子ども虐待防止社会への光となるか? 児童養護施設でも養子縁組でもない「養育家庭」制度とは

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子ども虐待防止社会への光となるか? 児童養護施設でも養子縁組でもない「養育家庭」制度とは

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一般的によく知られる養子縁組と比べ、認知度が低い「養育家庭(里親)」制度。そんな同制度について、アーバンライフメトロ編集部が児童相談センターにインタビューを行いました。

「養育家庭」とは何か

 子どもへの虐待事件が世間を騒がせるたびに、わき上がる「育てられないなら、養子に出せばいいのに」という声。いったいなぜでしょうか。その理由は世間一般で、

「実家族と離れて養育される子どもの行き先 = 養子」

という認識が根強いからでしょう。

 しかし養子縁組でもなく施設でもなく、実家族以外の家族とともに子どもが生活できる存在があります。それが「養育家庭(里親)」です。

養育家庭のイメージ(画像:日本法規情報)



 養育家庭の制度とはどういったものなのか、そして東京の養育家庭の現状について、児童相談センター(新宿区北新宿)相談援助課 養育家庭専門員の山木さんにお話を聞きました。

東京都では約4000人が対象

 現在、実家族と離れて暮らしている0~18歳の子どもは全国で4万5000人(東京都は約4000人)と言われ、このうち約8~9割が児童養護施設や乳児院で生活し、その他がファミリーホームや養育家庭などで生活をしています。

児童相談センターの外観(画像:アーバンライフメトロ編集部)

養育家庭とは、養子縁組を目的とせず家庭で暮らすことのできない子どもを一定期間養育する制度です。

――「養育家庭」についてその概要を詳しく教えてください。

 親の経済的事情や病気、離婚など、何らかの事情で家庭生活を送れない子どもを公的に育てる仕組みを「社会的養護」と呼びます。この社会的養護は施設養護と家庭的養護に分けられ、家庭的養護のうちのひとつが養育家庭という公的制度です。

子どもの健やかな発育を促すのが目的

 養育家庭は、実親もしくは実親族が親権者で子どもを里子として里親が受け入れ、一定期間子どもを養育します。里親は子どもと実家庭との養育をつないでいく役割を持ち、養子縁組を目的としません。

 そのためいずれは家庭復帰をし、実親族との生活を再開する子どもも増えています。特定の大人である里親との生活を通し、子どもの愛着形成や健やかな発育を促すのが大きな目的です。

――どのような人が里親になれるのでしょうか。

 都内在住の健康な人で、ご夫婦、ご夫婦同様の世帯、独身であれば成人の親族などの同居者がいること、経済的に困窮していないこと、申し込みの動機や居住環境などさまざまな条件があります。

数か月程度の交流期間を経て決定

 ちなみに、実子の有無は関係ありません。また児童相談所へ問い合わせをした後、申請条件の確認や認定前研修、家庭調査、児童福祉審議会での審議などを経て、東京都知事から認定・登録となります。

 子どもの紹介は認定登録後、候補児童の状況をご相談しながら進めていきます。紹介や引き合わせ、数か月程度の交流期間を経て、子どもとの関係形成を見極めてから委託が決定します。

心に傷を負った子どものイメージ(画像:写真AC)



――施設ではなく養育家庭で育つこととは?

 社会的養護が必要な子どもの中には、心や体に傷を負った子どもも少なくありません。しかし家庭的な環境でより個別的に関わることで、心が安定し、発達にいい影響を与えることがあります。実例で言うと、養育家庭で生活することで言葉や行動の発育が伸びた子どもや、里親という大人に初めて甘えられたという子どももいます。

都の制度とはいえ低い認知度

 しかし、里子はいずれ自立したり実親の元へ戻ったりしますし、子どもにとってやはり親は親。幼児期からの養育であれば、「里親子の関係である」という真実告知のタイミングや、委託中に実親族とどのくらい交流すべきなのか、など子どもひとりひとりの特性に寄り添った養育のため、里親も私たちもさまざまなことを個別に対応しています。

――ほかに里親になる上でどういった点が大変なのでしょう。

 途中からの養育のため、委託中は楽しいことやうれしいこともあれば大変なこともとても多いです。私たちとしても里親を増やしたい気持ちはありますし、里親支援専門相談員などの定期訪問や里親のサロンの開催などフォロー体制は整えています。

 しかし、里親登録希望される人には「楽しいことばかりではないこと。とにかく大変ですよ」と伝えています。

里親の「会いたい」がかなわないケースも

 また、長期養育の予定が変更になり実家族に復帰することもあれば、逆に短期養育の予定だったにも関わらず延期することもあります。

 そして施設や実家族に戻った後には、実子のように養育して愛着が湧いた里子に対して、里親が「会いたい」と願っても、子どもの精神的安定や環境によってはかなえられないこともあると了承してもらわなくてはいけません。

――2歳の時に受け入れをした里子を10年間、里親として養育している人のお話を聞きました。委託後は子どもが家庭環境に慣れるまで1カ月間は里母が仕事を休んでゆっくり過ごしたいと思ったが、会社では里子は育休対象外だったため休むのが大変だったと。

 都の制度ですが認知度はまだ高くないため、各会社や周囲の理解が追いついていないことが現状です。共働き夫婦の場合は、子どもが新しい家庭環境に慣れるまでどちらかが休暇を取ったり保育園入園のために奔走したりすることも珍しくありません。

実子を育てる以上のハードルがある

 また委託後のさまざまな手続きに、とにかく手間とエネルギーが必要になります。里子は健康保険には加入できませんが、保険証の代わりとして児童相談所発行の「受診券」を利用することになります。

 しかしその受診券を病院の窓口に提出した際に、いぶかしがられたり手間取ってしまったりも。さまざまな面で、実子を育てること以上のハードルがあることは事実です。

病院のロビーのイメージ(画像:写真AC)



 さらに委託中は東京都の基準に基づいて養育費が支給されますが、児童手当や給付金の管理、定期的な養育状況報告書や収支状況の提出なども必要になります。

――東京都では養育家庭は多くないと聞きました。

 養育家庭数がまだ1桁という自治体もあります。近隣との付き合いが希薄だったり、養育家庭としての基準以上の広さや部屋数がなかったりする住環境など、都心ならではの難しさが背景にあるでしょう。また、保育園に入れないために仕事と養育の両立を諦めてしまうケースもあります。

「私を生んだ親じゃないんだよ」「ふーん」

 毎年秋に養育家庭(里親)体験発表会を開催したり、イベントやお祭りで養育家庭を知ってもらうブースを出したりと、各自治体で普及活動は行われています。また東京都からの委託による「TOKYO里親ナビ」というウェブサイトでは、里親や養子縁組をされているさまざまな家庭を紹介しています。

「TOKYO里親ナビ」のウェブサイト(画像:写真AC)



 ただ先述の通り、まだまだ認知度は高くありません。今は里親認定基準などがいろいろと変わっている過渡期ではありますが、まずは「養育家庭」といった言葉だけでも知っていただけたらと思います。

――存在を知らないことが色眼鏡や偏見にもつながりますもんね。

 友達に自分の里親を「このパパとママ、本当は私を生んだ親じゃないんだよ」と紹介したら「ふーん」とだけ言われた小学校2年生の子がいました。また、友達に里子だと伝えたら、「私もパパが再婚してるから、ママは本当のママじゃないんだよ」とあっけらかんと言われた子の話も聞きます。

 里親の話では、里子のパスポート申請の時に戸籍上の名字が違うことで窓口の人から「大変ですねえ」と同情的に声をかけられ、なんとなく嫌な気持ちになった人もいました。

「施設にいた、かわいそうな子」は不要

「施設にいた、かわいそうな子」と見る人もいるかもしれませんが、そんな偏見は不要ですし、なにより養育家庭の里親も里子も本当に一般人たちです。

 里親についてはホームステイ先のホストファミリーや下宿屋のおじさん、おばさんに近いと思います。ホストファミリーと一緒に暮らす子どもを、「かわいそう」とは思わないですよね。養育家庭として子どもを育てることはとても大変であることは間違いないのですが、認知度が高まる上でそうした偏見や誤解もなくなっていくといいなと思います。

※ ※ ※

 インタビューを通じて、実親と一緒に暮らせない子どもでも養育家庭で育つことは、自己肯定感や基本的信頼感を十分に得ることができると感じました。また養育家庭として里子を受け入れる里親は、子どもを地域や社会で育てていくためにとても重要な存在ではないでしょうか。

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