東京の北区・中央区が大阪都構想に「待った」をかけた本当の意味

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東京の北区・中央区が大阪都構想に「待った」をかけた本当の意味

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小川裕夫

フリーランスライター

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大阪都構想で大阪市を四つの特別区にする府・市の方針に対して、東京の中央区と北区が異例の要請です。問題は、重複することになる「区の名称」。東京の2区がそこまで区名にこだわる理由は何なのでしょうか?

「同じ区名を使わないで」

 2020年1月1日(水)時点で、全国に「〇〇市」を名乗る自治体は772あります。そのうち、道府県とほぼ同等の権限を有する政令指定都市は20市です。

 平成の市町村合併時、合併した市に限って政令指定都市へ昇格するための人口要件が70万人程度まで緩和。それを受けて、政令指定都市は一気に増加しました。

 一方、政令指定都市の大阪市は、政令指定都市をやめて市を四つの特別区に再編することを表明。新たに設置する特別区の区名は「北区」「中央区」「淀川区」「天王寺区」とされています。

東京都中央区の名所、銀座4丁目交差点(画像:写真AC)



 このうち北区と中央区は、東京23区と同じ区名です。重複する区名になるため、大阪府・市は東京都北区・中央区に文書で同じ区名になる可能性があることを通知しました。通知を受け取った東京の北区・中央区は、「同じ区名を使わないでほしい」と返答しています。

 東京都北区・中央区が「同じ区名を使わないでほしい」と拒否しても、強制力はありません。あくまで区名の決定権は、大阪側にあります。

 しかし、なぜ東京23区の北区・中央区が大阪に対して同じ区名にしないように要請しているのでしょうか? また、なぜ大阪側は東京都の北区・中央区に配慮して同じ区名になることを通知しているのでしょうか?

特別区と行政区では、全く別物?

「北区」という区名は、東京のほかにも札幌市・さいたま市・新潟市・浜松市・名古屋市・京都市・堺市・神戸市・岡山市・熊本市などに存在しています。「中央区」も札幌市・さいたま市・千葉市・相模原市・新潟市・神戸市・福岡市・熊本市に存在しています。

 そこから考えても、同じ区名でも問題がないように思えます。しかし、これらの政令指定都市にある北区・中央区と、東京都の北区と中央区はまったくの別物なのです。

東京都北区が誇る、赤羽駅前の「1番街」(画像:(C)Google)



 東京に23ある区は特別区と呼ばれますが、横浜市や名古屋市、福岡市といった政令指定都市に設置される区は行政区と呼ばれます。

 特別区と行政区は名前が異なるだけではありません。特別区と行政区の大きな違いは、何よりも特別区が独立した自治体であることです。

 独立した自治体であるため、特別区の区長は市町村長と同様に選挙によって選ばれます。また、市町村議会と同様に、区議会が設置されて区議選も実施されます。

 町村は同じ名前がいくつもあります。しかし、市の名称は同名を避けるという通知が旧自治省から出されたことがありました。そうした経緯から、できるだけ同名市にならないように配慮が図られてきたのです。

同名の市は、全国で2例だけ

 全国に772ある市のうち、同名市は東京都と広島県に所在する府中市、北海道と福島県に所在する伊達市の2例しかありません。

 府中市の場合、市制施行日が同じだったことから、どちらが先でどちらが後だったのかを判別できません。そうした事情が考慮されて、ふたつの府中市が認められたのです。

 伊達市の場合、2006年に福島県伊達郡の5町が合併して伊達市になりました。その際、福島県伊達市は先に名乗っていた北海道伊達市から了解を取り付けています。伊達市の場合は互いの関係が良好だったこともあって、特に同名市によるハレーションは起きませんでした。

東京都と広島県にある、ふたつの「府中市」の位置(画像:(C)Google)



 しかし時には、先に名乗っていた自治体から「その市名を使わないでほしい」と拒絶されることがあります。

 沖縄県の宮古島市は宮古市になろうとしましたが、岩手県宮古市から理解を得られずに断念。宮古“島”市として市制を施行しました。同じく愛知県みよし市も徳島県三好市から理解を得られずに断念。市名をひらがなにすることで落着しています。

 歴史をひもとけば、東京都の北区も王子区と滝野川区が合併して北区に、中央区も日本橋区と京橋区が合併して中央区に改称した過去があります。

産業や観光に影響を及ぼすことも

 今回、新たに持ち上がった東京都の北区・中央区と大阪の北区・中央区の同名問題は、市ではなく特別区の名称です。そのため、市とは異なる問題であり、市と同様に論じることはできないという見方もあります。

 単なる区名なのだから、そんなにもめなくてもいいのでは? と思われる人もいるでしょう。しかし、自治体の名称は愛郷心といった個人のアイデンティティーの問題だけにとどまりません。産業・観光といった経済にも大きな影響を及ぼします。

 平成の市町村合併では、合併後の新市名をどういった名前にするかで議論が紛糾し、納得できない自治体が合併を破談にするケースが相次ぎました。

紆余(うよ)曲折を経て市の名称を変更することになった経緯を伝える丹波篠山市のホームページ(画像:丹波篠山市のホームページ)



 また、合併後の新市名を再考して、再改称した兵庫県篠山市のようなケースもあります。

 丹波の黒豆などで有名な兵庫県丹波篠山市は、合併協議で新しい市名に「篠山市」を選びました。しかし、その後に隣接する氷上郡6町が合併して新たに丹波市が誕生。これにより、篠山市の特産品だった丹波の黒豆などが丹波市産と誤認される事態が発生。産業のみならず観光にも影響が出かねないとして、篠山市はブランドイメージを守る目的から2019年に丹波篠山市へと再改称したのです。

 こうしたケースからも、自治体名は決しておろそかにはできません。まだ大阪が四つの特別区になるかどうかも決まっていないため、当面は東京側・大阪側ともにアクションはないと思われます。果たして、大阪の北区・中央区問題はどのような決着を見るのでしょうか?

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