6割超が「テレワークを続けたい」
新型コロナウイルス感染拡大に伴う「緊急事態宣言」は約1か月半ぶりに東京を含む全47都道府県で解除され、東京のビジネス街にもテレワーク(在宅勤務)をしていた会社員の姿が少しずつ戻ってきました。
情報通信サービスのカオナビ(港区元赤坂)が2020年5月1日(金)~7日(木)に実施した調査(9721人対象)によると、東京を含む首都圏で「週4日以上」テレワークをしていた人の割合は、地域別で最も高い52.2%。デスクワーカーを中心に半数以上の人がテレワークを経験していたことになります。
感染防止に十分な対策を採りつつも以前の出社体制へ戻そうとする企業の動きが見られるなか、「引き続きテレワークを続けたい」と願う社員たちの声も聞こえてきます。
日本生産性本部(千代田区平河町)が2020年5月22日(金)に発表した「働く人の意識調査」によると、「コロナ禍収束後もテレワークを行いたいか」との問いに対し66.3%の人が「そう思う」「どちらかと言えばそう思う」と回答しました。
ネット上のSNSには、よりリアルな本音があちこちに。
「会社に行かなくても仕事はできるし、行かないとできない作業は全体のごく一部」
「職場だと電話や窓口の対応で作業が細切れになるから、自宅の方が集中できる」
「往復の通勤時間や残業、職場の間関係から解放されるだけで、ストレスがたまらず効率も上がるというもの」
「まだ感染のリスクはあるのに、危険を冒してまで満員電車に乗りたくない」
「昼食後に短い仮眠を取ることで集中力が上がったりする。結果をきちんと出せれば時間の使い方は個人の自由」
などなど、挙げればキリがありません。なかには「もう以前のような通勤生活には戻れない」と嘆く人も。
また、緊急事態宣言中も通勤していた人たちからも「電車がすごくすいていて快適だった。テレワークで仕事できる人はそのまま続けてほしい」という“要望”の声が寄せられています。
テレワーク新ビジネスも続々と登場
くしくも新型コロナウイルスという「不可抗力」によって、日本のビジネスシーンにおける多くの物事は「オンラインに代替できる」ことが明らかになりました。
むしろ旧来のアナログツールを次々とデジタルに置き換えていったという点は、新型コロナがもたらした功罪のうち数少ない「功(こう)」のひとつかもしれません。
新しいニーズが生まれるところに、新たなビジネスも登場するもの。新型コロナ禍でもさまざまな企業の取り組みが加速しています。
テレビ会議の背景画名刺代わりに
絶対的にアナログなお仕事道具といえば名刺でしょうか。この先たとえオンライン会議が定着しても、自分の身分や連絡先を伝えるためには一定程度のニーズは残るものと推測されます。
ここに商機を見いだしたのは、コンサルティングサービスを展開するOneColors(港区西新橋)。ビジネスツールとして定着しつつあるテレビ会議システム「Zoom」の「バーチャル背景」機能を活用し、名前や部署名、連絡先、会社のロゴマークなどを盛り込んだ名刺風の背景画像を制作するサービスを始めました。
このオンライン名刺について同社は「不慣れなオンラインセールスでも会話の糸口になり、盛り上がる」「デジタルはデザイン変更が容易なので、新サービス情報などを盛り込んでアピールできる」「名前や肩書などを文字情報として表示させることで、相手に正しく伝えられる」とメリットを説明。
全社的にオンライン名刺を活用することで、企業ブランドイメージの維持・向上を図ることにもつながる、としています。
業績悪化はテレワークが原因か?
このほかにも、「テレワークになって同僚との雑談や世間話ができなくなって寂しい」という声に応えて情報通信サービスのトラックレコード(渋谷区)が開発したのが、チャットツール(slack)上でBot(機械による自動発言システム)が社員をインタビューしてくれるシステム「Colla(コラ)」。
「出身地はどこですか?」「最近買ったモノで一番気に入っているもの何ですか?」といったチャット上での問いかけに社員が回答を入力すると、その情報がほかの社員とも共有されて、雑談のきっかけになるというものです。
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このように新型コロナによって急激に整備されていくテレワーク環境の充実は、日本の働き方をより自由に、個々人の希望に即したものへと変えていくのでしょうか。
テレワークの“弊害”を懸念する企業側の意見もあります。
人材育成サービスのラーニングエージェンシー(千代田区有楽町)が企業の人事・教育担当者948人に対して行ったアンケート調査(2020年5月12日~18日)では、「コロナによる社員教育・人材育成への影響はあるか」との問いに84.0%が「ある」と回答。具体的には「コミュニケーション不足」(74.9%)や「業務効率の悪化」(44.8%)などを課題に挙げる声が数多く見られました。
ただ一方で、働く会社員ら側からは「通勤時間や社内での電話応対などがない分、仕事がはかどる」や「静かな自宅で集中できる」といった声があることは、冒頭でもご紹介した通りです。
新型コロナ禍で多くの企業が業績悪化にあえいでいますが、切り分けて考えたいのはそれがテレワークという働き方の非効率性によるものなのか、それともいわゆる「コロナ不況」による悪化であり次第に改善されていくものなのか、という点です。
もし後者であるならば、国内の経済活動が少しずつ回復していった後に、あらためてテレワークの成否を問うのでも決して遅くはないでしょう。
またテレワークを日本にいっそう根付かせるため、働く社員たちもより自分を律して作業効率を上がることはこれまで以上に意識しなくてはなりません。これほど急激に社会や働き方が変化する場面は、そうそう訪れるものではないからです。
次々と誕生するテレワークのためのインフラを末永く生かしていけるか否かは、結局のところ私たち会社員自身の振る舞いに掛かっているようです。