子どもの「学力格差」を生み続ける、打倒すべき敵の正体

  • ライフ
子どもの「学力格差」を生み続ける、打倒すべき敵の正体

\ この記事を書いた人 /

中山まち子のプロフィール画像

中山まち子

教育ジャーナリスト

ライターページへ

東京都の一斉学力テストからわかる学力格差拡大の原因について、教育ジャーナリストの中山まち子さんが解説します。

学力格差の是正を狙っている面も見え隠れ

 毎年4月、主に全国の公立小中学校生を対象に行われる全国学力テスト。同テストは2007(平成19)年度からスタートし、2019年度で13回目を迎えました。本年度の東京都の結果は、小学生が国語と算数の総合で7位、中学生が国語、算数と英語の3教科総合で6位と高い順位となっています。

 また東京都では独自に児童や生徒の学力向上を図るための調査を毎年実施しており、今回はその意図などについても考えていきたいと思います。

 東京都は全国学力テストと同じ2004年度から、小学5年生と中学2年生全員を対象に一斉学力テストを実施しています(中学生は2003年度から)。その後、公立中の中学1年生と小学4年生を対象とした時期もありました。

生徒と学力テストのイメージ(画像:写真AC)



 一斉学力テストは、小学生では4教科(国語・算数・理科・社会)、中学生は5教科(国語・数学・英語・理科・社会)と、主要科目全てでテストを実施しているのが特徴です。

 生徒がつまずきやすい単元(教科指導の単位)や問題を全教科で細かく分析し、生徒たちの理解力を向上させようとしている東京都の意図がうかがえます。

 一方、東京という土地柄もあり、早い年齢から塾に通っている生徒とそうではない生徒の学力格差が広がりやすい傾向があります。そのため、東京都は格差の広がりを危惧し、経済的な理由で塾に通えない生徒などの学力底上げや向上を狙っています。

家庭学習時間の格差

 一斉学力テストでは、生徒へのアンケートも同時に実施しています。2012年度からは家庭学習に関する質問も加わっており、興味深い結果が出ています。

 塾や習い事を除く家庭学習時間が1日2時間を超える生徒はテストの平均点が高く、家庭学習をしない生徒のテストの結果は低くなっています。この結果は当然ですが、小学校と中学校では、両者の差が異なっているのです。

生徒と学力テストのイメージ(画像:写真AC)



 質問が始まった2012年度は、小学5年生で1日の家庭学習時間が2時間以上の児童の平均は70.7点、学習時間のない児童の平均点は50.5点と、「20.2点」の差がありました。中学2年生に目を向けると、両者の差は「12点」になっています。2019年度の小学5年生は「23.5点」と差が少し開いてきている一方、中学2年生は「9.9点」にまで縮まっているのです。

 これは、学力上位層の児童の大半が、中学進学時に東京都の一斉学力テスト対象外である国私立中に進学していることが原因だと考えられます。

「自己肯定感」での格差

 中学生になると、学習時間以上に点数差が大きく開くのは「自己肯定感」の有無です。

 2019年度の生徒への「自分のことを大切な存在と感じていますか」という質問に対し、感じていると答えた生徒より、感じないとした生徒の平均点は「16.1点」も低いことがわかりました。小学生では同様の質問での差は「4.1点」だったことを考えると、思春期に突入し、精神面が勉学に影響していることがうかがえます。

 自分への評価が低く、「何をしてもダメな人間」と思い込んでしまうと勉強への意欲が湧いてこなくなります。保護者は単に「勉強しなさい」と子どもに声をかけるのではなく、小さなことでも褒めるなど、子どもの自信をつける言動を意図的に行っていくことが求められ、またそれが学力向上につながるのです。

小学生と中学生に共通する学力格差が大きい「朝食抜き」

 近年、東京都が力を入れていることのひとつが、朝食を食べる指導です。保護者世代からすると、「先生が『朝食を食べよう』と指導するなんて……」と戸惑いを感じますが、一斉学力テストのアンケートでは、朝食を食べる・食べない生徒の成績差が明確になっているのです。本年度の結果では必ず食べる子と食べない子の平均点を比べると、小学生では「18.3点」差、中学生では「13.9点」差となっています。

生徒と学力テストのイメージ(画像:写真AC)



 朝食を食べていないということは、生活リズムが乱れている証拠です。朝食抜きだと、午前中の授業内容が頭に入ってこないなど、学業の面でも格差が出やすくなります。おそらく、朝食を食べていない中学生はある日突然食べなくなったのではなく、幼少期や低学年からそうした生活習慣で育っていると考えられます。

 つまり、真に学力を向上させるには、地道に生活改善を指導していくことが必要なのです。

学力格差はさまざまな要因が絡んでいる

 このようなことから、生徒の学力格差は必ずしも学習時間の差だけが原因ではないと断言できます。勉強習慣はもちろんのこと、自分に自信を持ち、生活リズムを整えることが、真の学力向上に無くてはならないのです。

 今こそ、小学校低学年からの生活指導や自己肯定感の育成に取り組んでいくことが求められています。

関連記事