誰もが想像する「東京っぽいエリア」ってどこ? 大人気ドラマ「恋つづ」ロケ地から考える

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誰もが想像する「東京っぽいエリア」ってどこ? 大人気ドラマ「恋つづ」ロケ地から考える

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増淵敏之

法政大学大学院政策創造研究科教授

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2020年1~3月に放送され大ヒットを飛ばしたTBSテレビ系ドラマ「恋はつづくよどこまでも」。上京してきた主人公の女性が奮闘する舞台として描かれたのが「東京」です。それにしても、いわゆる「東京イメージ」とはどこからどこまでを指しているのでしょうか。法政大学大学院教授の増淵敏之さんとともに考えてみましょう。

上京した主人公・七瀬と「東京イメージ」

 2020年3月に終了した、テレビドラマ「恋はつづくよどこまでも」(TBS系)の余韻がいまだに残っているようです。

 後番組の予定だった「私の家政夫ナギサさん」が新型コロナウイルス感染拡大の影響で放送延期になったため、4月14、21日に「恋はつづくよどこまでも胸キュン! ダイジェスト」が放送されたこともファンにはうれしい出来事だったかもしれません。

 このテレビドラマは番組終了後にもSNS上での話題が絶えず、TwitterやInstagramでも盛り上がりを見せ、「恋つづロス」という言葉も生まれました。

 番組はTBS系「火曜ドラマ」枠で2020年1月14日から3月17日まで放送。立ち上がりこそ視聴率も10%を割っていましたが、回を重ねるごとに右肩上がりとなり、最終回は15%を超えました。

 動画配信サービス「Paravi」ではTBS史上最高となる368万回再生を記録し、第7話の時点でそれまでの記録を持っていた「逃げるは恥だが役に立つ」を抜いたといいます。

2020年1月~3月に放送されたドラマ「恋はつづくよどこまでも」(画像:(C)円城寺マキ・小学館/TBSスパークル・TBS)



 さて、物語は円城寺マキの同名マンガが原作でした。佐藤健演じるドSな男性医師・天堂浬(てんどう かいり)の態度に憤慨しながらも、恋と仕事に対して懸命に食らいついていく上白石萌音演じる女性看護師・佐倉七瀬の姿を描くラブストーリーでした。

「バックハグ」「壁ドン」「頭ポンポン」などの作中のシーンも話題になり、「胸キュン」という言葉がSNSで飛び交うほど、このドラマは多くの人々の心をわしづかみにしたようです。

 ドラマの舞台は東京ですが、ロケ地を調べてみると意外に広範囲にわたっていることが分かります。

ふたりが初めて出会った台東区の路上

 核になるのは2か所です。まず主人公たちの住むマンションは台東区浅草5丁目の建物が使われており、ふたりが初めて出会った場所も近隣の同区今戸2丁目の路上です。七瀬が良縁を祈願するのも今戸神社(今戸1)。つまり、浅草周辺が多くロケ地に選ばれているのです。

 最終回でふたりが再開するのも今戸1丁目の山谷堀公園です。そしてふたりが勤務する日浦総合病院は町田市民病院(町田市旭町)の建物が使われており、いくつかのシーンは町田で撮影されているようです。

 そのほかにもロケ地として、さいたま、千葉、川崎、厚木、綾瀬、越谷などの郊外が使われています。

山谷堀公園とその位置(画像:(C)Google)



 しかし七瀬が地方出身者という点から考えても、「恋つづ」は紛れもなく東京の物語と言えるでしょう。

「東京」とは23区? それとも都下も含む?

 ところで人々は、東京の「範囲」をどこからどこまでのものとして一般的にイメージしているでしょうか。

 まず東京には、

・東京都区部(東京23区)
・都下

というふたつの区分があります。これらを足して、東京都という行政区があるのです。

 上記の区分でいうと、前出の町田は都下です。東京都という行政区の範囲では、町田は紛れもなく東京です。ただ東京都区部はそれぞれが独立した自治体であり、東京都区部の「総体としての自治体」は存在しません。

 さらに東京都という行政区で考えると、奥多摩や伊豆七島から小笠原諸島までそのカテゴリーに入ります。さすがにそうしたエリアまで「東京イメージ」の範囲内に収めるのには無理があるのではないでしょうか。

 つまり、一般的な東京イメージは「大都会」であり、場合によっては「首都」でもあります。

 しかしこれもまた不思議なことに、実は日本の首都を直接定める現行法令は存在しないのです。

「首都」を明確化する法令はない

 これまでの関連法、例えば1950(昭和25)年に制定された「首都建設法」では、東京都を首都と解していたのですが、同法は1956年に廃止されており、それ以降は明確化されてはいません。

 あくまで慣習、慣例として東京は首都と捉えられているだけなのです。これも東京イメージのなせる所産と言えます。

 以上、東京をイメージする範囲をまとめると、以下のようになります。

・イメージとしての東京
・行政区分としての東京都
・「恋つづ」にも見られた、さいたま、千葉、川崎、厚木、綾瀬、越谷などを含む1都3県の東京圏
・首都圏

 しかし、前述の「首都建設法」の廃止に伴い制定された「首都圏整備法」によると、首都圏は茨城、栃木、群馬、山梨、埼玉、千葉、東京、神奈川の1都7県を指すので、それでは広すぎるかと思います。

 ただ東京都知事本局が作成した『首都圏における広域的課題の現状』では、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県の1都3県の範囲を首都圏と呼んでいます。この辺りもそれぞれの立場から見たものなので、曖昧模糊(もこ)としています。

「東京」と聞いてイメージする範囲は、一体どこからどこまでか(画像:(C)Google)



 ちなみに2020年3月26日(日)に東京都内での新型コロナウイルス感染者の急増を受け、東京都は神奈川、埼玉、千葉などの各県に対し、県民に不変不急の外出を自粛してもらうよう呼びかけました。しかしこれらの1都3県は、行政区域が東京都区部を中心とする東京都市圏に含まれており、通勤、通学での往来が日常的な範囲を指します。

 この範囲の人口は3000万人を超えており、ひとつの都市の総体として捉えてもいいかもしれません。

1都3県をまとめて「東京圏」とも呼ぶ

 国土交通省が作成している「首都圏整備に関する年次報告」では、1都3県を東京圏と定義しています。これら1都3県は人口密集による特有の問題や政策課題を持っていることから、行政においてこれら課題に対する共通の取り組みが行われることが多いのです。

 また、JRの新幹線の乗車券に見られる「東京都区内」はJRの特別な運賃体系である「特定都区市内」の東京版ですが、常磐線だと金町駅、埼京線だと浮間舟渡駅、中央線だと西荻窪駅、京浜東北線だと蒲田駅、京葉線だと葛西臨海公園駅、総武快速線だと小岩駅までの範囲が「東京都区内」になるそうです。さすがにこの範囲だと少々、狭いかもしれません。

 東京をイメージする範囲に関して、上記のようにこれといった結論はなかなか出しにくいのですが、筆者(増淵敏之。法政大学大学院教授)としては、現実的に「東京都区部とその郊外」といったところで収めるのが無難なように思います。大都会である東京都区部とその周辺といったイメージです。

ドラマの主要な舞台となった浅草周辺も、東京を代表する有名エリアのひとつ(画像:写真AC)



 ただおそらくそれぞれの居住地によっても捉え方が異なるでしょうし、どのような情報網を持っているか、どのようなコンテンツ作品に触れ合ってきたのか、によっても異なります。

 前述したように、「恋つづ」で描かれる東京は広範囲にわたっています。それを「ひとつの東京」と捉えるかどうか、視聴者それぞれの判断に委ねられているのです。

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