遠出自粛の今、街自体の魅力こそ価値
新型コロナウイルス感染拡大による「緊急事態宣言」が発令され、外出もままならない毎日が続いています。遠出はできないからと近場の公園やスーパーをのぞいてみると、妙に混雑していて近寄りづらい。とはいえ、ずーっと家の中にいるのはストレスがたまる一方です。
運動不足にならないように、ジョギングや散歩などは推奨されています。それならば軽い運動を兼ねて、自分の足で住んでいる街を再発見する「小さな小さな旅」に出てみるのはいかがでしょうか。
時間がたっぷりあった子ども時代、自分の家の周囲は格好の冒険場所でした。徒歩で、三輪車で、自転車で、自分の家を中心に周囲のさまざまな裏道を探検して、お気に入りの場所をいくつも見つけ出したあの時代。そんな当時を思い出してご近所探検をして、今まで知らなかった街の魅力を見つけましょう。
僕(冨田格。ライター、編集者)はこの十数年、三鷹市に住んでいます。十数年といっても、仕事が忙しいとなかなか市内を巡る機会などないもので、知っているのは市内のごくごく一部だけです。今回はそんな、わが街・三鷹を探検する「小さな小さな旅」に出てみました。
三鷹と吉祥寺の微妙な関係
JR中央線で隣り合っているのが三鷹駅と吉祥寺駅です。吉祥寺といえば「住みたい街ランキング」で上位に入るのが当たり前という人気ぶり。ちなみに不動産・住宅サイトSUUMO(スーモ)発表の「関東・住みたい街(駅)ランキング2020」では、吉祥寺が3位。対して三鷹は33位と大きく引き離されています。
三鷹駅は三鷹市ですが、吉祥寺駅は武蔵野市です。実は、ふたつの市の位置関係がよく分かっていなかったので、まずはGoogleマップで確認してみました。イメージでは隣接、つまり横並びに隣り合っていると思っていましたが、実は三鷹市と武蔵野市は上下(南北)の関係にあったのです。
中央線を挟むような形で武蔵野市の下(南側)に三鷹市が位置しています。そのため、吉祥寺駅から南下すると、すぐに三鷹市に入ります。吉祥寺というと「井の頭恩賜公園」(武蔵野市御殿山)を思い浮かべる人も多いでしょうが、実は公園の大半は三鷹市に属しているのです。スワンボートで有名な池も、住所は三鷹市です。
井の頭恩賜公園からさらに南下していくと、かつて工場や企業の福利厚生施設のグラウンドだった場所が現在の宅地になった土地が多く、大小さまざまなマンションが立ち並んでいます。このエリアは三鷹市なのですが、マンションの名称は「吉祥寺」とついたものが目立ちます。
やはり有名な町の名前を付けたい?
吉祥寺駅から徒歩30分程度、東八道路くらいまでのマンションの大半は「◯○吉祥寺」「吉祥寺◯◯」という名称ばかり。
「ここって三鷹市だよね?」と、三鷹市民としては一瞬思いました。しかし、このエリアから至近のJRの駅は吉祥寺駅です。吉祥寺は「住みたい街ランキング」の上位常連ですから、三鷹市でありながら「吉祥寺」と名付けたくなる気持ちも分かります。
逆に三鷹駅の場合は、北口を出るとそこはもう武蔵野市です。このエリアには松屋やモンテローザの本社があることから、北口ロータリー周辺は、特に繁華街という感じでもないのに、ほかのエリアではあまり見かけないマイナーな店も含めて両社関連の店舗がズラリと並び、独特の雰囲気が形成されています。
住んでいる街の魅力を探る「旅」の第1歩は、地図で住んでいる区や市のエリアを確認するところから始めると、面白い発見がありそうです。
自然と親しめる場所がたくさん
JR中央線の青梅特快に乗れば、新宿から約14分という近さの三鷹駅。交通至便でありながら自然に親しめる場所も少なくないのがこの街の特色です。
整備された公園といえば、まずは前述の「井の頭恩賜公園」。園内は広大であるだけでなく、植林されたさまざまな樹木や生物について学べる工夫がなされています。青空や緑を眺めながら散策するだけでもリラックスできるものですが、時間をかけて園内随所に設置されているガイドを読みながら自然の仕組みを学んでいく、という体験は新しい発見につながりそうです。
杏林大学病院近くの仙川公園(三鷹市新川)から、新川丸池公園、新川天神山青少年広場、調布市との境である三鷹市東部水再生センターにかけて流れる「仙川」は自然を残す形で整備されており、数種のサギやカモ、コイなどを見ることができます。仙川公園から続く川沿いの遊歩道を、バードウオッチングしながらのんびりと散策するのも楽しいものです。
市の中心部から少し離れると、かなり減ってきているとはいえ畑もけっこう見かけます。コインロッカー形式の無人直営所が併設されていて、朝採れ野菜を購入できる場所も少なくありません。人と接触しない無人直営所は、新型コロナの感染拡大を防ぐ「ソーシャルディスタンス(社会的距離)」を意識せざるを得ないご時勢にもマッチしていますね。
変わりゆく街の形を想像して
バードウオッチングが楽しめるのどかな遊歩道が続く仙川の近くでは、三鷹の町を大きく変貌させる大工事が着々と進んでいます。それが、中央自動車道の中央ジャンクション(仮称)新設工事です。
2012年に着工された、中央自動車道と東京外かく環状道路を結ぶこの中央ジャンクション、当初は2020年開通予定でした。しかし、東京外環道が大深度工事となる部分が多いため工事には想定以上の時間を要しており、2020年5月時点で開通予定時期は未定となっています。
中央ジャンクションに合わせて、東八道路インターチェンジも新設される予定とのこと。高井戸ないしは調布インターチェンジを利用せざるをえなかった三鷹エリアの住人にとって、かなり便利になることは確実です。例えば羽田空港へ行くまでの所要時間も大幅に短縮されるでしょう。
完成まではまだまだ時間がかかりそうですが、ジャンクションの外観は着実に工事が進んでいます。ジャンクションやインターチェンジが作られていく過程を見る機会は、人生で何度もあるものではありません。インターチェンジの完成に合わせて道路の整備計画も発表されています。整備されて変わっていく街並みを想像しながら、巨大なジャンクションが作られていく様子を眺めるのは、まさに今しかできない楽しみです。
ほかにも、今は見学できませんがコロナ禍が収束したら訪ねてみたい国立天文台の三鷹キャンパス(三鷹市大沢)があったり、また調布市との調布側の市境には宇宙航空研究開発機構(JAXA)の調布航空宇宙センター(調布市深大寺東町)があったりと、宇宙に縁の深い街ということを発見しました。都内初の公団団地(牟礼団地)ができたのは、実は三鷹だったということも知りました。
今こそ自分の街を再発見する好機
また駅周辺などのにぎやかな場所ではなく、住宅街に点在しているおいしいパン屋さん巡りも楽しめそうです。
「星のホール」「風のホール」というふたつのホールを持つ三鷹芸術文化センター(三鷹市上連雀)は、クラシック・演劇・落語や講談などの古典芸能の公演が頻繁に行われているのだということに、初めて気付きました。三鷹という地名は、代々徳川家のタカ狩りが行われる御鷹場だったことに関係があると知り、街の歴史に興味が湧いてきました。
いつもは通らない道、ルートで家の近くを回ってみると、今まで意識したことがなかった発見が必ずあります。そんな発見が重なっていくと、住んでいる街をますます好きになっていくはずです。
どこかに遊びに行きづらい今の時期は、自分の住んでいる街の魅力を探る「小さな小さな旅」に出てみませんか? とはいえ「3密」状態になることを避けることが必須ですから、なるべく少人数で、かつ人が少ない朝早めの時間に散歩やジョギングを兼ねて、というのがお勧めです。