今さら聞けない? 都内中心に拡大、未来の小売業「体験型店舗」とは

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今さら聞けない? 都内中心に拡大、未来の小売業「体験型店舗」とは

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中村圭

文殊リサーチワークス・リサーチャー&プランナー

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リアルに商品を試せる機能を強化した店舗「体験型店舗」が現在、注目を浴びています。いったいなぜでしょうか。文殊リサーチワークス・リサーチャー&プランナーの中村圭さんが解説します。

台頭するeコマース

 アパレルや日用品など、eコマースの台頭が現実的なものとなり、既存小売業界は大きな岐路を迎えています。

・豊富な品ぞろえ
・容易な比較購買
・低価格
・いつでもどこでも購入できること
・自宅で商品を受け取れること
・個人購入履歴からパーソナルなサービスが可能なこと

など、消費者の利便性の点においてeコマースの方がリアル店舗を大きく上回る可能性があると言えます。

 既存小売業界は、急ピッチで新たなリアル店舗の価値観を模索しなければなりません。その回答のひとつと考えられているのが「体験型店舗」です。

体験型店舗とは何か

 体験型店舗とは大きく言うと、リアルに商品を試せる機能を強化した店舗を指します。

 店内のサンプルで実際にメークできるコスメショップや実際の使い心地を確認できる家電メーカーの直営ショップなどがそうで、今は街中でそのような体験型店舗を目にする機会も多くなってきているのではないでしょうか。

2020年1月10日、JR原宿駅前にグラウンドオープンした体験型店舗「@cosme TOKYO(アットコスメトーキョー)」(画像:アイスタイル)



 アウトドアショップもアウトドアの楽しさを伝え、多彩なアウトドアグッズの使い方を実際に体験してもらうために同様の店舗が多くなっています。

海外ブランドの旗艦店に多く導入

 今、注目されているものはよりエンターテインメントやコミュニティー、パーソナライゼーションを重視し、体験の付加価値を追求した店舗です。

 ブランドにちなんだワークショップなど、その店ならではの「コト消費」が用意され、リアル店舗の体験価値を創造しています。一般的には対応しないさまざまなカスタマイズを可能として、自分オリジナルの商品が作れるサービスを展開する店舗もあります。

2019年12月17日、銀座にオープンしたデジタルと体験を融合したコンセプトストア「Maison KOSE」(画像:コーセー)

 また、商品によるライフスタイル提案型店舗は現在も多く存在しますが、商品だけではなく、スタッフのきめの細かい対応や顧客に寄り添うサービスによって顧客のライフスタイルをサポートし、ブランドのファンを増やしてコミュニティー化を図る店舗も見られます。

 このような体験型店舗は海外ブランドの旗艦店に多く導入され、ブランドのファンの期待に応える象徴的な店舗となっています。いくつか例を挙げてみましょう。

自分にぴったりのシューズを解析するサービスも

 2017年10月にリニューアルオープンした「アディダス ブランドコアストア 新宿」(新宿区新宿)はさまざまなギアを実際に試すことができる体感型のコンテンツを導入。「TEST & CREATE フットボール」はシューズを試着してキックターゲットやシュート速度の測定ができ、友人と対戦型のゲームも可能です。

2017年10月にリニューアルオープンした「アディダス ブランドコアストア 新宿」(画像:(C)Google、アディダス ジャパン)



 そのほか、自分により適したシューズが解析できる「RUN GENIE(ラン ジーニー)」を活用したランニングスペースおよび無料シューズ分析、アパレルに文字やロゴをマーキングすることができるプリントショップ、自分だけの1足を自由にカスタマイズできる「mi adidas(マイ アディダス)」コーナーなどがあります。

ジーンズ作りを体験できる店舗も

 2019年7月26日(金)にオープンした「リーバイス 原宿 フラグシップストア」(渋谷区神宮前)では世界に1本しかない自分だけのジーンズを作る「ロット・ナンバーワン」が話題となりました。

2019年7月26日にオープンした「リーバイス 原宿 フラグシップストア」(画像:いいい)

 デニム生地に加え、糸、レザーパッチ、リベット・ボタン、ポケットなどのディティールを指定し、リーバイス テーラーが全工程を手作業で行います。また、もっと手軽に既製品をカスタマイズできる「テーラーショップ」、オリジナルTシャツが作れる「プリントショップ」も併設しています。

ジーンズ作りを体験できる店舗も

 アパレルの体験型店舗のモデルと言われているのがカナダ・バンクーバー発のアスレチックウエア・プレミアムブランド「lululemon(ルルレモン)」です。2019年4月6日(土)には国内初の体験型店舗「lululemon Harajuku」(渋谷区神宮前)がオープンしました。

2019年4月6日にオープンした「lululemon Harajuku」(画像:Lululemon Japan)

 最新のVRを使用したメディテーション(瞑想)やヨガ体験などが話題となりました。2階には提携のヨガスタジオ「IGNITE YOGA STUDIO」を導入しています。

 ストアコンセプトは“lifestyle innovator”。無料でヨガやランニング体験ができる「コミュニティークラス」に加え、店舗のスタッフ「エデュケーター」が積極的にゲストのライフスタイルと関わることでコミュニティーが広がっています。

目黒にできたコーヒーのワンダーランド

 アパレル以外でも体験型店舗が導入されています。2019年2月にオープンした「スターバックス リザーブ ロースタリー 東京」(目黒区青葉台)はコーヒーのワンダーランドとして誕生した体験型店舗。

2019年2月にオープンした「スターバックス リザーブ ロースタリー 東京」(画像:スターバックス)



 スターバックスの同施設は世界で5店舗目、日本では初です。1階では焙煎(ばいせん)工程の見学ができるほか、今までにないティー専門フロア「ティバーナ」や、バー、ベーカリーがあります。また、4階ではさまざまなセッションが実施されて、消費者とのコミュニケーションの場ともなっています。

最新の体験型店舗・リテールシアターとは

 現在、ニューヨークではリテールシアター「House Of Showfields」(ニューヨーク州ノース・オブ・ハウストン・ストリート、期間限定)が話題になっています。

 リテールシアターは「顧客参加型店舗」とも言えるもので、利用者は設定されたストーリーに当事者として参加し、ストーリーに沿って演出されている店内で展示されている商品を試したり、試食をしたり、最終的にショップで商品を購入したりすることができるものです。

 いわば、イマーシブシアター(建物空間を回遊しながら自らが登場人物の一員となる体験型演劇)の中で試食やショッピングができる体験型店舗と言えるでしょう。

House Of Showfieldsのウェブサイト(画像:House Of Showfields)

「House Of Showfields」ではMrs. Showfieldsの家という設定で、スタッフはMrs. Showfieldsの従業員になります。導入部分が滑り台になっていたり、アーティスティックな空間演出があったり、アトラクション要素のある内容です。今後、リテールシアターは日本にも上陸する可能性があるでしょう。

エンターテインメントとしての可能性

 リテールシアターはメーカーの商品プロモーションの意味合いがあり、この形態が日常的な商品の店舗形態になっていくというものではありません。

 イベントとして楽しむもので、落ち着いて買い物したい人には向かないでしょう。しかし、リアル店舗での体験価値を追求していくと、たどり着く形態のひとつかもしれません。エンターテインメントの視点で見ると興味深く、さまざまな可能性が広がっていくと考えられます。

 例えば、テーマパークのアトラクション内で登場人物となってつまみ食いやショッピングができるなど。国内のテーマパークではすでにイマーシブシアターを導入して人気を博しているところもあり、今後の展開のひとつとしてメーカーとコラボすることも考えられるでしょう。

 いずれにしても、今、リテールとエンターテインメントがボーダーレスとなった店舗やイベントが注目されており、今後さまざまな形で開発される可能性があります。ご興味のある方はさまざまな分野の体験型店舗をご利用になってみてください。

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