外出自粛で痛感? 自宅で再現できないメニューを味わえる「外食」の体験的価値

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外出自粛で痛感? 自宅で再現できないメニューを味わえる「外食」の体験的価値

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小野員裕

フードライター、カレー研究家

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外出自粛で手作りやテイクアウトがはやったものの、外で食べるプロの料理は自宅で再現できません。そんな「再現できない」メニューをリーズナブルに食べられる都内のお店について、フードライターの小野員裕さんが紹介します。

「あの店に行きたい」と妄想した期間

 緊急事態宣言が2020年5月25日(月)、全国で解除されました。発令からおよそ1か月半、ちまたがやっとにぎやかになります。

 ただコロナリスクが無くなったわけではないので油断は禁物ですが、臨時休業や短縮営業を余儀なくされていた飲食店の人たちは、胸をなでおろしていることでしょう。

アンケート「緊急事態宣言解除後に行きたいお店」で1位に輝いた焼き肉(画像:写真AC)



 皆さんも、在宅勤務や外出自粛でたまりにたまったストレスを少し発散できるようになったのではないでしょうか。

 またこの期間を通して、多くの人は出前やテイクアウトの弁当などに飽きてしまったことでしょう。外出自粛中は「あの店に行きたい」「あれも食べたい」と誰もが妄想したのでは?

 でもこれからは誰の目も気にすることなく、大好きなお店へ足を運ぶことができるようになりつつあります。

宣言解除後に食べたくなったもの

 情報通信事業を手掛けるROI(新宿区下宮比町)が全国の18~79歳の男女1000人(男性262人、女性738人)を対象に行ったアンケート調査によれば、緊急事態宣言解除後に行きたいお店のベスト3は、

1位:焼き肉
2位:すし
3位:ラーメン

となったそうです。

 このアンケート結果は、実に合点がいきます。私(小野員裕。フードライター)もまさに食べたかったものはこのような感じでしたから。

緊急事態宣言解除後に行きたいお店に関するアンケート(画像:ROI)

 ところで自宅で決して味わえない外食メニューはさまざまですが、皆さんはどのようなものを思い浮かべますか。想像するに、自宅での調理はハードルが高く、またプロの調理人でしか再現できない料理といったところでしょう。

 アンケート調査で1位の焼き肉は専門店で食べるのに越したことはありませんが、スーパーで売っている専用の肉と、市販のたれである程度楽しめます。再現という点においては、さほどハードルは高くありません。

軽やかなうま味を持つジンギスカン

 ジンギスカンは焼き肉同様、自宅でも再現できますが、門前仲町にある「ひつじの新町や」(江東区富岡)はまねができません。

江東区富岡の「ひつじの新町や」のジンギスカン(画像:小野員裕)



 同店は長野の牧場からほぼ1頭買いした羊肉を、背ロース、脂背ロース、肩バラ、ヒレ、部位の異なるモモ2種と、脂モモ肉2種の全8種類に切り分けて提供しています。両面をサっとあぶり、しょうゆベースのつけだれに浸してパクリとほお張れば、軽やかなうま味が心地よく「ああ、羊肉ってこんなにおいしいもんなんだな」と実感させられるでしょう。

江戸前の仕事が施されたリーズナブルなすし

 すしも、自宅では再現が難しいものです。

 やっぱり、スーパーのすしや店のテイクアウトは味気がありません。職人が目利きで選別した新鮮な魚介、または江戸前の仕事を施したこはだや煮穴子、白身魚の昆布〆など、カウンターに立った職人が目の前で握るすしはやはり格別です。

 ということで、比較的リーズナブルなすし屋でお勧めしたいのは、池袋「柳寿司」(豊島区西池袋)、方南町「すし処みやび」(杉並区方南)。

杉並区方南の「すし処みやび」のすし(画像:小野員裕)

 銀座ですしは庶民に手が届きませんが、麻布十番の「松栄寿司」(港区麻布十番)は銀座よりは少々お手ごろで、握り以外の一品利用理も秀逸の店です。

 また、ラーメンも自宅で作るとなると手間がかかります。

 お店監修のカップ、袋麺もありますがしょせんはインスタント。専門店に及びません。本格的なラーメンを一から作ると、簡単ではありません。麺は市販のものを用意しても、スープを炊いて、メンマを味付けし、焼き豚を仕込み、元だれを調理――となると、とんでもない労力がかかります。

 加えて、そのような苦労の末に出来上がったものは、残念ながら専門店で職人が作った熱々のラーメンには及ばないのです。

力強いスープのラーメン

 ラーメンでお勧めの店はいろいろありますが、早稲田の「としおか」(新宿区弁天町)はピカイチです。

新宿区弁天町の「としおか」のラーメン(画像:小野員裕)



 ラーメン、つけ麺、塩ラーメンどれも文句なしのおいしさ。大量のガラに魚の乾物で炊いた力強いスープは奥深い味わい。中太のストレートの自家製麺は滑らかでツルツル。麺はかなりのボリュームですが、力強いスープに助けられて、すんなりおなかに収まってしまうおいしさです。

 ちょっとジャンクなラーメンでしたら「蒙古タンメン中本」の各支店がそれぞれの地域にあると思いますが、お勧めは「味噌卵麺」です。旨辛のみそスープにタップリのモヤシ、中太のもちもち麺がこの旨辛のスープに絡んで絶品です。経営者の白根誠さんも「うちで一番おいしいのは、やはり味噌卵麺ですね」と言っていたのを思い出します。

職人の技がさえるもつ焼き

 そのほかに自宅で再現が難しい外食を考えてみると、誰もが高級レストランのメニューと思いがちです。しかし、大衆グルメは意外に再現できません。特に「もつ焼き」や「焼き鳥」など。

 もつ焼きは、なんといっても鮮度が命です。ですから新鮮な臓もつの仕入れは欠かせません。東京ならば芝浦にある「東京食肉市場」(港区港南)、通称「芝浦と場」で販売されています(一般購入は不可)。

 東京の店なら、だいたいここで仕入れていることが多いのです。仕入れてきた臓もつを各部位に切り分け、余計な部分をカットして、さらに串打ち作業を行います。これを素人がやると、焼いている間に串から外れたり、串が焼き台の上でひっくり返ったりするもので技術が必要です。

千代田区神田三崎町の「もつ焼 でん 水道橋店」のもつ焼(画像:小野員裕)

 そのような職人の技がさえるお勧めの店は、東十条「埼玉屋」(北区東十条)。高田馬場「おかしら」(新宿区高田馬場)。堀切菖蒲(しょうぶ)園「串焼いしい」(葛飾区堀切)。新宿「もつ焼ウッチャン 新宿思い出横丁」。水道橋「もつ焼 でん 水道橋店」(千代田区神田三崎町)などです。特に「もつ焼 でん 水道橋店」はにぎやかで活気があり、家飲みでは味わえない華があります。

振り塩にもこだわった焼き鳥

 もつ焼き同様、焼き鳥も鮮度が重要ですが、原料となる鳥肉の仕入れ先は臓もつと違ってさまざまです。現地から直接仕入れる場合と、各町に小さな卸問屋から仕入れる場合があります。

 鳥肉は丸鶏から各部位に切り分け、串打ちをします。振り塩は店によってさまざま。粗塩を鍋で炒って水分を完全に飛ばしすり鉢で細かく粉砕したり、粗塩と一緒に昆布水を煮て水分を飛ばしたりします。そのような塩を振り、鳥を焼き上げていくのです。

 また淡泊な胸肉には皮を巻いて串打ちするお店など、これも自宅ではなかなかまねできません。

新宿区西早稲田の「鳥でん」の焼き鳥(画像:小野員裕)



 おすすめの店は、中目黒「鳥よし 中目黒本店」(目黒区上目黒)。早稲田「鳥でん」(新宿区西早稲田)、北千住「五味鳥」(足立区千住)、錦糸町「とり喜」(墨田区錦糸)などです。リーズナブルな店では、チェーン店の「秋吉」ですね。ここのおすすめは「純けい」と呼ばれる歯ごたえのしっかりしためんどり。小ぶりで抜群のおいしさです。

 そのほかウナギのかば焼き、トンカツ、北京ダックなど、自宅では再現できないいろいろな料理があると思います。

 長期の外出自粛で、余計な出費を抑えていた人も多いでしょう。余裕があれば少々奮発して、自宅では味わえないおいしい店を訪ねてみてはいかがでしょうか。

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