中国人観光客で変わらぬ活況 団体旅行停止 初日の銀座を歩く

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中国人観光客で変わらぬ活況 団体旅行停止 初日の銀座を歩く

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内田宗治

フリーライター、地形散歩ライター、鉄道史探訪家

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新型コロナウイルスによる肺炎の拡大により、来日できなくなった中国人団体観光客。このことが日本に与える経済的影響とは。旅行ジャーナリストの内田宗治さんが解説します。

27日以降来なくなった中国人団体観光客

 新型コロナウイルスによる肺炎の拡大で、中国人の訪日観光客が多くなる春節(旧正月)が波乱に満ちたものになりました。

 2020年の春節は1月24~30日です。中国政府はウイルスを封じ込める緊急的措置として、1月27日から国外旅行を含むすべての団体ツアーを禁止しました。日本への中国人団体観光客は、27日以降やってこなくなったわけです。

 個人旅行やビジネス旅行は、禁止の対象外です。中国人観光客のうち、団体ツアーによるのは約4割と推定されています。ただし個人やビジネス旅行でも自粛の動きがあるため、訪日中国人はしばらく激減する可能性が大と思われます。

 現在最も重要なのは、感染拡大を防止することです。そして次に気になるのが、中国人の訪日観光客が激減した場合の経済的影響でしょう。

常時十数人の来店客でにぎわうブルガリ

 春節の半ばとなる1月27日(月)、東京の銀座を訪れてみました。数日前に中国を出発した多くの団体観光客が日本にやってきているので、銀座は今のところ例年の春節と同じ光景が繰り広げられていました。

春節中盤、銀座に大型バスで買い物に来た中国人団体ツアー。2019年1月27日撮影(画像:内田宗治)



 中央通り銀座2丁目交差点の角には、シャネル、ブルガリ、ルイ・ヴィトン、カルティエが店を構えています。店の入り口にドア・ボーイが立ち、重たそうなドアをうやうやしく開けてくれます。

 そこへおしゃれに着飾った人、ラフな服装な人含め、中国人観光客が次から次へと入っていきます。特に高価な宝飾が並んでいるブルガリの店内に、常時十数人の来店客がいる光景は、普段の様子を見慣れた人にとっては異様に感じます。

中央通りの歩道でスーツケースを広げる人も

 新型コロナウイルスの流行で話題となったこととして、「接客業なのでマスクを付けられない」ことへの賛否論争がありました。

 この日、上記の店などいわゆる一流ブランド店で見た限りでは、接客スタッフでマスクをしている人とそうでない人が半々くらいでした。中には、見た限り全員がマスクをしていない店もありました。

銀座の中央通りには、中国人団体ツアーのバスが何台も並ぶ。2019年1月27日撮影(画像:内田宗治)



 店内が大混雑のアップルの店でも、スタッフのマスク率は半々、また東急プラザ銀座8~9階の「ロッテ免税店 東京銀座店」(中央区銀座5)や、中国人に人気の「ラオックス 銀座EXITMELSA」(同)では、接客スタッフ全員が白いマスクをしているのが印象的でした。

 概して高級な店になればなるほど、店のスタッフがマスクをしている率が低くなり、一方来店客は、マスクをしている率が高くなるという傾向も見られました。マナーや健康を重視する人が、高級店を訪れる人には多いようです。

 高級ショップ以外にも中国人観光客は多く、特に銀座6~7丁目あたりの中央通りには、団体用観光バスが何台も止まり、店の前にはバスの待ち合わせの人が集まっています。

 中央通りの歩道でスーツケースを広げ、買った品物を整理しながら押し込んでいる人も見かけました。これらもこの5年以上、毎年の春節に銀座で繰り広げられてきたものです。

データでわかる外国人観光客の買い物金額

 銀座に限らないことですが、こうした中国人観光客が減った場合、日本はどうなるでしょうか。各地の宿や飲食店・ショップなど、業態別にさまざまな事態となるでしょうが、ここでは全体的な統計で見てみます。

ロッテ免税店東京銀座店が8~9階に入る東急プラザ銀座。2019年1月27日撮影(画像:内田宗治)



 2019年の訪日外国人観光客数は3188万人(前年比2.2%増)なのに対し、中国人が959万人(同14.5%増)と、全体の30%を占めています。

 訪日外国人観光客が使ってくれるお金の総額(訪日外国人消費動向。観光庁調べより)は4兆8113億円。うち中国人は1兆7718億円で、全体に占める割合は37%に達しており、3分の1を越えるウエートです。

買い物金額、中国人観光客は米国人の約5倍

 2019年の、訪日外国人観光客ひとりあたりの買い物金額を見てみましょう。

1位:中国人(10万8800円)
2位:ベトナム人(5万8191円)
3位:ロシア人(4万4340円)

 中国人観光客がダントツの1位です。このほか主な国では

・米国人(2万3396円)
・英国人(2万443円)
・オーストラリア人(3万1714円)
・韓国人(1万7942円)
・香港人(5万1822円)
・シンガポール人(4万1920円)

などとなっています。

 中国人観光客は、日本に滞在中、米国人の約5倍、韓国人の約6倍も使ってくれています。2位がベトナムなのが意外ですが、ベトナムからの観光客の平均泊数が37泊と長いためと思われます(中国は平均7.4泊)。

 中国人観光客の「爆買い」が流行語大賞となったのは2015年。この年の中国人観光客ひとりあたりの買い物代は、平均16万1973円に上っていました。統計的には、爆買いは規模が縮小してきています。

訪日中国人観光客の使用金額は年間約2兆円

 中国人観光客は、すべての面で多額のお金を使っているわけではありません。日本でのひとり1泊あたりの宿泊代は6131円で、シンガポール人8634円、英国人8614円、米国人6925円より低く、韓国人5002円と比べてもその差はさほど大きいわけではありません。

 また、ひとり1泊あたりの飲食代は中国人4962円で、シンガポール人5718円、英国人5182円より低く、米国人4012円、韓国人4203円と比べても、その差は驚くほどではないといえるでしょう。

各国のひとり1泊あたりに使う宿泊代と飲食代(画像:ULM編集部)



 まとめましょう。中国人観光客が日本で使うお金は、今や年間2兆円に迫る勢いです。日本の2018年の国際(経常)収支が19.2兆円に対して約1割にあたり、日本経済全体に多大な影響力をもつことがわかります。

 もし中国人観光客の激減が続いたら、高級ブランド店のほか、ドン・キホーテなど人気格安店への影響が特に大きいでしょう。ホテル業界も東京、京都、大阪といった中国人観光客が多い都市で、高級なところからそうでないところまで、満遍なく宿泊者減に見舞われるでしょう。

求められる中国一局集中からのリスクヘッジ

 以前、本媒体に書いた記事「韓国人観光客『48%減』が問う、平和産業としての『観光』と観光立国・日本のとるべき道とは」でも強調しましたが、観光産業にはテロ、戦争、伝染病、経済恐慌といったリスクがつきまといます。

ヨドバシカメラ 新宿西口本店にも「春節」の看板が。2019年1月27日撮影(画像:内田宗治)

 そうした事態が起きると、当事者国からの観光客が激減してしまうのです。日本への観光客として中国人がどんどん突出して多くなると、それが大きく減った時の影響が大きすぎます。そのため、常日頃からリスクヘッジへの取り組みが必要です。

 コロナウイルス感染が今後終息を迎えた時、中国人観光客を誘致しないというのではなく、中国からの一局集中を緩和させる形で、リスクヘッジとして複数国からの観光客誘致に積極的に取り組む必要があります。

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