今や定番 日本人はいつから自動販売機で「お茶」を買うようになったのか

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今や定番 日本人はいつから自動販売機で「お茶」を買うようになったのか

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昼間たかし

ルポライター、著作家

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今や自動販売機になくてはならない存在となった、お茶飲料。それらはどのようにして広まっていったのか、その背景についてルポライターの昼間たかしさんが解説します。

「買って飲むなんて」から変化

 自動販売機やコンビニの定番商品として、多くのラインアップがあるお茶飲料。緑茶やウーロン茶、紅茶、麦茶、健康茶など、今では数多くの商品が店頭に並んでいます。

自動販売機でお茶飲料を買うイメージ(画像:写真AC)



 しかしそうした商品が出始めた当初、

「お茶を買って飲むなんて……」
「自分で沸かせばいいのに」

と、ためらっていた人も多いのではないでしょうか。

 お茶や水を自動販売機で買う――その始まりは、ウーロン茶からでした。

 日本でウーロン茶の専門店が見られるようになったのは大正時代で、長らくの間、粋人独特の茶器を使って楽しむものでした。

 やがて1970年代になり、アイドルデュオ「ピンク・レディー」が飲んでいるとして、ウーロン茶は美容や健康に効果があるお茶として話題になります。

 これを受けて、各飲料メーカーは缶入りウーロン茶の開発を始めます。1981(昭和56)年2月に、伊藤園(渋谷区本町)が世界初の缶入りウーロン茶を発売。続いて12月に、サントリー(現・サントリー食品インターナショナル。中央区京橋)も参入します。

世間の逆風を勝機とした飲料メーカー

 しかし、すぐに売れたわけではありませんでした。

 実はウーロン茶より早く、缶入り紅茶が1974(昭和49)年から発売されていたのですが、人気を得ることはできませんでした。冒頭に述べたように、「お茶は自分で入れて飲むもの」という意識が根強かったからです。

 会社では給湯室に巨大なヤカンが置かれていて、会議のときにそれでお茶を注ぐというのが定番の風景でした。ところが飲料メーカー各社はお茶に勝機を感じ、次々と商品を開発していきます。

自動販売機でお茶飲料を買うイメージ(画像:写真AC)

 1983年にはポッカコーポレーション(現・ポッカサッポロフード&ビバレッジ。名古屋市)が、缶入りの玉露とほうじ茶を市場に投入しています。

缶入りウーロン茶が人気を得た理由

 こうして市場で存在感を増していった缶入りのお茶飲料が急成長したのは、1986(昭和61)年頃からです。

 缶入りウーロン茶(当時は250cc)は、1982年に出荷数40万ケース(1ケース30本入り)だったものが、1985年には1450万ケース、1986年には2300万ケース、1987年にはついに3000万ケースに達します。

 1988年の時点で、ウーロン茶は約200社が参入する市場にまで成長していました(『朝日新聞』1988年8月18日付朝刊)。

 1988年の夏は天候不順で清涼飲料の売り上げは伸び悩んでいましたが、お茶飲料の売り上げだけは前年度比20~30%増でした。

1981年発売のロングセラーブランド「サントリー烏龍茶」(画像:サントリー食品インターナショナル)



 家庭でも手軽に入れられるはずなのに、缶入りウーロン茶が人気を得た理由――それは、イメージの変化と技術開発によるものでした。

 各メーカーは、自宅で入れるウーロン茶と遜色のない味を追求。結果として、ウーロン茶は無糖で健康にも最適という情報が広く知られるようになりました。

 またウーロンハイのような、新たなお酒の楽しみ方が普及したことも人気上昇の要素と言えます。

ウーロン茶に続いた紅茶

 ウーロン茶に続いて市場を席巻するようになったのが、紅茶です。

 こちらは、各社が若者層を意識したイメージ戦略で普及を加速させました。具体的には、商品名を一度聞いたら忘れられないインパクトのあるものにしたのです。「ジャワティー・ストレート(大塚製薬)」「午後の紅茶(キリンビール)」などは、その成功例です。

さまざまなバリエーションのある「午後の紅茶」(画像:キリンビバレッジ)

 さらに各社はストレート・レモン・ミルクの3種類を基本の味とし、差別化を図るために、茶葉の質にこだわったことも見逃せません。

 ウーロン茶も紅茶も、家で自分で入れて飲むものとは「ひと味違う」ということを知らしめ、定番として定着させたというわけです。

最後に人気となった緑茶

 ここでちょっと後れを取っていたのが、緑茶です。

 1980年代半ば以降、缶からペットボトルに容器が変わっていく中で、緑茶も販売されていましたが、メジャーではありませんでした。緑茶は日本人にとってもっとも定番な飲み物です。そのため、味に厳しかったのです。

現在、ポッカサッポロフード&ビバレッジが販売する「玉露入りお茶(275ml)」(画像:ポッカサッポロフード&ビバレッジ)



「宵越しの茶は飲むな」という言い伝えがあります。これは、一晩置いたお茶が身体に悪いから飲んではいけないという意味です。

 実際に一晩置いたお茶は渋みの成分であるタンニンが酸化するため、とてもまずくなります。そのため、自動販売機やコンビニで売られているお茶がおいしいはずはないと思っている人が多かったのです。

 しかし、酸化を防ぐための窒素充填(じゅうてん)などの技術開発で、味は瞬く間に向上していきます。使う茶葉も、香りや味が深いものが選ばれました。

冷たくておいしい製品の登場

 もっとも各メーカーが力を注いだのは、冷たくてもおいしくすることです。

 この頃は、まだ夏でも熱いお茶が当たり前でした。むしろ「夏は熱いお茶のほうがいい」と、冷たい飲み物を戒める風潮も強かったのですが、この常識を覆すような冷たくておいしい緑茶飲料が登場したことで市場は変わりました。

 1989(平成元)年に6万8400klだった日本茶の販売量は、1990年に12万1600klと倍増します(『読売新聞』1991年6月30日付朝刊)。

 同時期にコンビニで弁当を買う人が増えたことで、「ご飯のときにお茶を飲みたい」という需要をも満たしたことが成功の要因だったともいえます。

お弁当と一緒にお茶飲料を飲む会社員のイメージ(画像:写真AC)

 お金を出してお茶を買わないという常識が消滅した――そんなことをかつて誰が予想していたでしょうか。

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