SNSの「匂わせ投稿」と新型コロナで見えた、若者の恋愛離れのウソ
「若者の恋愛離れ」はウソだった? テレビやネットのニュースなどでしきりに言われる「若者の◯◯離れ」という言葉。皆さんも聞いたことがあると思います。中でも「若者の恋愛離れ」や「結婚離れ」は、少子高齢化などの社会問題にもひも付く重要なテーマとして捉えられています。 新型コロナウイルスの影響で若者の恋愛が「プラトニック化」している?(画像:写真AC) それにしても、Z世代(1996~2012年に生まれた若者たち)の間で、本当に恋愛離れは起こっているのでしょうか? よく耳にする話題ではありますが、Z世代の流行や価値観についてヒアリング調査や分析を行っている私たち「Z総研」としては、一概にYESとは言えないものと考えています。 交際相手は「いない」、だけど「欲しい」 確かにその手の調査を見れば、恋愛と縁遠い若者が少なくないという結果が出てはいます。 毎年、新成人に対する意識調査を行っている結婚相手紹介サービスのオーネット(中央区晴海)によると、2020年の新成人のうち「これまでに交際経験がない」若者は全体の約4割。「現在交際相手がいない」人は70.4%に上りました。 2020年の新成人のうち「現在交際相手がいる」と答えたのは全体の29.6%(画像:オーネット) この数字だけを見ればZ世代が恋愛から離れているように感じるかもしれませんが、また別の調査では「恋人が欲しい」と考える若者も7割を占めています。 実際、積極的に恋愛を楽しんでいる若者たちの例を挙げてみましょう。 憧れの対象は恋愛リアリティーショー憧れの対象は恋愛リアリティーショー 2019年ごろの一時期、高校生などの間で「キス動画」をSNSにアップするブームがありました。それだけでなく、今やYouTubeやTikTokでは恋人同士で出演する「カップルチャンネル」を運営している若者もいて、同世代に人気のコンテンツのひとつになっています。またInstagramなどのSNSでカップルアカウントを作り、交際の様子をアップしている人たちも少なくありません。 AbemaTVやAmazonプライムビデオといった映像メディアでは、「テラスハウス」をはじめとする恋愛リアリティーショーが人気。そこから誕生したカップルに対して憧れを抱いているファンも数多くいます。 「結婚意欲」を鈍らせる不倫報道 しかしその一方で、彼らの「結婚意欲」にブレーキを掛けてしまっているのが、テレビやウェブメディアでたびたび報道される芸能人の不倫や浮気についてのニュースです。 ただでさえ3組に1組の夫婦が離婚すると言われている時代。結婚をして家族になっても、待ち受けているのは幸せな日常とは限らない、結婚とは必ずしもいいものではない――そういった暗示を、彼らはマスコミが発信する情報から受け取ってしまっているのです。 結婚しても幸せな日々が続くとは限らない……若者にそんな不安を抱かせる芸能人の不倫報道(画像:写真AC) 加えて、年々進行している「晩婚化」があります。国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集2020年版」によれば、東京の平均初婚年齢は全国で最も高い男性32.3歳、女性30.4歳で、彼らにとっては遠い遠い未来の話です。 かつて誰もが思い描いていた、結婚をして子どもを産んでマイホームを建てて……という未来図は、Z世代にとって「絶対に成し遂げなくてはならないもの」ではなくなり、無条件で憧れを抱く対象ではなくなりつつあります。 以上をまとめると、恋人と楽しい時間を過ごすことへの憧れ(恋愛意欲)は持っていても、結婚はしなくても構わない、と考える(結婚意欲を持たない)若者が多くなっているのではないか、というのがZ総研としての分析です。 賛否両論も? 若者の「匂わせ」テク賛否両論も? 若者の「匂わせ」テク それでは若者の恋愛意欲について、もう少し掘り下げてみたいと思います。 SNSが発達した今、恋人との関係を周囲にアピールする場所もSNSです。先述した通り、カップルで共有のアカウントを作って思い出を投稿する人たちも数多くいます。 そんななか、恋人がいることを直接公言するわけではないけれど「なんか怪しいな」と周囲に思わせる投稿がはやっているのをご存じでしょうか。 いわゆる「匂わせ」と呼ばれるもので、例えば画像をアップするにしても、恋人を直接写さないものの恋人がいることをほのめかすこと。「匂わせ」の要素をふんだんに用いた日清食品(新宿区新宿)の商品プロモーション動画(2020年4月公開)は、SNSでも大いに話題になりました。 若者にはやっている「匂わせ」の要素をふんだんに用いて話題になった日清食品の商品プロモーション動画(画像:日清食品)「付き合いたてだから恋人との写真を載せるのはなんだか恥ずかしいけど、やっぱり投稿はしたい!」という人や、「恋人の存在をあえて堂々とは明かさないけど、『何かあるな』と周りに思わせたい」人など、その動機はさまざま。 さらに「匂わせ」の方法も実に多彩で、相手の顔は写っていないけれどカフェのテーブルの向かい席に明らかに誰かがいると分かるような画像や、相手との通話が終わった後の通話時間の画面スクリーンショットなど、どの表現も工夫に富んでいます。 ただ、こうした「匂わせ」もまた多くの場合、相手に直接会えればこそできたもの。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛によって、恋人同士が会う機会は激減してしまいました。そしてそれに合わせるように、若者の恋愛の仕方は徐々に変化を見せているようです。 カメラ越しに芽生える「新しい恋」カメラ越しに芽生える「新しい恋」 恋人に直接会えなかったり、気になっている相手やマッチングアプリで知り合った人とデートできなくなってしまったりといった現状、ビデオ通話を使って“デート”をする「オンラインデート」が盛んに行われるようになりました。 代表的なテレビ会議システムZoomを用いて話をしたり、画面共有機能を使って一緒に映画を見たり。最近ではLINEでも通話をしながらYouTubeを再生できるようになりました。 このオンラインデートに関するアイデアは非常に面白くて、例えばGoogleストリートビューを使って一緒にバーチャル散歩をしたり、一緒に勉強したりと、単にビデオ通話をするだけにとどまりません。 アプリで知り合った人と話すにしても直接会わなくて済み、「なんか違うな、と思ったら電波や充電を言い訳にして切ることもできるから、安全だし安心」と話す女性もいます。知らない人といきなり会うのは危険、と考える若い女性にとってはリスクヘッジのひとつにもなっているようです。 いつか会える日を楽しみに……オンライン上での交際を始めた若者たち(画像:写真AC) そして、実際にオンライン上で出会い、Zoomで会話などをするうちに交際に発展した人もいるそうです。まだ直接会ったことがないという、生まれたての若いカップル。彼らはきっと、誰よりも新型コロナの収束を願う人のひとりでしょう。 また、このような状況で直接会わない選択をできるかどうかという点は、相手の倫理観やマナー意識を判断する材料のひとつにもなっているとのことです。 直接会える日を心待ちに、自粛期間でもさまざまな方法を模索し、自らクリエイトして恋愛を楽しんでいる姿を見ると、やはり若者が恋愛離れをしているとは、一概には言えないように思われます。
- ライフ