消えゆく東京の「昭和団地」 避けられぬ老朽化、練馬・石神井公園でも解体作業が始まる
住民たちの「団地お別れイベント」 2020年10月27日(火)、練馬区上石神井の石神井公園団地で「団地お別れイベント」が開催されました。 今回のセレモニーは昨今の新型コロナウイルスの感染拡大に配慮して、少人数でささやかに挙行されることになりました。しかし、テレビ会議システムZoomを使って、その様子はオンラインで生中継されています。 「団地お別れイベント」では、管理組合の岡崎登理事長や、マンション建替組合の黒河内剛理事長もステージに登壇。長らく団地住民として過ごしてきたふたりのトークセッションが行われました。 岡崎理事長も黒河内理事長も団地が完工した1967(昭和42)年に入居し、2020年まで居住していました。両理事長は、石神井公園団地の生き字引ともいえる存在です。 それだけに募る思いはたくさんあり、短いトークセッションの時間でこれまでの団地ライフを語り尽くすことはできるはずもありませんが、力強く「3年後に戻ってきます」と宣言しています。 また、会場に設置された大型モニターには、録画収録された居住者の思い出話も流れました。 半世紀以上の歴史を持つ石神井公園団地。大型の重機によって住棟や給水塔などの解体が進められている(画像:小川裕夫) 今回、お別れイベントを実施した石神井公園団地は、九つの住棟が配置されています。 その中心部には給水塔が立っていました。つつがなくセレモニーが進行した後、団地のシンボルでもあった給水塔を重機で解体する様子も披露されています。 生粋の団地っ子を生んだ「石神井愛」生粋の団地っ子を生んだ「石神井愛」 石神井公園の南側に立つ同団地は、西武鉄道池袋線の石神井公園駅から徒歩25分、新宿線の上石神井駅から徒歩12分の距離にあります。 自然が豊かな地に立つ同団地は、敷地面積が約5.3haで、敷地内には5階建ての住棟が九つ。総戸数は490で、当時としては比較的に小規模な団地です。 石神井公園団地は日本住宅公団(現・UR都市機構)が手がけた団地ですが、それまで住宅公団が手がけてきた団地から脱却し、新たな取り組みが試行されています。 これまで住宅公団は、標準住棟を並行配置して団地をつくってきました。他方、石神井公園団地では雁行(がんこう)型と呼ばれる、住棟をジグザグに配置する手法が採用されています。 雁行型と呼ばれる住棟配置が特徴的だった石神井公園団地(画像:小川裕夫) 雁行型の石神井公園団地は、計画案A案からR案まで18案も作成されるなど、入念に準備が進められました。 また、当時の石神井公園一帯は、下水道が未整備でした。そのため、石神井公園団地は団地独自の下水処理施設を設け、そこで下水を処理していました。下水道が整備された現在、石神井公園団地の下水処理施設は公園へと姿を変え、団地外の住民にも広く利用されています。 住宅公団が英知を結集して新しい住棟・団地をつくろうとしただけあり、石神井公園団地の応募倍率は平均12.7倍にも及びました。 また、団地で育ち、大人になってから石神井公園団地の別の部屋へと入居する、生粋(きっすい)の石神井公園団地っ子もいたほどです。それほど、石神井公園団地は住民から愛されていました。 団地住民のコミュニティーは濃く、35年も続けられた夏祭りは毎年盛況を博しました。 エレベーター未設置、高齢化に打撃エレベーター未設置、高齢化に打撃 石神井川沿いの都市計画緑地に、団地住民によってサクラやニセアカシア、ヒマラヤなどが植樹されています。 これらは住民によって管理がされ、管理が行き届いた草花は団地のみならず地域住民を和ませることにも効果を発揮しています。 しかし、どんなに住民から愛されている建物でも老朽化は避けられません。 集合住宅は定期的に大規模修繕をして、雨漏りや排水管の破損などを補修しています。そうした改修を施しても、エレベーターの未設置、階段や通路が狭いといった、建物を根本的に改造しなければ解決できない問題もあります。 団地住民の高齢化により、エレベーターの未設置は深刻な問題でした。また、階段・通路が狭いことで救急搬送用のストレッチャーが通れないことも課題になっていました。 そうした背景もあって、団地住民は建て替えを選択したのです。 建て替えにより高まる利便性 建て替えによって、戸数は490から844戸に増える予定です。これまで団地に住んでいた住民は、権利交換によって引き続き新しいマンションに住む予定の人が大半で、301戸がこれまでの団地住民用として決まっています。 新しく建て替わるマンションも、これまでの団地と同様に全戸南向きになる予定です。住棟は5階建てから最大で8階建てへと高層化されます。 部屋の広さは、これまでが52~60平方メートル。新しいマンションは60~70平方メートルの3LDKが中心になります。 石神井公園団地内に、商店や飲食店はありませんでした。新たに建設されるマンションでは、ミニスーパーを誘致することも検討されています。 消えゆく高度経済成長期の集合住宅消えゆく高度経済成長期の集合住宅 高度経済成長期、東京は住宅難に陥り、数多くの集合住宅が建設されました。 都営・区営・市営・公団住宅……など建設・運営主体は異なりますが、それらの団地が都民を支え、東京発展の原動力にもなってきたのです。 そうした昭和の雰囲気を今でも残していた団地は、平成の30年を経て、その役目に幕が降ろされようとしています。懐かしさを感じさせる団地は、今後も東京から次々と姿を消していくでしょう。 石神井公園団地は、3年後にマンションへと新しく生まれ変わる予定です。
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