名だたるIT企業が渋谷に本社を構える合理的理由

渋谷には、IT系やアパレル系などの企業が多数所在しています。なぜ渋谷はこうした企業の「集積地」となったのか。消費者経済総研チーフ・コンサルタントの松田優幸さんが解説します。


名だたる大手企業が渋谷を選んだ

 以前から渋谷は、IT系やクリエーティブ系の企業が数多く集まる街です。

 IT系企業が集まったので、1990年代後半には「シリコン・バレー」を模倣して「ビット・バレー」と呼ばれていたほどです。2000年以降もこの流れは続きます。

 アマゾン(目黒区下目黒)とライン(新宿区新宿)が2000(平成12)年に、グーグル(渋谷区渋谷)が2001年に日本展開をスタートさせた際、オフィスの拠点として最初に選んだのが渋谷でした。アップルジャパン(港区六本木)や日本マイクロソフト(港区港南)も、かつて渋谷区に本社を構えていたことがあります。

 グーグルは2010年に1度渋谷を離れて六本木ヒルズ(港区六本木)へと移転しましたが、2019年、複合施設「渋谷ストリーム」に入居し、渋谷へのカムバックを果たしています。

 日本のIT企業はどうでしょうか?

 サイバーエージェント(渋谷区宇田川町)とミクシィ(同区東)は2019年11月に開業したばかりの「渋谷スクランブルスクエア」(同区渋谷2)に、 DeNA(同)は「渋谷ヒカリエ」に、GMOインターネット(同区桜丘町)は「セルリアンタワー」と「渋谷フクラス」(同区道玄坂)を選んでいます。

 この国内大手IT企業4社は、いずれも東急グループの渋谷駅周辺の物件を選択しているのが特徴的と言えるかもしれません。

センター街から臨む渋谷スクランブルスクエア。繁華街とオフィスビルが同居する独特の街並み(画像:写真AC)



 クリエーティブ系の企業にも目を向けてみましょう。

 東急が進めた渋谷開発は、駅周辺のみならず南北へと大きく広がりを持っています。次の2物件が南北それぞれの中核的な存在となっています。

 まず南側エリアの複合施設「渋谷ブリッジ」(同区東)ですが、ここには博報堂ケトルを筆頭にさまざまなクリエーティブ企業が入居。もう一方の北側エリア、「渋谷キャスト」(同区渋谷)には、ファッション系のクリエーティブ大手・ベイクルーズグループ本社などが入居しています。

なぜ渋谷を選ぶのか?(1)国内IT企業の場合

 国内IT企業が渋谷を拠点に選ぶ理由は何か。対照的な業種を例に考えてみましょう。

 例えば非技術系のビジネスマンは、さまざまな関係者・取引先へ出向いて打ち合わせや会議、取材などを行う、移動の多い職業です。大勢の人と会い話をするという仕事柄、夕方には声がかすれてしまうという人もいるほど。

 それだけ移動が多いのならば、関係先の近くにオフィスを構えるのは当然です。古くから東京のビジネスの中心地だった丸の内・大手町かいわいには、多くの企業が集まり、より巨大なビジネス街を形成していきました。

 丸の内・大手町のオフィスビル需要は高く、賃料も国内トップクラスの水準を保ち続けています。一方の渋谷はというと、丸の内・大手町から離れているということもあり、 以前はオフィス需要も比較的少なく賃料にも割安感がありました。

 この「割安感」が新興企業であるIT系のニーズにマッチしました。さらにその業務内容と照らし合わせても、プログラマーやシステムエンジニアはプログラミングやシステム設計に没頭する場面が多いので、取引先への移動・面談が比較的少ない傾向にあります。

 そのため丸の内・大手町に近い必要性がさほどなく、賃料が当時まだ安かった渋谷を選ぶことが多かったのです。

 また渋谷駅はターミナル駅ですから、さまざまな路線が利用できて通勤に便利というメリットがありました。

渋谷とは対照的な街並みが広がる「ビジネスの中心地」丸の内・大手町(画像:写真AC)



 言うまでもなく丸の内・大手町もまた、交通の中心地であり、伝統・風格・格式・貫禄を擁する街。それを評価する人々や企業が多いのはご存じの通りです。

 一方、その「カウンター」のようにして成長してきたビジネス街としての渋谷は、ネクタイや背広が好きではなく、また新しいことやエキサイティングなことが好きな人が比較的集まりやすい傾向にあります。

 IT企業などで働く若い社員の感性が「渋谷という街の感性」に近いというのも、渋谷が新興企業に選ばれる理由のひとつかもしれません。

なぜ渋谷を選ぶのか?(2)外資系の大企業の場合

 続いて、外資系の大企業が渋谷を選ぶ理由について。

 歴史的に、外国人は自国の大使館近くに居を構えることが多いという傾向がありました。東京で大使館が多いのは港区。東京の北側や東側ではなく、いわゆる城西・城南エリアです。

渋谷区桜丘町のセルリアンタワー。2019年11月に開業した渋谷スクランブルスクエアが完成するまで、渋谷の最高層建築だった(画像:写真AC)



 外資系企業の外国人、特に欧米系の大企業のエリートたちは、城西南を好みました。彼らは住環境に対する意識が高く、日本の「ウサギ小屋のような住宅」が苦手です。そして通勤ラッシュも、できる限り避けたい苦痛のひとつ。

 なるべく職住近接したいという意識や、城西南志向から、外資系企業のオフィスが渋谷区や港区を候補に挙げるのはうなずけるかと思います。

 なお、外資系IT企業のサン・マイクロシステムズの日本法人本社は、さらに西南方面の「世田谷ビジネススクエア」(世田谷区用賀)を選びました。

なぜ渋谷を選ぶのか?(3)ファッション業界の場合

 最後に、アパレル系の企業が渋谷を選ぶ理由について。

 アパレル業界では、「渋谷区千駄ヶ谷」に本社や東京支店などを構えることがある種のステータスとされてきました。取引先や関係企業もまた、千駄ヶ谷に近い場所に多く集まる傾向があります。

 千駄ヶ谷は渋谷区の中でも北側に位置します。ベイクルーズグループが渋谷の北側の渋谷キャストを本社の場所として選択したのも、こういった理由があるからでしょう。

 常に注目を集める渋谷の開発事業においては、とかく商業施設にスポットが当たりがちですが、床面積という点で見てみれば、オフィス施設も相当な規模になるはずです。

※ ※ ※

 かつてセンター街や109周辺に集まる「若者のための街」というイメージが強かった渋谷。それが近年の再開発によって、年齢層の高い大人たちも集まる商業エリアへと変貌を遂げました。

 そして大手町・丸の内の「カウンター」として形成されたオフィスエリアには、最先端のビジネスマンたちがつどう――。こうした視点から見ても、渋谷という街が極めて多面的で多様性に富んだ街ということを感じられるのではないかと思います。


【一目瞭然】各国の大使館が港区・渋谷区に集中している様子が分かる俯瞰図

画像ギャラリー

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