作り ゲームの舞台は無人島。現実と同じ時間の中で、プレーヤーたちは気ままな無人島ライフを送ります。虫や魚を捕まえたり、フルーツを取ったり、DIYで家具を作ったり、島を飾りつけたりして、登場する動物たちとの交流を楽しむゲームです。 「どうぶつの森」自体は2001(平成13)年から何本ものソフトが発売されているシリーズですが、今回の「あつ森」は今までのシリーズ作にはなかった要素が多く取り入れられ、非常に自由度が高く「自分だけの島作り」を楽しむことができるのが人気の理由です。 オンライン上でのやり取りが非常に活発なのも特長で、SNSでは自分の作った島の「マイデザイン」を、ほかのユーザーに公開・配布(提供)している人が多くいます。 レイアウトやデザインを考えるのが苦手な人でも、SNSでお気に入りのマイデザインを探して自分のゲームに取り入れれば、簡単に島をおしゃれに整えることができます。 「ある森」の1場面(画像:任天堂サイト)「マイデザイン」ではオリジナルの洋服を作ることもできるので、この機能を活用して好きなアイドルなど、自分の「推し」と同じ衣装を作ってオタ活に専念するユーザーも。 さらに、若い女性たちも大好きな有名ブランドが公式の「マイデザイン」洋服を配布し、ユーザーたちを湧かせる場面もありました。 自由なデザインやレイアウトを楽しめるのは、島の外観だけでなく自分の「家」の内観もなのですが、「あつ森」にはコンプリートするのが難しいほど膨大な数の「家具」が。 アレンジ無限大なのが楽しい半面、どの家具を選べばいいのか分からなくなって「部屋作り迷子」になってしまう、なんてことも間々あるものです。 そんなニーズに応えて、「あつ森」の部屋コーディネートのコンサル業を始めるインテリアメーカーまで現れました。 先ほどのファッションブランドもしかりですが、リアルの企業などが次々“参戦”した結果、おしゃれ好きな若い女性のニーズにも応えるサービスが充実し、彼女たちの「あつ森」熱を高めることに大きく貢献しました。 女性タレントらも人気後押し女性タレントらも人気後押し そして彼女たちを夢中にさせているのは、何と言ってもオンラインでの交流です。 普段から魅力的なモノ・コトに囲まれて暮らす東京の若い女性たちは、平時であれば遊びの選択肢に事欠きません。しかしご存じの通り、突然の外出自粛に見舞われた2020年春は、彼女たちも例外なく自宅にこもり切りになりました。 いつも遊んでいる友人たちとオンライン飲みをひとしきり楽しんだ一方で、あたかも“屋外”で一緒に遊んでいるような感覚を味わえる「あつ森」もまた、巣ごもり生活のありがたいお供となりました。 ちなみに「あつ森」でオンライン交流をするのは友人同士だけではありません。 知らない相手とSNSを介してアイテムを交換することもできるし、さらにはインフルエンサーや有名人と一緒にひとつの島で遊ぶイベントも開かれています。 例えばタレントの指原莉乃さんは、ファンたちとの握手会ごっこを開催し、ファンにアイテムのお花をプレゼントするなど、現実ではなかなかできない濃い交流をしてファンを喜ばせていました。 ファンとの交流を伝える指原さんのツイッター(画像:指原莉乃さん公式ツイッター) 現実では、ファンが「推し」に貢ぐことはできても、推しからのお返しなんてなかなかもらえないもの。この体験はファンにとっても非常に新鮮だったようで、指原さんからもらったアイテムの花を「柵」で囲って大事に飾っている人もいたほどです。 指原さんをはじめとする20代の女性有名人たちが積極的に取り上げたことも相まって、「あつ森」は若い女性たちの間でも波状的に人気を拡大していきました。 実際「あつ森」を機にNintendo Switchを買った東京の女子大生はこんな風に話しています。 「もともと3月は海外旅行をしようと決めていたのですが、コロナの影響で行けなくなってしまったんです。お金が浮いたこともあったし、毎日毎日『あつ森』に関する投稿が(SNSで)目にとまるし、好きなYouTuberが『あつ森』の実況をアップしているのまで見ちゃったから、私もやりたいなーと思って、思い切って買っちゃいました。私の周りの子も、『あつ森』きっかけでSwitch買った人けっこう多いですよ」 SNS映えも欠かせないポイントSNS映えも欠かせないポイント「あつ森」が発売されてからというもの、Nintendo Switchは以前にも増して手に入りにくい状況が続いています。 外出自粛が明けたことで若い女性たちの「あつ森」熱は多少冷めるのかな、と思いきや、この間に築き上げた自分の島への愛着がより高まっている人、まだSwitchや「あつ森」を入手できていなくて、「早く自分もプレーしたい!」という“飢餓感”が高まっている人、さまざまで、まだまだブームはしばらく続きそうな予感です。 品薄状態になるほどの人気を博すNintendo Switch(画像:写真AC) もともとゲーム機に触れたことが無かったZ世代の女性たちも「おうち時間があまりに暇だから、面白そうだし買ってみるかあ~」というぬるいテンションで手に取ってみた結果、思いのほかハマってしまったという人がほとんど。 そうそう、もうひとつ彼女たちを魅了する要素がありました。 おしゃれでオリジナルな島づくりが可能なところは、「SNS映え」を意識する女性にとってうれしいポイント。彼女たちのセンスによってこの先どんな斬新な島やマイデザインが登場するのか、楽しみに見守ってみるのも一興です。
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