暑い日のお供にぴったり ペットボトルはなぜ「500mlサイズ」で広まったのか

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暑い日のお供にぴったり ペットボトルはなぜ「500mlサイズ」で広まったのか

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昼間たかし

ルポライター、著作家

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暑い日の水分補給に便利なペットボトル。そんなペットボトルはなぜ500ml製品が多いのでしょうか。ルポライターの昼間たかしさんが解説します。

増える「飲みきりサイズ」

 東京のあちこちで見かける自動販売機は近年の進化が著しく、小銭を出さなくても電子マネーで買えるためとても便利です。JR東日本のエキナカにある自動販売機は、時間帯別の売り上げや購入場所などのPOSデータも収集しているそうで、まさに最先端の技術が詰まったものと言えるでしょう。

自動販売機でペットボトルを買うイメージ(画像:写真AC)



 そんな自動販売機で売られているドリンクで最近、「飲みきりサイズ」が増えています。500mlのペットボトルは量が多すぎて、その場で一度に飲むには余ってしまうため、需要は高いのでしょう。

 日本コカ・コーラ(渋谷区渋谷)はさらに一歩進んで、2020年からスーパーなどで流通するコカ・コーラのペットボトルを350mlと700mlのラインアップに切り替えています。ひとりで飲みきるときと、ふたりでわけて飲むときに適したのがこのサイズとのことです。

なぜ500mlが「飲料の標準」になったのか

 ここでふと頭に浮かんだのは、なぜ500mlが「飲料の標準」になったのかということです。

 かつて缶が主流だった時代は、200mlサイズが多数派だったのにも関わらず……そのようなわけで、350ml缶が流通し始めた頃は「同じ値段なのにお得だ」と思った人も多いのではないでしょうか。

 350ml缶はアメリカ発祥ということもあり、かつては「アメリカンサイズ」と呼ばれていました。

キリンホールディングスのウェブサイト(画像:キリンホールディングス)

 これは缶ビールから当初始まったもので、ビール大手のキリンホールディングス(中野区中野)のウェブサイトでは、アルコール飲料の缶が350mlと500mlになっている理由をこのように解説しています。

なぜかキープされた100円価格

 もともと日本の飲料缶の容量は200ml、250mlが主流で、缶の先進国であるアメリカは12、16オンス缶が主流でした。

 その容量が決められた経緯は不明ですが、アメリカ製の製缶機が輸入され、次第にアメリカンサイズ缶が普及。現在の350ml、500ml缶は12、16オンスを切りがいい数値に変更されたといいます。

 そしてこのサイズが次第に清涼飲料水に及び、1980年代後半から徐々に普及していきました。

伊藤園「おーいお茶」(画像:伊藤園)



 ただ現在と異なるのは、それまで清涼飲料水の標準サイズだった250ml缶、350ml缶どちらも100円だったということです。

 なぜなら、飲料メーカー各社はワンコインを止めると売り上げが落ちるのではないかと危惧していたからです。

2014年には130円へ

 実は1984(昭和59)年、近畿コカ・コーラボトリング(現・コカ・コーラウエスト)はコカ・コーラの350ml缶を110円に値上げしたことがあります。しかし販売不振に陥り、すぐに取りやめました。

 また1989(平成元)年に消費税が導入されると、各社は値上げを検討しますがなかなか動き出しませんでした。

アサヒ飲料「三ツ矢 とろけるマンゴーミックス」(画像:アサヒ飲料)

 しかし原材料費と人件費の高騰によって、1992年初頭に各社は一斉に値上げに踏み切り、110円が主流になります。各社とも値上げによる売り上げ減は覚悟していましたが、売り上げは拍子抜けするほど変わりませんでした。

 以降、値上げは120円を経て、2014年には130円とするメーカーも。しかし21世紀に入ってからは「激安」を売りにした自動販売機が増えていたこともあり、さほど話題にはなりませんでした。

輸入ペットボトル飲料の到来

 そして容器が缶からペットボトルへシフトし、500mlが標準となったのは1996(平成8)年のことです。この年、大手メーカー各社は一斉に500mlのペットボトル発売に踏み切ります。

 というのも、これまで500mlは業界ルールで禁止されていました。飲料メーカーの業界団体・全国清涼飲料工業会(現・全国清涼飲料連合会)は1981(昭和56)年からゴミの増加を防ぐために、1l以下のペットボトルの製造販売を自主規制していたのです。

サントリー「ペプシコーラ」(画像:サントリー食品インターナショナル)



 ところが1990年代に入ると、海外から輸入されたペットボトル飲料が市場に出回るようになります。量が多いだけでなく、缶と違って飲みかけでフタができる、中身が見えて清潔感がある、ペットボトルは消費者から支持を集めます。

 さらに同会に加盟していないメーカーから500mlのペットボトルが発売されるようになったことで、自主規制は廃止され、大手メーカーも生産を始めます。

 消費者から望まれた製品である一方、この頃はペットボトルをごみとしてどう分別するか、どうリサイクルするかの方法も知られておらず、ゴミの増加につながるとして、批判を受ける一幕もありました。

 ペットボトルが再生可能な資源ということが広く理解されるには、まだしばらく時間が必要でした。

目まぐるしく変わる消費者の好み

 それでも500mlペットボトルは人気が高く、日本コカ・コーラ、サントリー(現・サントリー食品インターナショナル。中央区京橋)、キリンビバレッジ(中野区中野)などの1997年の1~7月の売り上げは前年度比で4~15%ほどに増えたといいます。

コカ・コーラ「アクエリアス エアーボトル」(画像:日本コカ・コーラ)

 こうして標準化した500mlサイズですが、「量が多い」と言われる現在の状況を見ていると、消費者の好みはめまぐるしく変化するものだと改めて痛感します。

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