都内の「エスニック食材店」から香り漂う、懐かしき日本の情景

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都内の「エスニック食材店」から香り漂う、懐かしき日本の情景

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室橋裕和

アジア専門ライター

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東京で急増するアジア系の食材店は、外国人のコミュニティーにもなっています。その魅力について、アジア専門ライターの室橋裕和が解説します。

そこはエスニック・テーマパーク?

 ずらりと並んだスパイスは、すべて産地直送。生のままパッケージがされた、日本のスーパーマーケットでは見ないようなものもたくさん。ハーブのかぐわしい香りも漂ってきます。

外国人コミュニティーでは欠かせない存在の食材店(画像:室橋裕和)



 隣の棚はさまざまな豆類で埋め尽くされています。大豆やひよこ豆くらいはわかるけれど、あとはなにがなにやら。

「ボクたちネパールやインドの人たち、マメいっぱい食べるから。日本よりいろんな種類あるでしょ」

と、後ろから店主の笑い声。

 コメは日本のものと違って細長いインディカ米で、ぱらぱらとしていてカレーに合わせたりスパイスで炊き込んだりするのに合っているそう。これもやはりブランドがいろいろ。

 そんなコメを揚げてスパイシーに味つけたスナックもあれば、中東や南アジアでは定番のデーツ(なつめやし)、格安のカシューナッツなんかも並びます。

「スナックは1個200円だけど、3個なら500円でいいよ」

そんなことを聞かされると、あれもこれも欲しくなってしまう。この手の食材が好きな人にとってはちょっとしたテーマパークでしょう。

異国で暮らす上での拠点

 こうしたアジア系の食材店が、東京では急増しています。

 ネパール・ベトナム・イスラム系の大きな外国人コミュニティーがある新大久保や、ミャンマー人の集まる高田馬場、インド人の多い西葛西といった「有名どころ」だけではなく、ごくふつうの商店街や住宅街の一角に、ぽつりと店を開いていたりします。それだけ東京で暮らす外国人が増えているということでしょう。

こちらは西葛西。こうした店が東京のあちこちに増えている(画像:室橋裕和)



「食」は生活の基本です。異国に住む以上、異国の食卓にも慣れていかなくてはならないですが、どうしたって母国の味は恋しいもの。だからまず外国人コミュニティーでは、レストランと食材店が現れるのです。そして人が集まる場所になり、コミュニティーの核となっていく。

 それは日本人も同様で、タイや中国、アメリカやオーストラリアなど在住日本人が多い国では、やはり日本食材を売る店がにぎわい、日本食レストランが繁盛しています。在外日本人コミュニティーの中心もまた、こうした「食」にあるのです。

 どの国の人も外国に暮らすときには、こうした食材店に代表されるコミュニティーに頼るものなのです。その中で生活の基盤を整え、外国の社会へと飛び込んでいく。食材店は、異国にある外国人コミュニティーの、いわば「前線基地」のようなものなのかもしれません。

外国人も、日本人も溶け合う「社交場」

 お国柄のたっぷり詰まった食材店ですが、日本人の感覚ではちょっと入りづらい空気を醸しだしているのもまた確か。

新大久保にある南アジア系の食材店。食材から雑貨、スマホまわりのガジェットまでなんでもそろう(画像:室橋裕和)



 おしゃれな店構えでもないし、店先に段ボールが乱雑に置かれて、野菜やらお菓子やらが適当に積まれていたりもします。なぜだかスマホやパソコンの部品も一緒に並んでいるし、出入りしているのは店員だか誰なのかはっきりせず、なにもかもがアバウトな、よく言えばおおらか、悪く言うならイイカゲンな空気です。日本のコンビニやスーパーとは、明らかに世界が違います。

 なんだか海外旅行をしているような異国感ですが、思い切って入ってみると意外なほどフレンドリーに迎えてくれるでしょう。見たこともないスパイスや、日本にはない食材の使い方も、きっとあれこれ教えてくれます。たいてい皆さん日本語は達者です。

「日本人にもどんどん来てほしい」

と、あるバングラデシュ人の店主は言います。もっと地域に溶け込みたいと、日本の食卓とも共通している玉ねぎやにんじん、じゃがいもなどのベースとなる野菜も必ず並べるようにしているそうです。

昔ながらの日本の商店街によく似ている

 店内を見渡してみれば、食材以外にもいろいろなものが目につきます。

 現地のせっけんやシャンプーといった生活雑貨、日本で発行されているネパールやフィリピンや中国などのフリーペーパー、神さまを祭る祭壇もありもします。母国への送金ができるし、自動両替機を設置してある店も。外国人の暮らしぶりが、よく見えるのです。

 そしてひっきりなしに、おおぜいの人たちがやってきては言葉を交わし、握手をして、ひとしきり談笑していく。外からあいさつをして手を上げ、去っていく人も。

 その様子は、昔ながらの日本の商店街にもよく似ているのです。用はなくても立ち寄って、お互いに声をかけ合い、近況を話して、商売のぐちをこぼしていく。社交場なのです。彼らの故郷である東南アジアや南アジアでは、まだまだこうした文化が残っています。

昭和の商店街のイメージ(画像:写真AC)

 そんな懐かしさにつられてか、少しずつではありますが、地域の日本人も顔を出すようになってきています。生まれた国がどこかということよりも、人と人とのちょっとしたつながりを感じられる場所でもあるのです。もし近所に異国の食材店があったら、のぞいてみてはどうでしょうか。

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