「よろしく」はNG! 職場の外国人への「指示」方法とは
4月1日の「改正入管法」施行を受け、外国人労働者の増加が見込まれる日本。そのような状況下で、求められるのは彼らとの円滑なコミュニケーションです。いったいどういったことに気を付ければいいのでしょうか。「よろしくね」「できれば」「なるべく」は要注意 オフィスに限らず、日本語を用いた一般的なコミュニケーションで問題を引き起こすケースとして、相手が日本人であれ外国人であれ、日本語の「文脈依存度」の高さに由来する事例が多く見受けられます。 外国人スタッフとのコミュニケーション能力はより求められる時代に(画像:写真AC) これは、日本人があまり意識していない日本語の特徴で、一般に日本語の「ハイコンテクスト」性と言われています。 「ハイコンテクスト」とは、コミュニケーションを図る際に、前提となる文脈(言語や価値観、考え方など)が非常に近い状態のことを指します。互いに相手の意図を察し合うことで、「以心伝心」でなんとなく通じてしまう環境や状況のことです。 例えば、 「今日3時にアメリカ人が来るから、よろしくね」 と、みなさんが上司から指示をされたとします。 この日本語は、文法的に何も問題がなく、完璧です。しかし、指示の際に「よろしく」で短くまとめるのはかなりリスキーです。 なぜなら、そこに含まれている「意味」について、発信している上司はもちろん分かっているものの、受信する側には「アメリカ人を社外まで迎えに行く」「社内のエントランスでアメリカ人の出迎えをする」「アメリカ人との会議に、通訳として同席する」など、複数の意味が示されているため、具体的にどんな指示なのか、全く伝わっていない可能性があるからです。 このように、そもそも日本語は相手の理解や話の流れに依存する傾向が強い(文脈依存度が高い)言語なので、まずはこのことを発信する側が知っておく必要があるでしょう。 「よろしく」と同様に、「できれば」「なるべく」なども、相手によって意味の取り方が大きく変わる表現ですから、特に指示の場面で用いる際には要注意です。 外国人との日本語コミュニケーションに必要な3つのスキル では、コミュニケーションの齟齬(そご)を防ぐために、具体的にどのようなことに気を付けたらよいのでしょうか。必要となるのは、以下のようなスキルです。 (1)指示は具体的に、また背景や目的をセットで伝える 例:この資料、明日の会議で使うので、今日の夜6時までに翻訳して、メールで私に送ってください。 (2)依頼は配慮表現を避けつつ、相手に考えてもらう余地を残す 例:うちの会社、来月この外国人採用イベントに自社ブースを出して、エンジニアを2名採用したいんだけど、◯◯さん、このイベントの規模と予算について、どう思いますか? (3)会話中、相手が日本語を理解できたかどうか確認するときは「わかりましたか?」ではなく、伝えた内容そのものを、形を変えて質問することで、相手の理解度を確認する 例: 日本人(上司)「明日は展示会の会場に直行してください。現地で田中さんと会ってください。15時になったら、私に電話してください」 外国人(部下)「はい、わかりました」 日本人(上司)「明日、何をしますか?今、私に説明してください」 ポイントはコミュニケーションの「再現性」ポイントはコミュニケーションの「再現性」 私が代表を務める内定ブリッジ株式会社では、このようなことを学ぶ場として、外国人採用を進める全国の企業や、大学などの留学生教育機関の教職員向けに「日本人のための日本語研修」を提供しています。 実際に受講した方からは「今日示された日本語と全く同じ表現を、無意識に日本人の部下に言って、キョトンとされたことがある。これは国籍に関係なく、日本語の問題なのだと初めて知ることができた」「社内スタッフの日本語に違和感があったが、今その理由が生まれて初めてわかった」といった感想をいただくことがよくあります。 外国人スタッフに日本語を教えるだけでは不十分(画像:写真AC) 外国人スタッフとのコミュニケーションや、外国人スタッフのマネジメントおよび定着には、外国人に日本語を教えるだけでは不十分で、彼らを受け入れる日本人側が、再現性のあるコミュニケーションについて自覚し、そのスキルを高めることが必要です。 これは日本語のスキルなので、日本人同士のコミュニケーションでも全く同じことがいえます。 場所を問わず、日本語を用いた日々のコミュニケーションで実際に起きている問題を解決するためには、国籍を問わず、情報の発信側と受信側がお互いに日本語の構造や特徴をさらに深く理解した上で、円滑なコミュニケーションのために歩み寄れるかどうかがカギになるでしょう。 淺海一郎(内定ブリッジ株式会社代表、日本語教師)
- ライフ