お金の博物館で感じた「人はなぜ稼ぐのか」という根本的疑問

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お金の博物館で感じた「人はなぜ稼ぐのか」という根本的疑問

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2015年7月に丸の内にオープンしたデジタル博物館「金融/知のランドスケープ」を訪れたアーバンライフメトロ編集部が感銘を受けたものとは。

「大手町・丸の内・有楽町地区計画」に伴う施設

 2019年10月からスタートした消費税増税や軽減税率。そして本格的に始まったキャッシュレス化と、なにかとお金にまつわる話題が多かった2019年。秋には、銀行に口座を持っているだけでお金がかかる“口座維持手数料”の導入が、大手銀行で検討されているというニュースが話題を集めました。2019年は増税によって人々のお金に対する価値観がよりシビアなものになり、税金や銀行の存在そのものへの疑念が日本中を駆け回ったとも言えます。

 そんな中、三井住友銀行は銀行や金融という存在が多くの人の身近な場所として存在するように、さまざまな施策を行っています。

 三井住友銀行東館ライジング・スクエア(千代田区丸の内)2階のデジタル博物館「金融/知のランドスケープ」は、お金や経済の仕組み、金融の役割や銀行の歴史などを学べるミュージアムです。どのような施設なのか、取材しました。

それぞれの柱の裏には歴史上の偉人たちが残した金言が書かれている(画像:アーバンライフメトロ編集部)



 日本経済の中心地といえる東京・丸の内は、大手町や有楽町などの近隣エリアを含め、大企業や都市銀行のビルが立ち並んでいることで知られています。一方、経済だけではなく文化や地域交流といった側面にも力を入れていることはあまり知られていません。

 2015年に千代田区が告示した「大手町・丸の内・有楽町地区計画」には、日本経済の中心であり世界に開かれた街となるべく、新たに建設される建物は地域の活性化に資する施設を設ける指導が盛り込まれました。その指導のもと、2015年7月にオープンしたのが三井住友銀行東館ライジング・スクエアのデジタル博物館「金融/知のランドスケープ」です。

金で信用を作るな、信用で金を作れ

 7本のインタラクティブサイネージ(デジタル看板)を手で触れながら、古代から現代まで続くお金にまつわる画期的な出来事や、金融によって変わってきた人々の生活など500以上の学べるコンテンツを見ることができます。

 年末にさしかかって出費が増え金欠になり、また子どもの教育費や住宅ローン返済、老後資金など、漠然としたお金の不安を常に抱えている筆者がこのミュージアムでもっとも引かれたのは、偉人のお金に関する金言のコンテンツでした。

「金融/知のランドスケープ」の内部。興味のあるカードをタッチすると知の物語が始まる(画像:アーバンライフメトロ編集部)



 イギリスの哲学者フランシスコ・ベーコンの箴言(しんげん)には、「金銭は肥料のようなものであって、 ばら蒔かなければ役には立たない」と書いてあります。

 古代ギリシアの哲学者ソクラテスは、「金持ちがどんなにその富を自慢しているとしても、彼がその富をどんなふうに使うかがわかるまで、彼をほめてはいけない」と言い、アテナイの政治家テミストクレスは「金で信用を作ろうと思うな。信用で金を作ろうと考えよ」と言っていました。

丸の内で探求する、お金や金融の可能性

 また金欠の筆者にとって、オピニオンリーダーが「あなたにとってお金とは?」に答えた映像メッセージもお金について考えを改めるきっかけになりました。オピニオンリーダーは随時変わっていくそうですが、筆者が取材をした12月中旬には映画プロデューサーの川村元気さんや落語家の林家たい平さんなどの映像がありました。

 中でもJT生命誌研究館館長の中村桂子さんは「お金は人間が生きるための潤滑油となって、支えてくれるもの。振り回されないで、生き生きと生きるために活用していくもの」と言い、クリエーティブディレクターの箭内(やない)道彦さんは「お金は使うもの。死ぬときに残高10円も残したくない」と言っていたのが印象的でした。

 お金に振り回されない、お金はいくら持っているかよりもどう使うかが大事、お金で信用は作れない……。偉人やオピニオンリーダーの言葉でハッキリと「お金の哲学」を語られると、「なぜお金を稼ぐのか」「お金にとらわれて大事な何かを見失っていないか」という、お金との根本的なな向き合い方を考えさせられました。

銀行が地域交流と「共創」の場となるように

 それにしてもこの「金融/知のランドスケープ」は、社員が業務を行うオフィスも入るビルの一角に、一般人が入館証も不要で自由に出入りできるようになっています。なぜ、このような施設を造ったのでしょうか。詳しい話を三井住友銀行管理部部長代理・大橋昌史さんに聞きました。

子どもにもわかりやすいお金や金融についての説明も(画像:アーバンライフメトロ編集部)



――そもそもなぜ、「金融/知のランドスケープ」のようなミュージアムを作ったのでしょうか。

 1番は金融機関としての役割に照らした情報展示スペースを企画したかったからです。また訪れたビジネスパーソンはもちろん、丸の内に買い物に来た女性やまだお金のことについてよくわからないお子さまにも広く、「金融」という目に見えないものへの理解を深めてもらうためでもあります。経済の中心である丸の内が文化的にもよりにぎわいのある街となるように、当ミュージアムが貢献できればと思っています。

――銀行やお金を取り巻く状況が劇的に変化しています。このミュージアムに訪れた人がお金や金融について学ぶことで、どういった狙いを込めていますか。

 道具としてのお金、信用を通じて社会を創造していく金融について学んでいただくことで、お金や金融が社会や生活に果たしてきた役割や未来への可能性を感じていただきたいと考えています。マネーゲームとしての金融ではなく、自分の成長や社会をよくするための手段としての金融を改めて考えて感じるきっかけとしていただければ幸いです。

――銀行が街や人に溶け込む施策を行っている理由について教えてください。

 丸の内周辺で働く方々、弊行のお客さま、地方自治体、地域の子どもたちなど、さまざまなステークホルダーの皆さんの交流や新たな価値を創造する場となることが狙いです。例えば入り口には、リアルタイムの気象情報や地球温暖化など、さまざまな地球の姿を自分の手で回してデジタル地球儀「触れる地球」があり、1階ロビー(アースガーデン)ではミニコンサート、地方自治体の物産展なども実施しています。2020年3~4月には、お子さま向けのオペラコンサートも予定しています。今後も単にお金や金融を学ぶ場所としてだけではなく、地域交流や「共創」としての銀行の在り方を模索していきます。

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 近隣には日本郵政初の商業施設である「KITTE丸の内」(2013年にオープン)もあり、徐々にそこで働くビジネスパーソンのためだけの街ではなくなってきている丸の内。知的好奇心がくすぐられる「金融/知のランドスケープ」のような、都市銀行による施設がさらに増えていくことで、地域住民や観光客などに文化的にも商業的にも開かれた、面白い街になっていくことが期待されます。

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