昭和・平成を駆け抜けた、今は亡き東京の博物館 幼き日の記憶の糸を手繰り寄せて

どんなに素晴らしいものでもいずれは消えて亡くなります。それは博物館も同じ。ということで今回は、昭和の後半から平成にかけての多くの人たちを魅了した都内の博物館について、文筆家の広岡祐さんが解説します。


博物館の記憶、街の記憶

 東京には数多くの博物館・美術館があります。日本最古の博物館である東京国立博物館(台東区上野公園)は1872(明治5)年の創設。江戸時代は寛永寺の寺域だった上野の森には、文部省の教育博物館をルーツとする国立科学博物館、恩賜上野動物園(以上、同)など、近代日本黎明(れいめい)期の記念碑となるさまざまな文化施設が建設されていきます。

 第二次世界大戦後、日本は工業国、産業立国をめざして再びスタートを切りました。戦後の発展のなかで、最新の工業製品や技術を紹介する企業博物館が次々と誕生します。 

 これらの施設は、当時の子どもたちにとって大きな魅力をもつ場所でした。

 子どものころに親から離れて、初めて友だちと電車やバスに乗って出掛けた場所が、都心部の博物館や動物園だった、という人も多いのではないでしょうか。今回はかつて東京にあった博物館を、中でも昭和の後半から平成にかけての子どもたちを魅了した、なつかしい施設をふり返ってみましょう。

神田須田町の風景とともに

●交通博物館
 千代田区神田須田町にあった交通博物館。小中学校の遠足や社会科見学では定番のコースであり、乗り物好きの男の子たちの聖地でした。

 交通博物館の歴史は、1921(大正10)年にさかのぼります。当初は鉄道開通50周年を記念して、東京駅近くの高架下におかれた施設でした。

 関東大震災後に万世橋へ移転、被災した万世橋駅の跡地にインターナショナルスタイルとよばれるモダンな建物を建設します。駅と共用の施設でしたが、第2次大戦中に万世橋駅は廃止となり、建物は博物館専用となりました。

交通博物館入り口。新幹線とD51形蒸気機関車の前頭部が置かれていた(画像:広岡祐)



 戦後は鉄道だけでなく、自動車・航空の分野も網羅した総合博物館に発展していきます。館内は次第に手狭になり、庭先には新しく別館が建設されました。ここでお弁当を食べた記憶のある人も多いでしょう。

 別館の端には北海道を初めて走った7100形蒸気機関車・弁慶号が展示されていましたが、この場所には戦前、東京名物だった軍神・広瀬中佐像の巨大な銅像が立っていました。

 戦前・戦後と長く愛された施設でしたが、さいたま市に鉄道博物館が完成、交通博物館は2006(平成18)年にその役割を終えます。

展示物の楽しさだけではない魅力

 交通博物館の記憶をたどる人の多くが、なつかしい神田須田町の街の様子を語ります。展示物の楽しさだけでなく、周辺の景色や街並みも混然一体となって、なつかしい思い出となっているのです。

交通博物館の館内。右側のC57 135号は1975年、定期列車最終列車をけん引した蒸気機関車。現在は鉄道博物館に展示中(画像:広岡祐)

 万世橋の欄干の飾りや高架線の赤レンガ、橋から見下ろす神田川の水面、あちこちに残っていた戦前の看板建築の商家、松住町にかかる大鉄橋のアーチ、そして秋葉原電気街の雑踏と、交通博物館の記憶は常に神田の風景とともにありました。

 子どもだけで神田須田町に来ることは、大人の街に初めて踏み出す、ある種の通過儀礼だったようにも思えるのです。

オフィス街の博物館

●逓信総合博物館
 千代田区大手町にあった逓信総合博物館は、旧郵政省・電電公社(のちのNTT)・NHK・KDD(国際電信電話株式会社)の共同運営による博物館です。1902(明治35)年、万国郵便連合加盟25周年を記念して設置された郵便博物館がルーツとなっています。

逓信総合博物館(ていぱーく)のあった逓信ビル(画像:広岡祐)



 1964年(昭和39)年に大手町に移転、ビルの2階と3階を常設展示フロアとして活用し、四つの機関の仕事をわかりやすく解説していました。

 ずらりと並んだ新旧の電話機やさまざまな形のポストは見ていて楽しく、30万種におよぶ世界の切手のコレクションは圧巻でした。国やテーマ別に分類されたスライド棚に多くの子どもたちが集まりましたが、花や動物などの切手の展示は女子にも人気が高いコーナーでした。

展示物は現在、郵政博物館へ

 この博物館は大手町のビル街にあったのが最大の特徴で、街の風景は雑然とした交通博物館のかいわいとまったく異なっていました。背広を着た大人が行きかうオフィス街の博物館を訪問することは、子どもにとって新鮮であり、同時に少し緊張するものでした。

逓信総合博物館パンフレット。電気通信科学館は隣接するビルにあった電電公社の施設で、両館は一緒に見学するのがお約束だった(画像:広岡祐)

 大手町2丁目の再開発にともない、逓信総合博物館は2013年8月に閉館、跡地には30階をこえる超高層ビルが2棟並んでいます。郵政関係の展示物は、東京スカイツリータウンにオープンした郵政博物館(墨田区押上)に引き継がれました。

東京湾・埋め立て地の大変貌

●船の科学館
 日本船舶振興会(現・日本財団)によって、1974(昭和49)年に誕生した海事博物館。船の構造や歴史、世界の海運など、海に関するさまざまな展示があり、豪華客船を模した建物のデザインは、建設当初より大きな話題をよびました。

海上から見た船の科学館。見事になにもない周囲の風景に注目。1976年撮影(画像:広岡祐)



 船の科学館(品川区東八潮)とその周辺は、東京臨海副都心開発の前後ではまったく雰囲気が異なるのが興味深いところ。

 1980年中盤までの子どもたちは、地下鉄東西線・門前仲町駅から都営バスで、有明13号地とよばれた荒涼とした埋め立て地を延々と走って科学館を目指しました。展望台の望遠鏡から見えるのは、大行列をつくるゴミ収集車ばかり。

 13号地はのちに品川区に編入され、1990年代のなかばにゆりかもめが開通すると、レインボーブリッジを経由して新橋駅から訪問できるようになりました。行楽地「お台場」の誕生です。ホテルやテレビ局などさまざまな施設が完成し、周囲の風景は一変しました。

現在は屋外展示場と「宗谷」の公開のみ

 残念ながら、施設の老朽化によって船の科学館は2011年10月に本館展示を休止、現在は屋外展示場での展示と、南極観測船・宗谷の公開のみとなっています。

1階、機関室を模したフロアに展示された巨大なディーゼルエンジン。実物であり、博物館建設の際に搬入された(画像:広岡祐)

 入場はできませんが、白く大きな客船の姿は、建設から半世紀近くたった現在も変わらず目にすることができます。

 昭和から平成にかけて、子どもたちの人気をあつめたなつかしい博物館。みなさんも思い出はありませんか?


【画像】かつての少年少女は思わず涙? 1960年代「交通博物館」の記念絵はがきと、1977年「船の科学館」のパンフレットを見る

画像ギャラリー

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